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【2024米国大統領選】トランプ氏"再来" 日本農業覚悟必要 2期目の"くびき"なく貿易波乱も 農業ジャーナリスト山田優氏2024年11月13日

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もしトラがほぼトラになって、やっぱトラになった。トランプ氏が米大統領に選ばれたことで米国の農政や通商政策にどのような影響が出るのか。米国内の専門家に電話で話を聞いた。2回目の就任で「再選」のくびきから解き放されるトランプ2・0の4年間は、日本にも厳しいワイルドな時代になることを覚悟する必要がありそうだ。

2019年に大阪で開かれたG20会合で会見する当時のトランプ大統領と安倍首相、習近平国家主席。

2019年に大阪で開かれたG20会合で会見する当時のトランプ大統領と安倍首相、習近平国家主席(米国ホワイトハウス提供)

農村白人はトランプ支持の温床

やぱトラを招いたトランプ支持者の分析が米メディアでは盛んだ。その一つとして話題を集めたのが今年出版された『田舎の白人の怒り』(トーマス・シャーラー、ポール・ウォルドマン共著)だ。

技術革新で農業生産は急拡大したものの、農家数は減少。石炭生産量も増加した半面で炭鉱労働者は激減した。地方で雇用機会が減る中、農家を含めた地方居住の白人の間で人種差別、武力容認、移民の排除の傾向が広がり、トランプ支持の温床になったという内容だ。

ニューヨークタイムズ紙のコラムニスト、ポール・クルーグマンは今年2月にこの書籍を紹介し「尊厳の喪失が、農村部の白人の怒りと、その怒りが誤った方向に向かう理由の両方を説明する。11月に農村部の白人の大多数が、彼らの恨みを晴らす以外にはほとんど何も提供しない詐欺師、ドナルド・トランプに投票することは明らかだ」と断じた。

この書籍に対しては「結論ありきでデータ分析が不正確」という批判もあるが、都会のようにグローバル経済の恩恵に乗り切れず、衰退の一途にある地方住民が、関税の一律引き上げや化石燃料増産を唱えるトランプ氏に魅力を感じたのは間違いない。

農家はもっと打算的の声も

一方で、農家はもっと打算的に行動したという見方もある。

米パデュー大学は、毎月400の大型農家を対象に農家経済の先行きをどう見ているのかという調査をしている。大統領選挙直前の10月調査では、農家の作文から意向をあぶり出す手法で作成したイラストを公表した。「政治(ポリティクス)」「政策(ポリシー)」という言葉がもっとも多く使われ「生産資材(インプット)」「価格(プライス)」「安定(スタビリティー)」「税金(タックス)」「規制(レギュレーション)」などがそれに続いている。

農家の作文から意向をあぶり出す手法で作成したイラスト

農家の作文から意向をあぶり出す手法で作成したイラスト

同大学の研究者らは次のように分析している。

「(調査時点は)選挙を数週間後に控えていることもあり、政治的な話題が非常に多く挙げられた。重要なことは、生産者が、自分たちの農場や農業経済に影響を与えうる政策転換を考えていたことだ」

つまり農家は11月5日の4年間を決める大統領、上下院議員選挙で、農政上の強い関心を持って一票を投じた可能性が高い。

米大手農業メディアのファーム・プログレス社で編集責任者をするマイク・ウイルソンさんは次のように語る。

「農家は人格が気に入ってトランプに投票しているわけではない。経済や懐具合にとってどちらが好ましいかが大事。ビル・クリントンだって人格に相当問題があったが、再選された。経済が好調だったからだ」

バイデン・ハリス政権で経済は好調だったものの、農業生産資材価格の高騰、インフレなどがハリス候補の足を引っ張った。

ウィルソンさんによれば、トランプ氏が唱えている環境保護などの規制撤廃や減税への農家の期待が強い。トランプ1・0の時には中国との間で貿易戦争を招き、大豆などの輸出が大きくへこむなどの失点はあったものの、巨額の補助金をばらまいて農家の不満を抑え込んだ。

中国への農産物輸出で失敗したトランプ氏は、代替策として日本への輸出拡大構想をぶち上げた。2019年9月にニューヨークで開いた安倍、トランプ首脳会談は、日米貿易協定に合意。日本は環太平洋連携協定(TPP)から脱退した米国に牛肉などで大幅な市場開放を与えた。

首脳会談の場には、農家や牛肉団体の関係者がカウボーイハットをかぶって登場し、安倍首相の面前で10分間にわたってトランプ氏の手腕に感謝を表明した。安倍氏は黙ってそのやりとりを見守るだけだった。

トランプ大統領と日米貿易協定に合意した安倍首相。直後に米国の農家などが部屋に入って延々とトランプ氏の手腕を褒め称えた。安倍氏は一連のやり取りを眺めていただけだった(2019年9月ニューヨークで、米ホワイトハウス提供)

トランプ大統領と日米貿易協定に合意した安倍首相。直後に米国の農家などが部屋に入って延々とトランプ氏の手腕を褒め称えた。安倍氏は一連のやり取りを眺めていただけだった(2019年9月ニューヨークで、米ホワイトハウス提供)

中国への輸出減を埋め合わせるほどの効果はなかったものの、「トランプなら何かやってくれる」という宣伝にはなっただろう。

議会共和党がブレーキ役?

米議会スタッフなどを経て長年農政を追いかけているジャーナリストのエド・マイスナーさんはトランプ2・0で、新大統領がより過激になると指摘する。

「来年1月に彼が大統領に就任する時の態度は、前回とは違うだろう。初めて大統領に選出された場合、彼(彼女)は再選を意識する。任期中に選挙民の支持を得るために何をすれば良いのかを熱心に考えて仕事をする。しかし、2期目のトランプ氏は米国憲法上3期目がない。だから、1期目のように国民にこびる必要はなく、好き勝手に振る舞う可能性が大きい」

トランプ氏が主張する関税引き上げで農家がさらなる苦境に陥ろうと、補助金というあめ玉を出す必要が無い。労働力として欠かせない移民の締め出しで酪農や園芸分野の農家が悲鳴を上げようと、徹底した取り締まりを続けるだろう。

再選という重しがなくなったトランプ氏には怖いものがないのだろうか。

エドさんは議会共和党がブレーキをかけると考えている。

「議会の中でいちばん力がある財政委員会や農業委員会で、穏健な共和党議員がリーダーになる見通しだ。農業法は議会が決めるため、大統領はあまり関与できない。農政の大枠では民主党も違いは無いので、議会主導で穏健な内容に落ち着くだろう」

農務長官の下馬評に出てくる名前も比較的穏健な立場の人が多いという。

ただ、通商政策では強硬な姿勢を貫く可能性が指摘されている。「米国第一」の旗を掲げ、外国に対して大幅な譲歩を求めるのは、トランプ氏の通商交渉の1丁目1番地。

ウィルソンさんは言う。

「トランプ氏が孤立主義的な通商政策をとることは間違いない。関税を上げれば物事は解決すると考えている。注目しているのはライトハイザー元通商代表だ。彼はトランプ氏の指示通り徹底的に圧力をかけてきたし、新政権でも重要な役割を持っているとみられる。貿易摩擦が激化すれば米国の農家にとっては厳しい試練となるだろう」

日本は甘く見られている

農業法制定では米議会の穏健派がブレーキになりそうだが、通商政策では大統領のフリーハンドの部分が大きい。マイスナーさんやウィルソンさんによると、議会は関税を決めたり、通商交渉をスタートし協定を批准する権限を持っていたりするものの、安全保障などを理由に大統領が強引に進める余地がある。実際に1期目のTPP脱退や中国に対する大幅な関税引き上げに踏み切っている。よりトランプ色が濃くなった共和党指導部が、どこまで抵抗できるのかは不透明だ。

トランプ氏の目には、日本は何でも言うことを聞いてくれる国と映っているはずだ。1期目にはカウンターパートの安倍首相に「トウモロコシの新規輸入拡大」や「TPP並みの牛肉関税引き下げ・撤廃」などをのませた。日本の主力輸出商品である自動車に追加関税発動などトランプ流の脅しに屈したかたちで、トランプ氏の頭の中には成功体験として残っているだろう。日本の首相が安倍氏から石破氏に替わったことなど歯牙にもかけないはずだ。

トランプ氏は防衛問題で日本を揺さぶる可能性がある。「欧州の同盟国に比べ防衛費が少ない」「日米安保条約は米国だけが相手を守る義務を負わされ不公平」などと主張された場合、日本政府はトランプ氏の怒りをなだめるために妥協策を探ることになるだろう。これまでの日米交渉では、電器製品、自動車の輸出を守るために農産物が次々と犠牲になってきた歴史がある。

米国からどのような無理難題を要求されても、「農業を守る」と言う立場で日本政府が足並みをそろえることが最低限必要だ。「日米関係は外交の基軸」などと甘ったれたことを言うのではなく、トランプ氏の耳に痛いことでもずけずけ主張し、手強い姿勢を保つことが求められている。

トランプ2・0は波乱の幕開けになる。日本の政府や国会の覚悟が問われるだろう。

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