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【どこに向かう日本人の食生活】不測時でなく平時を基準に食料安保議論を 谷口信和東京大学名誉教授2022年6月29日

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コロナ・パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻などで世界経済が停滞する中で食料安定供給のリスクが浮上している。東京大学名誉教授の谷口信和氏に「食料安全保障」の観点から寄稿してもらった。谷口氏は「どこに向かっていくのか日本人の食生活」として「不測時ではなく平時を基準にした食料安全保障の議論を」という。

農政の最重要課題に浮上した食料安全保障

谷口信和東京大学名誉教授谷口信和
東京大学名誉教授

去る5月19日に公表された自民党の「食料安全保障の強化に向けた提言(中間とりまとめ)」は、基本的な考え方として、①コロナ・ウクライナ情勢により顕在化した食料安定供給のリスクにより、局面が変わり、カーボンニュートラルとあわせ、『食料安全保障の強化』は「国家の喫緊かつ最重要課題」となっていることから、②我が国の食料安全保障の強化に向けて、4月決定の「総合緊急対策」を第1弾とし、第2弾として、既存の通常予算・TPP予算とともに、思い切った「食料安全保障予算」を新たに確保し、農林水産関係予算の拡充と再構築を図る必要がある。そして、③幅広い観点から「食料・農業・農村基本法の検証・見直し」(食料自給率・自給力目標のあり方を含む)を行い、「数十年先を見据えた食料・農林水産政策」を確立すべきだとした。この提言の方向は「経済財政運営と改革の基本方針2022」(6月7日決定)や「農林水産業・地域の活力創造プラン」(6月21日決定)において全面的に採用され、今後の政府自民党の基本的な農政方針というべき地位を占めることになった。

食料安全保障を強化して、食料自給率の向上を真に担保しうるように現行基本法の検証を通じた見直しによって、数十年先を見据えた食料・農業政策を構築しようという志は大いに共有したい。とはいえ、①についてはどのように「局面が変わった」のかという点についての明確な認識が提示されてはいない中で、「食料安全保障の強化」がどのように「国家の喫緊かつ最重要な課題」になったのかを認識するのが困難である。

また、②では新たな予算枠を設けて農林水産予算を「量的」に拡大することが提案されているが、「食料安全保障予算」が従来の予算とはどのように「質的」に異なるのかが明確にならない限り、中長期的な「政策的な予算」とはならず、従来型の当面の「対策的な予算」の枠内に止まざるをえないのではないかという危惧の念が生じる。

さらに、③では「幅広い観点から」基本法の見直しを行うことは納得できるものの、従来の食料安全保障のどのような視点の見直しが必要だと考えているのかが定かではない中では、再び画餅に帰結するような作文に終わるのではないかとの不安が頭をかすめる。

何度も論じられた「不測時の食料安保」(注)

実は現行基本法における食料安全保障はもっぱら「不測時の食料安全保障」(第19条)=危機管理対応として規定されており、「食料の増産、流通の制限その他の必要な施策を講」じて、食料の安定供給を量的に確保して、国民に平等配分することを重点としている。ここでの「食料の増産」とは国内生産の増大を通じた食料自給率の向上ではなく、「熱量効率の高い穀類やいも類の増産、他の作目からのこれらの作目への生産転換」が想定されており、2015年基本計画で導入された「食料自給力指標」がその集大成の位置を占める。

この不測時の食料安全保障=危機管理体制を平時から準備しておく必要があることは「食料の安定供給の確保」を掲げた第2条第4項で「凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫」する事態へ対策を講じることを指示したのに対応したものである。

しかし、食料の安定的な供給を規定した第2条第2項は国内生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせることを提起して、第15条第3項での食料自給率向上を指示するものではあったが、そこにはいわば「平時の食料安全保障」という視点は希薄であり、食料安全保障はもっぱら「不測時」に対応したものとのみ理解されているといってよい。

だから、2008年の世界食料危機を経て2010年に決定された基本計画は、一方で「不測時のみならず、平素から食料の供給面、需要面、食料の物理的な入手可能性を考慮するアクセス面を総合的に考慮し、関係府省との連携も検討しつつ、総合的な安全保障を確立していくことが必要である」として平時と不測時の食料安全保障を包括する「総合的な食料安全保障」概念を採用するとともに、他方ではそれまでの食料自給率目標をそれまでの45%から50%に引き上げたのであった。

この総合的な食料安全保障論の決定的な意義は平時の食料安全保障が基礎であり第一義的に重要であって、その上に立って不測時の食料安全保障を構築するとしたところにある。

緊迫感を欠いた食料安全保障論

ところが現在、防衛に関する国家安全保障に比べると食料安全保障に対する巷間の関心が高いとはいえない。なぜだろうか。そこには一方で民主党政権時の2010年基本計画が提起した「総合的な安全保障」論が事実上は後景に追いやられ、農政においては不測時の食料安全保障が独り歩きしていることが大きな影響を与えている。他方で少なからずの国民が現在を食料調達における不測時=危機として認識しにくい現実があるのではないか。

後者からみておこう。緊迫感がない最大の理由は日本人にとって「主食」の地位を占め続けている米=主食用米の過剰傾向が継続していることにある。もちろん経済格差が著しく拡大する中でこども食堂の隆盛にみられるような「飢餓」が広く、深く浸透していることはいうまでもない。にもかかわらず、「日本は食の豊かな国だ」といった正常性のバイアスが確実に存在しているのは主食用米過剰の影響が大きい。

農業弱体化に危機感の欠如

前者については、現実の日本人の食生活を支えきれない国内農業生産と国力の急激な弱体化に対する危機感の欠如が、不測時の食料安全保障=芋類を中心とした食生活の議論から多くの国民を遠ざけている現実があるように思われる。小麦や肥料・飼料の国際価格の高騰はあっても何とか金で調達できているではないかといった正常性のバイアスがここでも働いている。すでに国際市場では農産物・食品において日本の買い負けが本格的に始まっているにもかかわらずである。

局面はどう変わったか

そこで、やや回り道ではあるが総合的な食料安全保障論の再構築に向けて、平常時の食料安全保障の視点から、2回にわたって今日の日本人の食生活の到達点と課題を吟味することにしたい。

その際、今日の局面をみる上で重要な二つの視点を指摘しておきたい。第1は、2008年に発生し、今回また発生しつつある世界食料危機がそれ以前のものと大きく異なる点は、食料超輸入大国である中国の登場という事態である。

1973年に農産物が武器になってからは、農産物輸出国の輸入国に対する力の優越性が支配しており、それは今日でも少なからず継続している。かつて日本はWTOにおいて「世界最大の農産物純輸入国」=弱い立場から農産物輸出国の輸出制限などの横暴を批判してきた。しかし、世界最大の農産物輸入国である中国の今日の登場は国際的な農産物調達における日本の立場の弱体化に結びつかざるをえない。それは中国人の食生活が日本人のそれと極めて類似しており、欧米化という点でも類似の発展コースをたどっていることによって増幅されている。

第2は、前回の食料危機と重なる2010年前後に日本の人口構成が大きく第2次大戦後生まれの世代にシフトしたこともあって、食料消費構造がそれまでの趨勢の延長といった枠組みだけではとらえきれない新たな様相を示し始めた点である。

以下では世代論的なアプローチを採用することによって、食生活の変貌の最新局面の姿に接近することにしたい。

米から畜産物への主食のシフト

図1 米と動物性たんぱく質等の供給動向(熱量ベース)今回は1人・1日あたりの動物性たんぱく質の摂取動向を熱量ベースとたんぱく質ベースでみることにする。

熱量ベースでみた図1によると、第1に、動物性たんぱく系(畜産物+魚介類)は2000年以降の後退・停滞を経ながらも、2018年度には米の熱量を超えて、主食の座を獲得したことが目を射るところである。2019年度以降は熱量算出方式の変更から、それ以前とは厳密に接続しないものの、穀物一般ではなく、米が主食だと認識されてきた日本人の食生活において、熱量を意識して摂取しているとはいえない動物性たんぱく系の主食の地位への到達は食生活の根本的な転換を物語って余りあるところだろう。

第2に、和食系(鳥卵魚)も非和食系畜産物もほぼ2000年頃まではともに増加してきた。後にみるように戦前世代も戦後世代も魚食から肉食へのシフトを強めながら、全体としては動物性たんぱく系の摂取を増加させてきたといえる(世代論的アプローチは次回に行う)。

食事の欧米化 給食で「訓練」

第3に、2000年以降は魚介類の顕著な減少が明らかであり、戦前世代の高齢者入り(昭和一桁世代65歳以上)にともなって和食系(鳥卵魚)の全般的な摂取量の低下の中で、それがとくに魚介類に集中的に現れたことが反映されている。

第4に、2000年以降は非和食系畜産物も2010年前後までは摂取量が停滞したが、それ以降は明らかに増加局面に入ったことが確認できる。停滞の要因としては2001年以降のBSE発生と肥満問題の顕在化の中でダイエットが美容から健康管理に重点を移してきたことが指摘できる。すなわち、現段階の動物性たんぱく系摂取をめぐっては2010年以降の顕著な増加傾向の要因を突き止めることが重要な課題となる。

動物性たんぱく質ベースでの主役交代

図2 1人1日あたりの動物性タンパク質供給量の構成変化

そこで、図2によってたんぱく質ベースでの摂取量の推移をみておこう。これによれば、1960年代末から70年代末にかけて発生した米・でんぷん質と非でんぷん質のカロリーベースでの転換を重要な背景として三つの重要な変化が看取される。

第1は、1972年における鶏卵・鶏肉の優位から食肉優位の構造への転換である。卵(玉子焼き・卵かけごはん)と焼き鳥の優位から本格的な食肉消費へのシフトがその内容を示す。

第2は、1976年の水産物と畜産物の地位逆転である。両者ともに、増加局面にあって、畜産物消費の激増が水産物消費の増加を凌駕したことが明らかである。おかずとしての魚が畜産物にとって代わられる構造へのシフトと言い換えることができよう。

第3は、1978年に生じた鶏卵と牛乳・乳製品の地位逆転である。

こうした動向は三つの要因によって引き起こされたといってよい。第1は、戦後最初の本格的な学校給食世代たる戦後団塊の世代(仮に1945~55年生まれとすると)が、一方で学校給食(義務教育は1951~1970年となる)を通じてパン・牛乳・動物性タンパク質系摂取の「訓練」を受け、そこでの食事内容が家庭に持ち込まれた結果である。

第2は、団塊の世代が高校・大学卒業から就職に至る過程で(1971~77年)、大都市圏への大幅な人口移動を進める中で、都市的な消費生活に順応する過程に対応したものだったといえる。

そして、第3に、外食元年とされる1971年のファミリーレストラン時代の開始にともなって、団塊の世代の核家族における欧米化された食事(ハンバーグステーキ・フライドポテト・オムレツ+パン)の外食を通じた家庭内食化の進展がそれである。

こうした傾向は熱量ベースでみるよりもいっそう劇的な変化として出現したことが確認できる。そして、2000~10年頃までの若干の停滞期を経て、2008~10年以降に顕著な増加局面が再出現して今日に至っているとみることができよう。新型コロナウイルスパンデミックにともなう食生活の攪乱はコロナ後にいかなる新たな像を結ぶのかについては若干の留保が必要だとしても、この時期に起きた人口構成の不可逆的な変化は以上のトレンドと強い相関をもって今後の食生活のあり方を方向づけることが予想される。

(注)谷口信和「総論 アベノミクス農政とTPP交渉に翻弄された基本計画の悲劇」『日本農業年報 62』農林統計協会、2016年で基本法における食料安全保障論についてやや詳しく論じた。

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