【クローズアップ・賃上げ問題】主要国で最低賃金の日本 前向きな賃上げ必須(1)経済ジャーナリスト・浅野純次氏2024年2月8日
今年の春闘の着地点は全体を見るとまだ不透明だ。そこで経済に詳しい元東洋経済新報社社長で経済ジャーナリストの浅野純次氏に「賃金をめぐる五つの論点」として賃上げ問題について解説してもらった。
1.なぜ賃金なのか
あまたの経済指標の中で賃金は最重要項目の一つだろう。国の規模と成長を示す指標であるGDP(国内総生産)を考える上でも賃金は極めて重要である。個人消費は日本のGDPの55%を占めていて成長や景気を左右する最大の要因であるが、それを決める主因は賃金だからだ。
かつて高度成長期には個人消費が安定して伸びる一方、民間設備投資や輸出が激しく増減して成長や景気循環を規定していた。しかし30年前から賃金の伸びが止まり個人消費が低迷し始めると国の成長も止まった。だからここで再び成長を期待するのであれば、政治家も経営者も、そして国民全体が賃金を上げる努力をしていかなければならないと思う。
2.世界に落伍する日本の賃金
かつて日本は高賃金国の一つだった。だが1990年代に入ると実質賃金上昇率は年1%がやっととなり、2000年代以降はほぼ0%が続いている。これでは国際的にみてもどんどん置き去りにされていかざるをえない。
賃金の国際比較には、為替、購買力平価、勤務形態、勤務時間など考慮すべき点が多々あるが、ここではOECD統計により比較してみる。2022年基準実質ドルレートで日本の4万1509ドルに対し、米国は7万7463ドルと実に1・86倍であり、ドイツ、英国、フランスが5万ドル台、韓国、イタリアは4万ドル台で、主要国では日本が最低である(グラフ参照)。
OECD38カ国中でも日本は25位で、今の1ドル145円という円安で換算すると次年度以降、さらに低下するだろう。下にはもうメキシコ、コロンビア、ギリシャくらいしかいない、そんな低賃金に憤慨しない人がいるとしたらよほどのお人好しであろう。
ではなぜ日本の賃金は伸びないのか。何よりも一人当たり付加価値生産性(略して生産性と呼ぶ)が低迷を続けていて人件費を増やす余裕がない。具体的には売り上げ総利益率(粗利益率)が低い状態が続いている。企業は総利益から人件費、金融費用などを支払い、あとは内部留保と配当に回すのだが、肝心の総利益が増えない。
なぜ増えないか。産業構造の転換と人、設備、技術への投資が進まないのが主因である。この30年間、多くの大企業は緊張感を欠いた経営で生き延びることができた。デフレ対策と称するばらまき政策とゼロ金利政策が続き、本来なら市場から退出すべき企業が居残った。このため世界水準の経営革新も技術革新も生まれなかった。これでは生産性は高まるはずがなく、賃金も留め置かざるをえない。
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