【能登半島地震から100日】現場踏まぬ復興プラン 投入資金"バブル"の恐れ 「榊」出荷の企業家北本政行氏に聞く2024年4月17日
金沢市で北本政行さん(72)が1976年に創業したデスタン株式会社(資本金3000万円)は、現在では神事に用いられる榊(さかき)の出荷実績では全国トップの会社である。北本氏はフランス・パリ大学卒で、異色の企業家として石川県では知られた存在である。地域社会のあり方について独自の意見を持つ。地震から能登半島がどう立ち直るべきかの意見を聞きに、4月8日に金沢市松村町の同社を訪ねた。
求められるボトムアップ型の復興プラン
デスタン株式会社代表取締役社長・北本政行さん
村田 今、被災者が期待しているのはどういうことでしょうか。
北本 1月元日に発生した大地震で着の身着のまま避難した人々への支援物資がまともに届けられなかった事態、たとえば1月5日になっても飲み水のない避難所があり、老人ホームにはまったく支援物資が届かなかったことに私は驚かされています。4月3日に台湾で起こったマグニチュード7・2の大地震での機敏な被災者支援と比べて無残としか言いようがありません。能登は群発地震など地震が続発してきた地域です。地区の公民館や避難指定場所に災害備蓄がなされていなかったことなど、自治体の危機対応に大きな不備があったのでしょう。
今、被災者が切実に期待しているのは、「どのくらいの時期に地域が復興し、元通りの生活ができるようになるのか」を知りたいということでしょう。それなくしては、地域に住み続ける意欲を被災者は維持することはできないのではないでしょうか。被災家屋の片付けや修繕作業にまともに手が付けられていない状況には言葉がありません。
村田 国交省の「計画策定支援」を受けて、「石川県令和6年能登半島地震復旧・復興本部」(本部長・馳浩知事)が2月1日に組織され、3月28日の第2回会議では「石川県創造的復興プラン(仮称)骨子案」が示されました。この復旧・復興本部のメンバーは県知事・副知事、県警本部長、教育長、総務部長以下各部部長と、古賀篤政府現地対策本部長、内閣府防災担当に加えて、総務省以下関連省庁の担当者です。県下の被災自治体の長はメンバーではありません。
「骨子案」は、その編成が国交省の示す「創造的復興プラン」そのままの引き写しで、冒頭の「基本的考え方」で、「被災地の住民・事業者の声を聞き、過去の災害からの復興の教訓を生かしながら復興を進める」としていますが、復興プラン策定の最初から住民の声を聞こうとはしていません。
北本 県の復旧・復興プラン本部のメンバーのほとんどは、能登半島の災害現場を見ていないのではないでしょうか。被災現場のたいへんな状況を見ていれば、事務局が国交省のプランを引き写しただけの金太郎あめ的な、つまり地震災害多発地域で、しかも地域住民の高齢化と過疎化・人口減少の激しい能登半島の復旧・復興プランとしては、現場を踏まえておらず、リアリティーにきわめて乏しいプランあり、被災者の期待に応えられるようなものではないことに気がつかないはずはありません。この点に関して、先日「呼びかけ人」18人の研究者が発表した緊急アピール「被災者主体の復興をめざして―国交省直轄調査による『計画策定支援」への懸念―』に私は賛同します。
「災害バブル」はいただけない
北本 仮設住宅は問題です。学校のグラウンドにまとまって100戸を超える仮設住宅団地をつくり、抽選で入居者を決める方法は大問題です。被災者が集落に住み続ける決断をするには、集落住民の徹底した相談ができるような仮設住宅のコミュニティー単位での配分が必要でしょう。
また、入居期間が2年間では、被災者は生業(なりわい)を取り戻すには短すぎます。さらに問題があります。
仮設住宅建設には、地元建設業者を排除し、東京が本社の大手4社しか入札に参加できません。仮設住宅建設に関する入札結果を聞きましたが、1戸当たり1650万円、仮設住宅建設作業員のための仮設住宅が650万円だというのです。プレハブの仮設住宅の建設費としては法外な価格です。
また作業現場の交通整理員の日当が2万5000円から2万7000円。交通整理員派遣会社に支払われる日当は、一人当たり8万円、つまりこの差額の5万円余りは、派遣会社に抜かれるということです。こんな馬鹿げた税金の使い方は、「災害バブル」としか言いようがありません。
災害復興資金がもっと被災者に直接渡ってほしいと願うのは、私だけではないでしょう。損壊住宅には300万円しか助成金が出ないのは問題です。能登半島地震は災害です。しかし、このままでは今後の復旧・復興は人災になってしまいます。
復旧でなく、新しい魅力あるまちづくりへ
北本 地震は大災害です。しかし、これはチャンスでもあります。地震災害半島能登を復旧させるだけでは人口減少は食いとめられません。これまでの能登半島は問題を提起する人材に恵まれませんでした。このままではいけない能登半島をどうするか。自治体や農協は、県や国任せにせず、新しい魅力あるまちづくりをどう進めるかで、地域住民・農協組合員の声をしっかり聴きながら、知恵をしぼらなければなりません。まずは、緊急アピールの呼びかけ人の先生方に相談に乗ってもらってはどうでしょうか。
(村田 武)
【併せて読みたい記事】
・現地レポート 能登半島地震から100日(1)真の復旧なお途上 (2024.4.16)
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