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基本法見直し中間まとめ 中嶋検証部会長に聞く(2)キーワードは「食料安保」「環境」 多様な「担い手」議論噴出2023年6月13日

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基本法見直し中間まとめ 中嶋検証部会長に聞く(1)より続く

適正価格実現は共通の思い

――農畜産物の適正価格実現と自給率向上は、検証部会でも一致した意見でした。中家徹JA全中は再生産確保を前提とした適正価格形成を強調しています。

新法も含め適正価格形成は大きなテーマだ。生産資材が高騰する中で、農畜産物生産のコストがなかなか市場価格に転嫁できないのが実態だ。これでは農業の持続性は担保できないとの主張は理解できる。検証部会のスタート時、昨年9月の段階でも、各委員からコストを反映した適正な価格形成の実現を求める声は一致していた。

生産資材高騰の中でコストの「見える化」を前提とした、適正な価格形成に向けた仕組みの構築を明記した。生産現場からすれば再生産に力点を置くのは当然だろう。ただ実際の価格形成となれば品目、需給など産地ごとに複雑な課題が絡む。生産者、実需、消費者などの「適正」の意味合いも違う。まずは関係者が一堂に会す仕組みづくりが必要だ。

みどり戦略は基本法見直しの「土台」ではない

――食料システムサミットも踏まえ、農水省は「みどり戦略」を展開中です。今回の基本法見直しでも同戦略を土台にすべきとの指摘もあります。

確かに環境調和型の「みどり戦略」が加速し、地域での実践も具体化してきた。重要な農政展開のパーツだと思うが、それが基本法見直しの「土台」となるとは考えていない。
野村農相は「中間取りまとめ」を踏まえ、基本法改正に向けた今後の「展開方向」を示した。平時からの国民一人一人の食料安全保障の確立、環境に配慮した農業・食品産業の転換、人口減少下でも持続可能で強固な食料供給基盤の確立――の3本柱だ。検証部会で議論を深めた内容が柱となって反映されている。特に人口減少の中での持続可能で強固な基盤づくりは待ったなしの課題だ。「みどり戦略」は2つ目の環境配慮に含まれるが、それは基本法見直しの「土台」とは違う。

――検証部会の各委員は、立場によって意見、考えに相当開きがあったのが実態です。議事進行や中間取りまとめに当たり、役所、あるいは政治的に何らかの圧力はあったのでしょうか。

終盤になり、スピード感をもって取りまとめたのは事実だが、上からの指示、誘導などは感じていない。ただ、農水省の事務方とは揺れ動く国内外の情勢の中で、現行基本法検証に際しこれまでの有事にとどまらない食料安全保障構築の重要さを軸に問題意識を共有していたのは事実だ。

新自由主義からの脱却

――基本法見直しの核心部分ですが、森山元農相は昨秋から「新自由主義的政策からの転換」を唱えていました。検証部会論議大詰めの5月12日の全中全国大会でも特に強調しました。

直接話を聞いていないので、現行基本法で新自由主義的な政策がどの部分かは分からない。ただ、今後の食料生産、農業の在り方、地域政策の方向などでは委員間で議論が分かれる部分もあった。特に担い手の位置付けでは差異が目立った。

激論となった「担い手」

――最終局面で現行基本法21、22条のいわゆる「担い手条項」に加え、自民党提言を反映し「多様な農業人材」の語句が明記されました。

もっとも激しい議論となった点だ。農政の方向は、農地集積をした大規模経営体ができるだけ地域農業を担うのが基本中の基本だ。指摘のように、現行基本法は第3節農業の持続的な発展に関する施策で、21条に「望ましい農業構造の確立」、22条に「専ら農業を営む者等による農業経営の展開」を挙げている。

一方で、中山間地など実際の農業現場では大規模経営だけでは地域農業の維持が難しいケースも出ている。そこで検証部会の資料で「担い手で現行基本法の記述は全く変える必要はない」「農業分野でも多様な経営体を位置付けるべき」との両論を挙げながら、農業施策の見直しの方向の中で、4番目に新たに「多用な農業人材の位置付け」を加えた。

――「多様な経営体」は2020年基本計画、今春から始動した「地域計画」でも明記されています。中家全中会長は多様な経営体を通じ「地域を守る視点」を強調しています。

個人的には、「多様な農業人材」は農業・農村の発展に有用だと考えている。全体で農を支える仕組みが重要だ。基本路線はあくまで大規模化、効率的な農業経営の確立であって、「多様な農業人材」を位置付けたことによって農業政策が大きくゆがめられるようなことはない。
法案として「多様な農業人材」が、21、22条の次の項目に入るのかは分からないが、農地維持、食料安保に資する形での幅広い人材の位置付けがある。「半農半X」「農福連携」などに加え、例えば地域に関わるIT関係者などはデジタル田園都市構想、農産物の有利販売やスマート農業の推進にも欠かせない「多様な人材」となるのではないか。

生産調整と価格カルテル論議

――検証部会で元財務事務次官出身の委員から、適正価格形成では米価の見える化の観点から現在の生産調整は国家的価格カルテルで廃止すべきとの意見が最後までありました。実際は需要に応じた主食用米の計画生産ですが、どう見ますか。

コメの需給調整は農政上の重要課題だが、基本法見直しとは直接関係ない。私としても需要に応じた生産を進めるのが農政の基本方向と答えた。今後の基本法見直しと主食用米の需給調整は基本的に別次元だ。毎年8万~10万トン需要が減る中で、個人的にはもっとコメの需要拡大に知恵を絞るべきで、米粉をはじめ需要のすそ野を広げる可能性はまだまだ広がると信じている。

農業団体の役割さらに重要

――現行基本法で農業団体は38条で「効率的な再編整備」とのみ書かれ、急進的な農協改革の根拠の一つにもなりました。今回の見直しでは役割を強調しています。

食料・農業・農村に資する関係団体の役割は増している。NPOや農村型地域運営組織であるRMOなどは、現行基本法制定時はあまり想定していなかった。そこで新たに明記した。農協法改正なども経てJAの役割も地域農業・農村の維持・発展、輸出促進などで増している。団体と地方自治体との連携もますます重要だろう。

――基本法は大きな農政の方向を示した理念法、宣言法でもあります。具体的な政策を動かすには、その下にぶら下がった品目、項目ごとの具体的な法律の検証、見直しが重要です。例えば「官邸農政」の下での改正畜安法は生乳需給調整にかえって大きな支障が出ています。

生乳需給調整を含めた改正畜安法の在り方や、先に出たコメの需給是正の手法などはそれぞれ畜産部会、食糧部会など専門部会がある。必要ならそこで議論を深めるべきだろう。

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