人を呼び込むからむし織とカスミソウ 自然に誘われて若者転入 福島県昭和村レポート(1)2022年11月29日
超過疎なのに、人口が社会増。令和なのに昭和。奥会津にある、昭和のまんまの静かな佇まいと変わらない風景。11年前の東京電力福島第1原発事故の影響もほとんど受けなかった珍しい村。他地域からの転入などによる人口増の秘密は、自然布の一つ、からむし織と、宿根カスミソウにあった。福島県と新潟県を結ぶJR只見線が全線運転再開する直前に、福島県昭和村を取材した。昭和2(1927)年に、大芦村と野尻村が合併して出来たから昭和村だ。(客員編集委員 先崎千尋)
新しい村づくりをめざす昭和村
からむし織はイラクサ科の多年草のからむしを原料とした織物。同村は本州唯一のからむし生産地で、約600年前から代々受け継がれてきた。ここで生産された原糸は新潟県魚沼地方に移出され、製品化された越後上布や小千谷縮は、国内で最高級の織物として扱われてきた。1971年に当時の昭和村農協が、原料の生産だけでなく、ここで織物にしようとからむし生産部会を発足させ、高度な技術によるからむし織が始まった。
1994年にからむし織体験生(織姫)事業が始まり、全国各地から若者を招き、経験を積んだ織姫たちが約40人、村に定住している。
夏秋期の出荷量が日本一に
宿根カスミソウは、冠婚葬祭などに使われる盛花の添え花として不可欠の可憐な白い花だ。かつては葉タバコの生産地だった同村は、葉タバコの廃作がきっかけとなり、昼夜の寒暖差が大きい村の気象条件に適したカスミソウの栽培に転換していった。
この取り組みが功を奏し、今では夏秋期の出荷量が日本一。会津よつば農協が村の集出荷施設「雪室(ゆきむろ)」を通して出荷するものは「昭和かすみ草」と呼ばれており、昨年の販売額は5億6000万円を超した。
村は2017年から新規就農者を募る「かすみの学校」を開いており、これまでに33人を受け入れ、その多くが同村で就農している。
昭和村で宿根カスミソウの栽培が始まったのは1983年で、まだ新しい。翌年、昭和村花卉(かき)生産部会と花卉研究会が誕生し、1988年に葉タバコの廃作奨励が進み、一気にカスミソウへの経営転換が進んだ。農業改良普及所の熱心な後押しもあった。
販売額は93年に2億円に達し、昨年は5億6000万円(販売本数512万本)を突破した。村には「雪室」と呼ばれる集出荷施設がある。冬の間に3000立方mの雪を運び込み、夏の間、この雪を利用し、予冷庫を冷却する。ここへ運び込まれたカスミソウは最適な温度と湿度に調整され、全国28の市場に出荷される。
運転手をやめてカスミソウ作りに転身
立川幸一さん
会津よつば農協かすみ草部会長を14年務めている立川幸一さんは会津若松市の生まれ。長距離運送のドライバーだった。ある時、大阪の市場に昭和村のカスミソウを運んだ。1箱50本入りで当時5万円もした。「1本が1000円か。カスミソウってそんなにもうかるんだ」とひらめいた。すぐに妻の実家の昭和村に見に行き、運転手をやめ、畑を借りてカスミソウ作りを始めた。最初は、周辺の農家の人たちは「どうせ失敗してやめていくんだろう」と半ば好奇心で見ていたという。しかし今ではハウスを16棟、会津若松に8棟持っている。ハウスは作業を始める春に建て、秋に倒すという。雪が積もるので、そのままにはできないからだ。労働力は親子4人に研修生の2人。
昭和村が夏秋期で日本一の産地になったのは、標高が高く、寒暖差があり、夏は冷涼。背丈が長く、色がきれいな白になることなどによる。
コロナ禍で花の動きが鈍くなり、カスミソウも低迷しているのかを聞いたところ、立川さんはそうではないという。都会では仕事がリモートになり、「ホーム・ユース」として家の中に切り花を飾るようになった。カスミソウはすぐにドライフラワーになるので、1年中飾っておける。お得感がある。これだけでも需要が大きく伸びた。外国からの花の輸入がストップした影響もあるようだ。
売り上げを親の代の3倍に 福島県農業賞を受賞
菅家博之さんと研修生(手前が菅家さん)
目標の売り上げ1億円と法人化をめざす福島県農業賞受賞の菅家博之さんは柳津町に近い小野川で170a、53棟を持つ宿根カスミソウ専業農家。32歳だ。労働力は母と研修生の3人。高校を出て、工場に就職したが、父の病気で家に戻り、それからカスミソウ一筋。もともとは養蚕やきのこ類を栽培していたが、父の代にカスミソウに転換した。がむしゃらに仕事に取り組み、他のことを考える余裕はなかった。
今年の福島民報社主催の福島県農業賞に、新規就農部門でただ一人受賞した。売り上げを親の代の3倍、2600万円にしたことが主な受賞理由だ。
抱負はと聞くと、さしあたって3000万円の売り上げ、ゆくゆくは法人化して1億円をめざしたいと言う。これから30年、40年やっていく覚悟なので、作業時間の短縮を図るためにトラクターなどの設備投資がバカにならない。
体験生事業に参加 そのまま移住へ
山内えり子さん
青森県弘前市から移住した山内えり子さんは、2005年、昭和村の「からむし織体験生事業」に参加し、そのまま移住した。1年を通してからむしの栽培から始め、糸をつむいで布を織るという暮らしをしている。「昔の人に近い生活をそのまま体現している」という。
弘前の実家はリンゴ農家。冬は手仕事としてこぎん刺しもしていた。ふとしたきっかけで昭和村のからむし織を知り、体験してみたくなり、2年間の体験を経て、村に住み着いた。家は、空き家を月に1万円で借りている。2aの畑を借り、春にからむし畑の野焼きをし、夏に収穫。からむしを刈り取り、皮を取って繊維を取り出す「からむし引き」をする。冬は糸づくり。1・5mくらいの繊維をつないで糸にしていく。手作業なので、時間がかかる。疲れたら、外に出て雪かきをする。紡いだ糸を織りあげ、一枚の布に仕上げていく。軽くしなやかで、独特のハリがあり、涼しい着心地が特徴だ。一枚の布を、からむしとこぎん刺しのコラボにしたのを見せてもらった。山内さんにしかできない技だ。
からむし織だけでは生活できないので、自分で栽培したからむしの糸を売る。小物類はイベントなどで販売もする。野菜を作って食べるものは作る。水道の検針などのアルバイトもする。
「村の80代くらいの人とお茶を飲むんですが、いろんなことを知っていて、何を聞いてもすぐに答えが返ってくる。私もそんなおばあちゃんのような人になりたい」と笑う山内さん。すっかり村の人になったようだ。
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