G7広島サミットの功罪 怒らぬ日本人道義的責任も 日本のリスク拡大する恐れ 藤井聡・京都大学大学院教授2023年6月20日
G7広島サミット(先進7カ国首脳会議)から1カ月が経つ。改めて「G7広島サミットの功罪」として藤井聡・京都大学大学院工学研究科教授に寄稿してもらった。
謝罪なき慰霊 許されぬ米大統領
京都大学大学院工学研究科教授
藤井聡 氏
写真:内閣官房HPより
広島サミットは、多くの国民に高い評価を受けたようだ。世論に「悪いロシアと戦うゼレンスキー」と目されているそのウクライナ大統領のゼレンスキーの来日、G7各国首脳の「史上初」の広島死没者慰霊が、国民に高く評価されたようだ。
しかし、ゼレンスキー来日によってロシアにとって日本が完全なる「敵国」となり、近い将来危惧されている「台湾有事」「日中有事」の折りにロシアが中国に大きく肩入れするリスクが飛躍的に増大した。それは日本の国益に叶うものではない。
そして、米国を中心とした「G7各国」の広島死没者慰霊は、日本人、とりわけ、広島、長崎で核爆弾で命を落とした人々の誇りを著しく傷つけるものとなった。
今回の広島サミットにおける、我々日本人にとっての最大の焦点は、原爆死没者慰霊碑への追悼イベントに際してバイデン大統領が「謝罪」するか否か、という一点であった。
しかし誠に遺憾ながら――とは言うもののそれはもちろん事前の想定通りであったのだが――バイデン大統領からの謝罪表明はなかった。
しかし、バイデン大統領は、岸田首相との共同声明においてかつて、核兵器使用を「人類に対する敵対行為」であり、したがって「決して正当化され得ない」と言明した人物である。この言明は、広島・長崎に対する米国の核兵器使用もまた「人類に対する敵対行為」であり「決して正当化され得ない」ということを意味する。それはつまり、米国政府は日本に対して、かの広島・長崎の原爆攻撃について「謝罪」をせねばならない責任を負っていると宣言したに等しい。
したがってバイデン大統領は、核攻撃は決して正当化され得ないとわざわざ宣言した以上は、他の大統領よりもとりわけ大きな「謝罪責任」を背負う事になったのである。
しかしそれにも関わらず、バイデン大統領は今回の慰霊にあたって謝罪しなかったのである。
このバイデン大統領の態度は、我々日本人にとっては到底許すことなどできぬものだ。
それは例えば自分の両親を明確な意図に基づいて殺害した加害者が、一切の謝罪表明もないままに数十年の時を隔てて、殺めた両親の墓標に訪れ、しかもそこに至っても謝罪の表明が無いのと同じだからだ。ましてや、その加害者は普段「人殺しは断じて許されない、決して正当化され得ない」とうそぶき続けているとするなら、なおさらだ。
この謝罪無き慰霊を是認されるのは、我が両親が殺されて然るべき「人でなし」である場合に限られる。
つまり、バイデン大統領が慰霊にあたって謝罪しなかったということは、広島の人々は原爆で殺されてしかるべき「人でなしだ」と宣言したに等しいのである。
原爆戦没者の名誉 損なう首相の大罪
ただし、この謝罪無き広島慰霊訪問を実現させたのは、G7議長国の首脳である、我が国日本の岸田総理なのだ。
岸田総理はバイデン大統領が謝罪しないことを知っていたにも関わらず、バイデン大統領を広島慰霊訪問に招待したのである。
というよりもむしろ、謝罪しないことを確信犯的に確定させていたであろうにも関わらず、広島に慰霊訪問すれば謝罪すべき道義的圧力を受けざるを得ないバイデン大統領は、広島への慰霊訪問を回避したいと考えていた。例えば、オバマ大統領の広島慰霊訪問時には、核なき世界を目指すとの公式のメッセージが発出された一方で、今回は慰霊についてのバイデン大統領からの公式メッセージは全く発出されなかった。しかも、広島平和祈念資料館でバイデン大統領が過ごした40分間で、一体何を視察したのかの情報も一切公表されてはいない。こうした沈黙は広島慰霊訪問にバイデン大統領が如何に後ろ向きであったのかを雄弁に物語っている。
そうであるにも関わらず広島慰霊訪問を無理矢理実現させたのが岸田総理なわけである。
なんと愚かな人なのだろう。
彼は、自らがイメージする平和と反核メッセージをアピールすることに固執し、横車を押すようにして米国大統領の広島慰霊訪問を実現させ、それを通して広島の人間は核兵器で殺されてもしかるべき「人でなし」なのだと、バイデン大統領に事実上「宣言」させる状況を自ら嬉々として作り出したのである。
これは広島の原爆死没者に対する、そして、日本人に対するこの上ない侮辱だ。
かくして我々日本人は、謝罪無き広島慰霊訪問を行ったバイデン大統領と同等、というよりむしろそれ以上の「道義的公憤」を、岸田首相に対して差し向けなければならない「道義的責任」を負うに至ったのである。
つまり、我々日本人がバイデン大統領に対して見せる怒りは、決して「不寛容」故ではない。それはあくまでも、倫理的、道徳的要請に基づくものだ。我々日本人が怒りを見せなければ、「人でなしだ」と宣言された広島の人々の名誉、さらにはその同胞たる我々日本人全員の名誉は永遠に回復されなくなってしまうのだからだ。バイデン大統領と岸田総理によって損なわれてしまった彼らの誇り、そして我々自身の誇りを回復するためには、少なくとも今を生きる我々日本人が、彼らを決して許さないと言い続けなければならないのである。
しかし、筆者が知る限り、こうした視点でバイデン大統領と岸田文雄氏を批判している人物を、大手メディアにおいて筆者は目にしたことがない。せいぜいが、米国政府関係者に「謝罪はしないのか?」と問うた記者、それを報道する報道関係者が一部いる、という程度だ。
多くの現代日本人は一様に、謝罪無き原爆死没者慰霊の何が問題であるのかを認識していないようである。それよりもむしろ、当方の様に憤ることは「不寛容」であり、日本人は過去の過ちを水に流して許す姿勢こそが「大人」として適切な振る舞いなのだとすら認識している様でもある。
多くのこうした現代日本人の愚かしさ、そしてその不埒(ふらち)さは、かの岸田文雄氏の愚かしさと不埒さに通ずるものだ。
しかしそれは何も不思議な事では無い。そういう日本人が平成、令和にかけて急速に増殖したからこそ、その一味であった「岸田文雄」という一人の男が総理大臣の座に座ることができたのである。かくして、「岸田文雄」は現代日本人の象徴と言わざるを得ないのである。
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