【東京農業大学鼎談】実学主義の価値(2)DX戦略にも地域色拡充2024年7月17日
東京農業大学が創立され今年で133年が経つ。これを機に同大学が実践する「実学主義の新展開」をテーマに鼎談を行った。出席者は東京農業大学学長の江口文陽氏をはじめ茨城県農協中央会会長でJA水戸、県五連会長やJA全農の副会長でもある八木岡努氏、同大学名誉教授の白石正彦氏。食と農の現状や課題、農大の役割など話は多岐に及んだ。
【東京農業大学鼎談】実学主義の価値(1)総合農学に新機能装備から続く
DX戦略にも地域色拡充
茨城県農協中央会会長 八木岡努氏
白石 本学も「AI(人工知能)で社会課題に挑む」を目標に掲げていますね。そのあたりも含めて、江口学長いかがでしょうか。
江口 八木岡会長がおっしゃったように、これからはDX戦略推進が重要です。そこで今、世田谷キャンパス、厚木キャンパス、北海道オホ―ツクキャンパスともにDX戦略的なプログラムをカリキュラムに導入し、全学生が受講できるようにしています。北海道オホ―ツクキャンパスは少し離れていますので、網走市と連携し、DX関連の講義を対面で行えるようにしています。
それから地球規模での温暖化の中で種苗の確保、育種は重要です。私たちが学生の頃、北海道はお米に不向きでしたけれど、今はおいしいお米ができます。気候が変化しただけではなく、地域、JA、大学・研究機関などが連携しながら地域に合った育種をしてきた努力が実ったのだと思います。
海外に行くと、地域ごとに野菜やフル―ツがあります。日本でも江戸東京野菜、京野菜のように、各地域の特産品を大切にしたい。そして、地域のオリジナリティをブランド化し、海外に輸出し、日本の農産物の素晴らしさ、安全・安心の食という強みをさらにPRしたいですね。
白石 JA鶴岡管内(山形県)の農家は、江戸時代からの在来種、だだちゃ豆を保持・持続的に育成し、JA専門部(部会)に結集し、JAは商標登録をし、販売活動も活発です。
八木岡 昔はおよそ中学校の学区くらいに在来種の種があって、結婚してもよその学区に種を持ち出すと仲たがいになるくらい厳しかった(笑)。それがどんどん、種をとる農家が減っていきました。だけど、その種がその地域に定着したのは「強み」があったからだと思うのです。そこを大学や研究機関で探り、守っていけないか。在来種の大豆を使ったみそ、しょうゆ、豆腐、納豆はめずらしい商材になっていきます。大規模化とブランド化、その両方をみていくことが茨城の農協の使命です。
厚木キャンパス
風土に密着した農の文化の再発見
白石 本学は、世田谷、厚木、オホ―ツクと3キャンパスを擁し、ガストロノミ―(地域風土に密着した食事や料理と文化の関係の考察、食文化・食に関わる総合的学問)にも取り組んでいますね。
江口 ガストロノミ―というと、食文化の中でもプロのシェフが作った美食というイメ―ジがありますが、私は、家庭の味や地域の味をどう生かすべきか考えています。焼きそばに入っているニンジンが、うちのはおいしい。地元の小麦で作った揚げパンが忘れられない。そういう地域の味を大切にしていきたいのです。
私は昨夜、フィリピンから帰国しました。フィリピンでは水牛が農地にいる牧歌的光景が広がっていますが、地域ごとにそれぞれのフル―ツがあり、お米も違ってオリジナリティがありました。地域に根差したオリジナリティを持てる学びのために、東京農業大学は3キャンパスと北海道から神奈川・静岡・沖縄県(宮古)まで農場があります。亜寒帯から亜熱帯まで、また大規模農業から集約的な農業まで、幅広い農学を学ぶことができます。
もう一つご紹介したいのは、3キャンパスにそれぞれ食品加工場があることです。消費地が離れている場合には、農産物の加工、半加工、6次産業化が重要です。キャンパスの特徴を生かして学びと研究を深め、学食では、網走産のホタテ、世田谷のきのこ、厚木のサツマイモを使ったメニュ―も期間限定で提供しています。
先ほど他大学が農学系の学部学科を新設していると言いましたが、本学は、その流れの中で、リ―ダ―シップを取れるような大学になっていかなければと考えています。全国の高校生が18歳で卒業すると3%が農学系学部に入ります。18歳人口は減っていますから、3%を6%、10%くらいまでもっていくことで、農業生産、一次産業を盛り立てたい。学びと研究を実装につなげるため産業界やJAグル―プなどと連携することが、今後の日本農業を持続的に発展させる力になると感じています。
北海道 オホーツクキャンパス
白石 連携を進めていく上でも広報活動が重要ですが、JAグル―プはどのように取り組んでおられますか。
八木岡 茨城県のJA県5連の会長になって4年目ですが、昨年、茨城JA会館に「クオリテLab(ラボ)」というキッチンスタジオを作りました。これまでの広報は組合員、内向けでしたが、これからは広く県民、消費者に対して、旬の食材だったり、健康寿命を伸ばすための地域健康プロジェクトのための料理だったり、プロスポ―ツ選手が練習前後に食べる補食の情報を保護者に流し、スポ―ツ少年少女にも勧めています。
全農が力を入れているほ場管理システムのザルビオやZ―GISも含めて、これから有益な情報を県民、国民に伝えられるよう発信力を高めたい。農業分野での発信は専門性がないとできませんので、後ろ盾になっていただくことを農大に期待しています。
オホ―ツクキャンパスのある網走市には何度か行きましたが、市や町、地域のホタテや毛ガニも、農大生が関わっていて、地域に受け入れられて、あてにされているんです。茨城、首都圏でも同じようにできないか。われわれJAグル―プは強みをキャンパスに発信するし、若い学生さんや卒業生のみなさんも、「働く場でこういう環境づくりをしてほしい」という双方向のやりとりができればうれしいなと思います。
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