『いのちを生きる』 小林芳正さんの写真集が完成 有機農業を愛した軌跡がよみがえる2023年6月9日
小林芳正さんの写真集「いのちを生きる」
「有機農業は生き方だ」。農協陣営での有機農業運動のカリスマだった小林芳正さんは日頃そう語り、宮沢賢治を人生の理想としていた。小林さんは、福島県熱塩加納村(現喜多方市)農協の営農指導員として有機農業を、一個人ではなく、地域ぐるみの取り組み(面的展開)として進めた。学校給食にも米や野菜を提供し続けた。
また、農業だけでなく、地域社会づくりや農村文化の向上にも力を尽くした。ひめさゆりを植え、年中行事や伝統食・保存食を伝え、残すことにも力を尽くした。「ひめさゆり群生地」は、今では三十数万本ものひめさゆりが咲きそろう。農村の景色や生き物の姿、人々の営みをカメラに収めることも取り組みの一つだった。
その小林さんは昨年7月に88歳で亡くなった。膨大なネガフィルムが残されていた。小林さんの病状悪化が伝えられた昨年4月、同村の有機米を使った酒造会社や有機農産物販売会社など小林さんを慕う人たちが集まり、「小林芳正写真集刊行委員会」を立ち上げた。今年2月に写真集が完成し、5月から一般にも頒布されている。
写真集のタイトルは『いのちを生きる-小林芳正写真集』。「いのちの輝き」「有機の里 熱塩加納」「子どもたちに伝える『農』の心」「この村で、ともに生きる」の4編構成。同村の学校給食に関わった坂内幸子さん、喜多方市大和川酒造店の佐藤彌右衛門さんらの寄稿文や、小林さんのプロフィールも入っている。
「食べ物は人間にとって、まさに『いのち』の糧。農業はいのちの産業」「集落ぐるみの有機農業への取り組みは集落づくり、地域づくりでもあった」「田んぼや畑は子どもたちにとっての教室。農業や自然を通して、人として必要なものを身につけていってほしい」「雄大な自然に包まれた、雪の熱塩加納の清浄な佇まいをこよなく愛した」「雪国の文化は奥深い。自然への敬虔(けいけん)な思いの積み重ねでもある」...。
モノクロやカラー写真に添えられた説明文を見ながら、一枚一枚の写真をめくっていると、元気な時の小林さんのまなざしが眼前に浮かんでくる。野山に咲く花。雪の中に取り残された柿をついばむ小鳥たち。きらきら輝く稲の花。今では見られない共同での苗取り作業。稲架(はざ)かけの美しい風景。小正月の団子さし、歳の神、数珠くり、大般若会などの年中行事など、見飽きることがない。
「百姓」という肩書の名刺
ここで「百姓」という肩書の名刺を持つ小林さんの業績を振り返ってみよう。
小林さんは1934年生まれ。福島県農事試験場で学んだあと農業に従事し、28歳の時に同村農協の営農指導員になり、管内すべての田んぼを見回り、農協事務所へは夕方に「出勤」していたという話が伝わっている。1980年に有機農業に取り組み、89年には同村の学校給食に、親たちと一緒になって、有機の米(さゆり米)と野菜の供給を始めた。「次の世代を担う子どものいのちはかけがえのない地域の宝。その子どもたちに安全な食材を」という考えからだった。
92年に農協を定年で退職した。この時、NHKテレビは午後7時半から小林さんの仕事を振り返った特番を放映した。
小林さんは農協にいる時から子どもたちに農業を教え、共に作業していた。これがのちに全国で初めて小学校に「農業科」が設置されるきっかけとなった。小林さんはそこで農業科支援員となり、子どもたちと田畑に立った。現在は喜多方市のすべての小学校で取り組まれており、2013年には、喜多方市小学校農業科が日本農業賞「食の架け橋の部」大賞を受賞している。
私事になるが、私は40年以上も前の瓜連町農協職員時代に同農協を訪れ、それ以来、有機農業や学校給食、地域づくりなどについて小林さんから多くのことを学んできた。酒米の「五百万石」の種子を分けてもらったこともあった。
写真集の頒布価格は1800円(送料は別)。申し込みは大和川酒造、電話0241(22)2233。
(客員編集委員 先﨑千尋)
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