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【鼎談】「総合農学」けん引 未来担う人材を 東京農業大学 受け継がれる実学主義2023年7月11日

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今年創立132年を迎えた東京農業大学。創立以来、実学主義が受け継がれる同大学では、今、農林水産物の生産や食品加工にとどまらず、健康や環境までを領域とする「総合農学」を前面に掲げ、日本の農業の未来を担う人材の育成に努めている。また、農学分野でのグローバル・リーダーを国内外に育成する拠点とするための新たな施設「国際センター」が今年の4月に世田谷キャンパスに完成した。同大学の江口文陽学長とOBで群馬県の邑楽館林農業協同組合(以下、JA邑楽館林・本所=群馬県館林市)の阿部裕幸組合長、それに東京農大の白石正彦名誉教授の3人に、農業・食をめぐる課題や東京農大の果たすべき役割について語ってもらった。

【出席者】
・東京農業大学学長 江口文陽氏
・群馬県・JA邑楽館林組合長 阿部裕幸氏
・東京農業大学名誉教授 白石正彦氏

左から、東京農業大学学長・江口文陽氏、 群馬県 JA邑楽館林組合長・阿部裕幸氏、 東京農業大学名誉教授・白石正彦氏左から、東京農業大学学長・江口文陽氏、
群馬県 JA邑楽館林組合長・阿部裕幸氏、
東京農業大学名誉教授・白石正彦氏

総合農学とは知識の結集

白石 江口学長はよく東京農大だけでなく日本の大学で総合農学を学ぶ学生をもっと増やしたいと話されています。コロナが収束方向に向かい、大学をめぐる環境も変わってきたと思いますが、はじめに東京農大の教育研究の取り組みについてお話しいただけますか。

江口 2021年4月に学長に就任以来、総合農学をけん引しなければいけないと考え続けてきました。総合農学とは何かというと、山の頂上から里山や河口があり、海がある地球そのもの、あるいは日本列島の中からどんな生産物を作り上げるか、そしてそれが身近な食材や生活を豊かにするものとして農学領域に賄われていることをいかに科学的に学ぶか、まさにこれが総合農学と考えています。今のスマート農業や先端農業では、例えば水耕栽培で窒素・リン酸・カリ以外に微量のミネラルを添加することで特色ある作物を作ることも可能ですから、まさに総合農学とは知識の結集であり、人を豊かにする、そういった一つの源であるという考え方で学生の教育や研究に当たっていきたいと考えています。

世田谷キャンパスに「国際センター」が始動世田谷キャンパスに「国際センター」が始動

白石 今年の東京農大のガイドブックを見ると随分変わってきたと感じます。教職員や大学院生・学生が、SDGsや気候変動など、様々な視点から研究に取り組んでいることが伝わってきます。表紙には"人と生物と自然の課題に答えをつくる"と、めざす方向が前面に掲げられています。

あらゆる学びの可能性を

江口 これまでの広報では、ぜひ東京農大に入ってください、農大はこんな大学ですよとPRしてきましたが、やはり総合農学を推進するためには、大学で学生や大学院生、あるいは教職員がどんな研究や業務に取り組んでいるかを広く皆さんに知っていただくことが非常に重要だと思っています。さらに今は学問分野を融合したSTEAM教育の重要性も指摘されていますし、社会人がもう一度学び直しをしたりすることも重視されています。今後は例えば農協の職員の方が営農指導をしながら大学院で修士や博士の学位を取るといったことも必要になってくるかもしれません。本学としては、あらゆる学びの可能性について、昔とは作り込みを変えて大学全体の教育研究の現状を知っていただくことの必要性も感じています。

白石 東京農大の三つのキャンパスに、それぞれのキーワードが付けられ、イメージがわきやすくなったと思います。約9000人が学ぶ世田谷キャンパス(応用生物科学部、生命科学部、地域環境科学部、国際食料情報学部)は「都会の森で学ぶ―緑あふれる都市型キャンパス―」、約2500人が学ぶ厚木キャンパス農学部(農学・動物科学・生物資源開発学・デザイン農学)は「動植物と共に学ぶ―理論と実践の一体型キャンパス―」、約1500人が学ぶ北海道オホーツクキャンパス生物産業学部(北方圏農学・海洋水産学・食香粧化学・自然資源経営学)は「雄大なスケールで学ぶ―四季で表情を変える大自然キャンパス―」ですね。阿部組合長は久しぶりに東京農大に来られていかがですか。

伊勢原農場の農業実習でジャガイモを収穫する学生達伊勢原農場の農業実習でジャガイモを収穫する学生達

女子学生の多さに驚き 半数超の学科も

阿部 私は昭和56(1981)年卒業ですが、まず女子学生の多さに驚きました。これは日本の農業を変えるためには大変いいことだと思います。男性は農業経営に一生懸命取り組みますが、やはり感性は女性の方が鋭い。私のJA管内は施設園芸と米麦が主体ですが、女性がいないとハウス栽培ができません。そういう面で女性の農業参入は日本の農業を変える最も良い姿だと思っています。

江口 今は6学部23学科の学生の約半分が女性ですし、学科によっては半数を超えています。

阿部 私は卒業後、旧館林農協に就職し、野菜の営農指導員として辞令を受けました。その後、広域合併の邑楽館林農協の管内は耕地面積8000㌶(そのうち8割以上が水田)で米麦と施設園芸・畜産の複合経営で群馬県の中でも農業生産性の高い地域ですが、東京農大を卒業したというだけで一目置かれ、非常に歓迎されました。ただ、実学主義で学んではいても地元で農産物を作った経験はないですし、農家に教わることの方が多かったです。

「ガストロノミー」基礎科目も導入

白石 東京農大には実学の長い伝統があります。それにプラスして学長は「ガストロノミー」(地域風土に密着した食事や料理と文化の関係の考察、食文化・食に関わる総合的学問)を重視されていますね。

江口 私は東京農大の学生には、食というもの、あるいは作物がどこで作られているのかをしっかり認識しながら学んでほしいと思っています。それが日常の健康、あるいはメンタル的なものの強化や、自分の子どもや両親の健康、100歳になっても自分の足でしっかりと歩ける健康長寿につながっていくと思っています。

その中で私は「東京農大ガストロノミー」という言葉を導入して、学生に対して食文化に対して敏感な感覚を持ってほしいと訴えています。この言葉は西洋では美食であるとか、レストランの高級食材といったイメージで捉えられがちですが、日本の食文化の中で培われてきた食材があり、うちの村や町でこんなものを育てている、お母さんが作った漬物がおいしいといった伝統をつなげていくこともガストロノミーだと思っています。そして誰が作って誰が流通してくれたのか、これを食べることでどうなるのか等、自分の健康や周りの人の健康を考える農大生を育てたい。

このように食に触れ、その背景までも理解できるような学生教育をしたいということが学長になってからの一つの柱になっています。

北海道オホーツクキャンパスツアーに訪れた高校生達北海道オホーツクキャンパスツアーに訪れた高校生達

白石 そうした学問を本学の基礎科目として取り入れていくということですね。

江口 東京農大では、2024年度から本学の総論的な部分を学ぶ科目を作ります。そこで学長や副学長、学部長が話すわけですが、総論の中でガストロノミーをしっかりと学生に発信していきます。東京農大は、食を学ぶ、あるいは農林水産物を学ぶ大学ですから、それぞれ土の中や水耕栽培から生まれてくる作物を手に取って、その香り、あるいは肌感覚など五感で感じる力を養うようにカリキュラムの中で伝承していきます。

"農魂" 農業は人を幸せにする産業

白石 阿部組合長は昨年組合長に就任されて、農を起点とした新たなキーワードを取り入れましたね。

阿部 農協は金融や共済事業もある総合事業体ですが、私はしっかり信頼を得て地域に根ざした組織であるための第一義は農業だと思っています。そうした思いから農の魂、「農魂」という言葉を掲げました。農業は生命産業です。植物や動物があり、食の大切さがあり、それを作る人、流通する人、消費する人もいる。農業には魂があって、そこからすべてが始まります。最近は、農業の先に食があり、食の先に健康があり、健康の先に人の幸せがある、農業こそ人を幸せにする産業だという言葉をよく使っています。

白石 農業こそ人を幸せにする産業という点は、まさにガストロノミーに通じると思います。私がJA邑楽館林について先進的だと思うのは、農業をめぐる様々な議論で地域特性を輝かす担い手像・主体が不明確なケースが多い中、「年間1500万円の販売金額の農業者」を育て、"農業という産業"に誇りを持って持続的に取り組むための目標と仕組みづくりに挑戦している点です。

阿部 令和4(2022)年度の農協の販売取扱高は全体で153億円(うちキュウリを中心に野菜は75億円、米麦は33億円)、一農家平均(正組合員世帯)で214万円です。なぜ1500万円かというと邑楽館林の農家は大体米と施設園芸の複合経営ですが、政府が支援した自治体農政で農業所得600万円以上等の農家を認定農業者にする制度があります。農業所得600万円というと販売高で1500万円必要ということで打ち出しました。販売高1500万円の農家を多く生みだせば産地の力になります。そのため例えば販売金額1200万円の農家に対しては、あと300万円をどの作目で稼ぎましょうか、別の作物を作りましょうかと毎日のように接触して話し合います。その結果、令和2(2020)年には263人に増えました。

農家表彰の"農業賞" 若い世代が中心に

白石 さらにJA邑楽館林は農家を表彰する"農業賞"を設けていますね。

阿部 地域には非常に優れた農家がいますので、そうした農家をきちんと表彰することで本人も喜びますし、それを目指す若い後継者も出てくると思います。そこで年間販売高1億円以上の品目を選んで、野菜で15品目、それに米や小麦、大麦、酪農、肉牛と各部門の農業賞を選び、表彰しています。こちらも世代交代が進んで平成21(2009)年のJA合併時は70代が多かったのですが、今は法人経営も含め30代40代の方が中心です。

白石 JA邑楽館林の革新的伝統に根ざした販売事業面の米・麦、野菜等の契約方式の深化の特徴と今後の方向をお話しください。

阿部 私の農協の伝統は、旧館林市農協時代に当時の平田四郎参事が掲げた「職場七訓」に「常に生産者組合員の幸せを考えよ」から始まり、園芸販売では出荷された2日後に組合員の指定された口座に代金を振り込むこと等が明示され、その実践で野菜販売においては管内90%以上の共販率です。

一方「米」販売においては、当農協は古くから二毛作地帯で米と麦が作付けされてきました。毎年約30万俵の集荷がされていますが、そのほとんどが業務用米です。業務用米のうち12万俵を「加工用米」として販売することで、麦が表作となり国からの「水田活用直接支払い交付金」が増額され、米価格の安定にもつながっています。

JA邑楽館林管内の環境制御型システム導入のキュウリ農家JA邑楽館林管内の環境制御型システム導入のキュウリ農家

また、当農協は施設キュウリの大産地ですが、後継者がいない生産者はそこで空いた施設に比較的管理のしやすいズッキーニやニガウリなどを導入して管内野菜販売の生産量と販売高の維持をしています。

販売高約500万円の中規模農家(園芸と米麦、畜産)が農協独自の「やる気のある農家支援事業」(年間助成予算額1000万円)によって規模拡大への刺激になっています。

さらにJA大型農産物直売所(年間10億円直売)には、高齢者や女性などの出荷者(うち3割強は女性)が直売しており、昨年度のJA女性会堀口葉子会長は全国家の光大会で地元食材活用の「災害食作り」等の成果を発表するなど生活文化活動も活発です。

農大への強い愛校心 進化続く財産に

白石 阿部組合長は、東京農大で実学を学んで様々な事業を展開されていますね。JA邑楽館林での東京農大の卒業生の仕事ぶりはいかがですか。

阿部 農協職員だけで今十数人、東京農大の卒業生がいますが、非常にやる気があります。また、今年4月に組合長就任祝いを開いてもらいましたが、とにかく農大卒業生はどこの大学よりも愛校心が強いです。卒業して43年経ちますが、この世田谷キャンパスの4年間や北海道真狩村での実習など、とても大きな財産になっています。

白石 そういう面では東京農大を創設した榎本武揚公や横井時敬初代学長が築いた伝統、長い歴史を継承しながら進化させてきた財産が東京農大にはあるということですね。

阿部 日本で食料問題はますます重要ですが、農業分野ではまだまだ人が足りません。だからこそ農業・農学を志す方がほしいですし、東京農大で総合農学を学んだ方に全国のJAグループや農業者のリーダーとして農業界で活躍してほしいと思います。

JA邑楽館林でも青年部が最先端の環境制御型技術を導入した結果、キュウリ栽培では10㌃平均収量22 ㌧から30㌧以上でより高品質の収穫が可能となり、農協のブランド名を高めてくれています。

白石 そうした環境制御型システムは、まさに東京農大で本格的に研究を進めていますからサポートできることがありそうですね。

阿部 今は環境制御型システムについてキュウリだけですが、施設物のトマトやイチゴでも導入できると農業後継者がもっと増えると思います。実はJA邑楽館林には毎年非農家で地縁もない若者がキュウリを作りたいと来てくれますが、経験が少なくても環境制御型システムをしっかり覚えることでカバーできます。東京農大の先端的な部門から、食味を上げる方法や環境制御型の技術、スマート農業活用といった情報をいただければ、産地としては非常にありがたいです。

"農と食"の価値 農協軸に発揮を

白石 江口学長は群馬県のご出身ですが、当農協とその農業者の取り組みへのアドバスを頂ければ幸いです。

江口 貴農協は、首都圏に近接し、キュウリ、トマト、ナス、ハクサイなど四季を通した日本有数の産地です。利根川と渡瀬川の二河川流域の肥沃(ひよく)な土壌が今後さらに良質な農産物を生み出していくと考えます。流通の高度化をさらに駆使して食の安全と安定供給のために農業従事者が生産技術を高めて地域の食と文化を継承されることに期待しています。

東京農大がデータ集積してこの環境でこうすれば収量が上がる、機能性やうまみが高まるという情報を提供できれば、新規就農者でも取り組めるようになります。東京農大の技術力を使いながら現場の情報を解析し、生産者が楽になる、あるいは日本の農業生産性が高まって日本の食料自給率の向上につなげることができればと思います。

もう一つは、そうした部分で導入が進めばアントレプレナーシップ(起業家精神)という面で、多くの学生が就農してくれます。今、全国の高校卒業生の3%しか農学の領域に進学していませんが、私が学長のうちに全国で5%ぐらいまで高めたいと考えています。こうして農業関係の仕事に就けるキャリアデザインができれば、自給率の向上や日本らしい食文化が広がっていくと思いますので、阿部組合長のお考えのように、大学でできる部分をうまくマッチングさせていきたいと強く思っています。

白石 江口学長が提言された東京農業大学での「ガストロノミー」を基本軸として国連の持続可能な開発目標(SDGs)を包含した総合農学の実学的深化と進化の取り組みを高く評価しますし、国内外に広げられることを期待しています。

来年1月頃には基本法改正案の通常国会への提出が予想されます。新基本法の理念に江口学長のガストロノミーの重視と阿部組合長が強調された"農業は食や健康、人の幸せをつくる産業である"を中核に置くべきだと考えます。

さらに、SDGs時代の農協は、組合員に密着して地域コミュニティ・自然資源を保全しながら食料システムの持続的発展に貢献する使命発揮が求められ、基本理念に"農協"は組合員と共に"農業が人を幸せにする産業づくり(新たな価値発揮)のけん引軸"と明示すべきだと考えます。

きょうは未来志向の貴重な鼎談をさせていただき、ありがとうございました。

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