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【25年度農水予算概算要求の課題】輸出に力も「水田」後回し 東京大学大学院教授 安藤光義氏2024年9月25日

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農水省の来年度の概算要求が明らかになっている。改正基本法を受けての要求であり注目される。農業構造政策や現場に詳しい、東京大学大学院教授の安藤光義氏に位置づけや課題を指摘してもらった。

東京大学大学院教授 安藤光義氏東京大学大学院教授 安藤光義氏

常に"歩留まり"頼りに

2025年度の農林水産予算概算要求が提出された。農業構造転換集中対策期間という位置づけだが、残念ながら、農業生産者にとってはそれほど期待できる内容とは思われない。以下に気になった点を記していく。

前年度並みの維持は難しい

2025年度の概算要求額は2兆6,389億円となった。24年度の予算額は2兆2,666億円なので16.3%の増加を要求しているが、この後の査定でどこまで残るかは分からない。場合によっては24年度の予算額を維持できないのではないか。

表は過去3年間の概算要求額と予算額の推移を示したものである。これをみると分かるように、要求・予算額に対して実際に認められた予算額は、22年度の84.9%から漸減傾向にあり、24年度は83.4%となっている。25年度の要求・予算額に対して、過去3年間で最大の84.9%となった場合は2兆2,786億円となり24年度を上回るが、24年度と同じ83.4%だと2兆2,008億円となり、前年度よりも600億円近くの減少となってしまう。

農林水産予算概算要求と予算額の推移

公共・非公共別の概算要求と予算額の推移

23年度の概算要求は22年度よりも抑えたが、認められた予算額の割合は84.9%から84.6%へと微減し、予算額は前年度よりも90億円以上減少している。25年度の概算要求も前年度よりも抑えたが、実際に認められる割合は前年並みかそれ以下となる可能性がある。

非公共事業費増の見込み薄

概算要求額の内訳だが、公共事業費は8,250億円で前年度予算額6,986億円から18.1%の増加、非公共事業費は1兆8,139億円で前年度予算額1兆5,700億円から11.5%の増加である。だが、問題はそれが実際の予算額にどこまで反映されるかである。

しかし、予算額は減っている。公共か非公共かで違いがあり、前者は数億円ずつ増えているが、非公共事業費は22年度から23年度にかけては減少、23年度と24年度は同額であり、増額の見込みは薄い。農林水産予算の大幅な増額を求める声が与党からあがっていたが、実際の概算要求はこの程度にとどまっているのである。

現場より"仕組み"傾倒

補正予算での獲得は本筋外

当初予算については厳しい状況が続いているが、それをカバーしているのが補正予算である。令和3年度は8,795億円(公共3,716億円、非公共5,079億円)、22年度は8,206億円(公共3,191億円、非公共5,061億円)、23年度8,182億円(公共3,592億円、非公共4,590億円)と当初予算の4割近くに達している。

こうした状態は異常なはずだが、半ば定着した感がある。24年度についてはまだのようだが、自民党総裁選後の選挙対策として大型の補正予算が組まれるのではないだろうか。補正予算頼みでは困るのである。正式な予算でしっかりと事業費を確保し、安定的な政策の遂行を目指すのが本筋ではないか。

水田農業予算増えていない

「令和の米騒動」と呼ばれる事態を引き起こしたことから、今後の政策の課題の一つが水田政策であることは言をまたない。だが、米粉の利用拡大支援対策事業(9,800万円)が新規に要求された程度で、水田活用の直接支払交付金等の概算要求は前年度予算と同額の3,015億円であった。主食用米不作付け水田面積は増加しており、それを維持するために交付金は増額されるべきだが、そうはなっていない。8月27日の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部で策定された「食料・農業・農村基本法改正等を受けた新たな政策の展開方向」で「輸入依存度の高い麦・大豆の増産(水田政策の見直し)」が政策課題として挙げられているが、「水田活用の直接支払交付金等3,015億円(対前年同)」とあるだけである。

水田政策の改革は大きな仕事となるので、総選挙が終わって政治が安定してからでないと始められないのだろう。

新規・拡充は食品産業中心

新規要求や予算拡充は輸出や食品産業が多い。2030年輸出5兆円目標の実現に向けた農林水産・食品の輸出促進(101億6,700万円→197億1,000万円)、持続可能な食品等流通総合対策事業(1億5,000万円→32億円)、新規事業創出・食品産業課題解決に向けた支援(6,000万円→1億7,300万円)、サプライチェーン連結強化プロジェクト事業(新規2億5,000万円)、地域の持続的な食料システム確立推進対策事業(新規3,100万円)などである。加工・業務用野菜の国産シェア奪還(7,700万円→1億4,500万円)も産地と食品産業をつなぐものである。

農水省の政策は食料供給力の強化より食料システムに重きが置かれているようである。改正基本法によって「食料の安定供給の確保」という基本理念が「食料安全保障の強化」に変わったことが如実に反映される結果となった。

投資促進"厚く"

改正基本法を受けての要求

不測時に備えた食料安定供給の構築(6,300万円→3億6,300万円)による調査分析が食料安全保障にどこまで貢献するかどうか。適正取引推進・消費者理解促進対策事業(3,000万円→4億円)は合理的な価格形成に向けた検討だが、実際にどのような制度が設計されることになるのか。この二つの事業の成果に注目したい。

スマート農業技術活用促進総合対策(12億1,200万円→69億9,000万円)、スタートアップへの総合支援(2億7,000万円→6億円)、スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート事業(4,500万円→32億500万円)、みどりの食料システム戦略推進総合対策(6億5,000万円→35億円)はスマート農業によるイノベーションと環境負荷低減のための事業であり、予想通りの大幅な増額要求となった。環境保全型農業直接支払交付金(26億4,100万円→31億円)も増額要求だが、これらと比べると見劣りする。直接支払いによって農業生産者に手当てを行うのではなく、投資促進を叱咤(しった)激励するというのが基本的な姿勢である。経済環境が変化してはしごが外されないかどうか、それだけのリスクを取り切れる農業生産者がどれだけいるか。

全体として想定の範囲の内容で新機軸はなく、また、要求額もさほどではなく、農業構造転換集中対策期間の最初の年の概算要求としては不満が残るところである。自民党の総裁選挙後に何か新しい動きが起きるかどうか、もう少し様子をみたいと思う。

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