主食用米「どうぞ自由に」では産地崩壊 「国の関与必要」 自民党参議院議員・山田俊男氏に聞く2022年10月6日
米の生産数量目標の配分を国は2018年にやめた。米の過剰が続き、産地は主食以外への作付け転換を余儀なくされた。しかし、需給が回復し米価が上向くかどうはまだ不透明だ。そもそも米政策はどうあるべきか。山田俊男参議院議員に聞いた。
――米価下落のなか、2022年産米では現場は目標を超える作付け転換に取り組みましたが、米価回復に不安があるなど先行きが見えません。2018年産から生産数量目標の配分をなくしました。今日までの状況と今後に向けてどうすべきですか。
農水省は米政策の今後の推進について詰めができていないと思う。生産者や米の関係者を集めたさまざまな委員会があり、いろいろな議論はできると思うがそうした委員会が開かれたということを聞いたことがない。党も米政策についてのきちんとした議論が見えてきているわけではない。
米政策の今後の方向について先が見えないでいる、というのが実情ではないかと思う。
特に生産調整の取り組みについて、国として役割を果たし、生産調整の取り組み目標を示し、それぞれの団体が目標実現に向けて努力する、といったことが打ち出されているかといえば、それはないと思う。
その根底にあるのは一体何かといえば、自由な生産、流通、販売の世界に行く、ということではないか。国による生産数量目標の配分を提示していないというのはそういうことだろう。どうぞ自由に考えて進めてくださいというかたちになっている。
これでは生産調整のあり方、米の需給について大きな責任をもっているJA、あるいは生産部会、米どころの市町村自治体などが、確信を持って地域の絵を描き切れないと思う。自分たちの地域の米の重要性は言うまでもないわけで、それに国が全部責任を持つわけではないにしても、国としてこんな奨励措置を出すということを言っているのかといえば、それは見えてこない。自分たちで自由に考えてください、というだけです。
JAなど団体は非常に心配していると思う。こうしたなかで地域の農業の絵を描けるかといえば、財政的な裏づけもないわけだからこれは難しい。だから、JAのなかには生産調整の取り組みから手を引いた、というところまで出てきてしまった。自分たちで考える範囲でどうぞ取り組んでください、ということではそういう地域が出てくることになるということです。
米には作柄の変動があるが、それでも計画を立て目標を設定し、それを着実にこなしていく取り組みを進めるということに政府、与党と団体は長い間取り組んできたわけです。そのなかでも過剰が生じたり、不足が生じることはあった。
しかし、今、ここに来て政府が手を引くということをしたときに、一体、何が生じているのか、ということだと思う。非常に心配している。
JAができることはこれまでの生産、流通、販売の実態があるわけだから、売れる米の量を判断し、生産者や生産部会に相談してこれだけ作付けしてください、ということはやっていると思う。しかし、JAとして目標を立てて、独自に奨励措置も含めて講じて目標に向かっていくということができるかといえば、それは容易じゃない。
これまで何度も問題になってきた生産調整に取り組む人と取り組まない人の問題もある。ペナルティのような話も何度も問題になってきたが、もう国はやらないということになっている。それで過剰が生じ米価の低迷を招いたが、何とか対応してきた。
そういうなかで結局、米政策を作れないままであり、根底はどうぞ自分たちでやってください、という「放り投げ政策」になってしまっていると思う。
――JAグループはこれまで地域営農ビジョンなど地域で農業の将来像を描く取り組みを行ってきました。今の指摘を聞くと、それは国が目標を示したり奨励措置があったから、JAも独自に措置を加えてビジョンを示しそれに向かうことができたということですか。
これまではできてきた、ということ。ところが国も積極的にビジョンを出していくことではないし、県域もやらないとすれば、JAだって描けるのかということです。米がどれだけ売れるかということについては、これまでの実績があり、そこは自信を持っているJAもたくさんあると思う。しかし、独自に奨励措置をつけて一定の目標をめざすというようなJAは少ないと思う。
だから、これまで生産調整に本当に真面目に忠実に取り組んできたJAのなかから、もうJAとしての自主的な生産調整の取り組みはやらない、生産者に任せます、という方針すら出てきているということです。
これでは一体どんな世界になってしまうのか。みんな心配しており、米価回復のために場合によっては廃棄みたいな話にすらなりかねない。みんな心配しているのに、国として党として、このことについて警告を発して、改めて仕組みを再構築していこうじゃないかという議論がされているかということです。団体も同じだと思う。
―― 一方、飼料用米や米粉用米については主食用米の需給調整ではなく、専用品種を使って生産し供給していくべきだとの議論が出てきています。これについてどう考えますか。
それは当たり前だと思う。水田は特に米を作る機能として整備してきているし、機械設備も米を作ることを前提にしているわけだから。ところが、JAによってはもう米そのものを扱えないというところが出てきている。それも米地帯のJAで。その要因は何かということを分析しなければならないが、米価が引き続き低迷していくということになったとき、JAの事業として成り立たせることができるのかという心配だろう。そこでは業者が米を扱うという流れも強まっている。
政治家だから政策を考えなければならないが、今、必要なのは具体的な米事業を考えることだと思う。JAグループとして米関係の施設を財産として持っているわけで、それを活用した計画的な取り組みをJAグループは徹底的に提起して議論して、当然のこととして、それを支える制度的仕組みを国にも求めていくと言うべきではないか。
国の財政的裏づけ必要
――飼料用米の専用品種限定については現場には抵抗が強く、作り方が同じ主食用品種を飼料用米に振り向ける取り組みで需給調整とともに、飼料用米は肥培管理の負担を少し減らしてコストダウンにつなげてきた、現場の実態を分かっていないという声を聞きました。
みんなそれをやってきたということだろう。それはまさに自由な生産、流通、販売の世界に突入したんだから、どうぞ自分で考えてやってくださいということの現れ。だれが責任を持って主食用米も飼料用米も目標を示しているかということです。
生産部会に目標を持って取り組んでくださいというだけでことが進むか。JAとして自信を持って取り組めるか、です。やはり主食たる米の生産、流通、管理については国が財政的な裏づけのもとに、主食用の安定供給ということに政策のレールをきちんと敷いて責任を持たなければだめなんだということだ思う。
全部買い入れをなどと極端なことは言わない。しかし、ルールを定めて一定の数量目標の管理やコスト負担、奨励措置も含めて体系的に考えていくということが必要だが、それを考えないまま、ここに来ているということではないか。
気候風土にそれぞれの特徴があるわが国の米の生産の全体像や、国民の主食たる米の安定供給をどうするかという立場で議論をしてきたかということです。各産地とも共通の狙いをもってその方向に向けてともに歩んでいこうというダイナミックな構想と絵作りをここはやる必要がある。
――基本法の見直しが行われます。何を問題にすべきでしょうか。
基本法はやはり規模拡大を進めるという考えだったと思う。しかし、わが国の水田農業は多くの関係者が協同で関わりながら、集落営農のようなかたちも含めた助け合いのなかでしかつくれないという水田農業の特性がある。
だから苦労はするかもしれないが、JAの稲作部会などを中心にしながら、集落など地域の協同の取り組みに助けられながら、担い手が法人化していくということだと思う。
大規模化するといってもいろいろな限定的な要因を持ちながら、一定規模に拡大し売却先も一定のルールを持って販売するという安定した米の生産、流通、販売の仕組みをどうつくるかだと思っている。
それから稲作だけでは経営ができないから、その他の作物をどう組み込んでいくか、地域あるいはJAが中心になって特色ある営農法人を作り上げる。こういう姿を実現できる基本法にしなければならない。
――主食用米の国の管理についてもあわせて議論する必要があるのではないでしょうか。
賛成。国ができる役割、支えは一体何かということをもう一度作るということではないか。食糧法に代わる法律が必要だと思う。
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