【ドイツの有機農業を訪ねて】第3回 有機農業連盟「ビオラント」の有機農業基準 河原林孝由基・農中総研主席研究員2024年10月25日
ドイツの有機農業について、3回にわたって報告する。第3回は「ドイツ最大の有機農業連盟ビオラントの有機農業基準」について農林中金総合研究所の河原林孝由基主席研究員にレポートしてもらった
【ドイツの有機農業を訪ねて】第2回 連帯農業カルトッフェル・コンビナート "顔の見える"を訴求 橋本直史徳島大学講師
出典:Sonja Herpich/Bioland
農業者同盟(DBV)が発行している『年次農業情勢報告』の最新2023・24年度版によると、2022年末で、ドイツでは全国で3万6912経営が186万haで有機農業を展開している。有機農業は農業経営で14・2%、農地では11・2%のシェアである。
河原林孝由基
農中総研主席研究員
そして有機農業経営3万6912経営のうちの46・3%の1万7083経営は、EU有機農業基準やドイツ有機農業協会の有機農業基準を上回る独自の認証基準をもつ有機農業連盟9団体のいずれかに参加している。参加する有機農業連盟独自の有機ブランドを消費者にアピールするとともに、同じ連盟に参加する近隣の経営と連携することで、農場内店舗の有機産品の品ぞろえを図ることができる。
このシリーズで紹介した2つの農場は、いずれも会員7936経営を誇る最大の有機農業連盟である「ビオラント」に参加している。
有機農業連盟「ビオラント」の独自の認証基準を紹介しよう。
【ビオラントの「七つの原則」】
○循環型経済
循環型経済は、外部から肥料を供給しなくても食料を生産できることを前提としている。ふん尿や堆肥など、農業そのものから出る廃棄物は、畑の再生に利用される。したがってビオラントは、有機農業は化学合成窒素肥料なしでもやっていけると考えている。
○土壌の肥沃化を促進する
ビオラントの農家は化学肥料を使わない。しかし、土壌の肥よく度を高め、土中に十分な腐植を確保するためには、堆肥の施用やいわゆるキャッチクロップ(間作物)の植え付けなど、さまざまな対策が講じられている。その目的は土壌生物の数と活性を高めることにある。
○種に適した動物飼育
動物は特別なガイドラインに従って飼育されなければならない。基本的な考え方は、動物を生き物とみなすことである。そのためには、動物飼育において三つの基本原則を守る必要がある①飼料の質を高めること②飼育の質を高めること③そして飼育空間を広げること――である。
○価値ある食料の生産
焦点は食品そのものに当てられている。食品の味をより認識できるようにするため、たとえば、化学肥料や化学合成農薬の使用は避けるべきである。また、遺伝子組換えの植物は栽培してはならない。食品は加工においても注意深く行わなければならない。
○生物多様性の促進
生物多様性の保全は、自然の生物学的なバランスと安定性を確保することを目的としている。ビオラントは生物多様性を促進できる三つのレベルを区別している。それは、景観レベル、ほ場レベル、農場レベルである。
○生命の自然基盤を守る
地球、空気、水は、あらゆるものの生命の自然基盤を形成している。天然資源を大切にあつかい、持続可能な形で利用することがビオラントの原則の核心である。
○人々にとって生き甲斐のある未来の確保
資源はますます不足していくであろうから、未来は地域的なバリューチェーンにある。バリューチェーンの参加者(農家、小売業者、消費者)は、より緊密な関係を築き、互いに公平に接しなければならない。このシステムでは、地域のバリューチェーン内で、たとえば加工会社などで雇用が創出され、地域がさらに強化される。
有機農業連盟ビオラントは、この七つの有機農業基準の末尾に、EU有機農業基準との違いを表示している。
【表】ビオラントとEUオーガニック認証の統一規格との違い
以上から見えてくるのは、有機農業が「無農薬・無化学肥料」にとどまるものとして捉えられてはいないだけでなく、有機農業は地産地消型で、その担い手は企業的大農場ではなく家族農業経営であるとの確信である。
【ドイツの有機農業を訪ねて】第1回 ビオラント農場クレッポルト 手厚い公的助成金 山口和宏・鳥取環境大学准教授
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