【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(3)2025年1月1日
改正食料・農業・農村基本法が成立、施行された2024年は「農政の大転換の年」と強調されたが、総選挙後の国会は少数与党と野党との協議で政策決定されるなど「政治の大転換」も期待される年となった。2025年にどう臨むのか。石破茂内閣総理大臣に聞いた。(聞き手:谷口信和東大名誉教授)
自給力の強化不可欠
生産調整見直しを提起
私は農林水産大臣のときに、生産調整を見直すと言って大騒ぎになりました。そのときに確か3大臣会合、麻生総理と中川昭一財務大臣、そして農林水産大臣の私で会合を持った。中川さんも農相を経験し農政はプロでしたから。そこで今までの農政を変えなきゃだめじゃないか、生産調整というのを本当にこれから先も続けていっていいのだろうかという議論を始めたんです。
真面目に生産調整の目標を達成する県もあれば、全然達成しない県もある。本当は一生懸命に米を作りたいのに、という県が生産調整を守って作られた価格に乗って、好きなように作って好きなように売るという県もいくつかあって、まじめな県が損するというような制度が長続きするはずもないし、正しいはずもないだろうと考えていました。
少なくとも正直者が馬鹿をみるような制度は改めるべきだということから、省内に改革チームを作って米生産の新しい政策をまとめました。
しかし、麻生さんが衆議院を解散して総選挙となり、自民党は惨敗して下野することになった。ただ、鳩山由紀夫内閣が発足するまでは麻生内閣であり、私は農林水産大臣だったので米政策についてのレポートを完成させました。その一部は民主党の直接支払いに応用されたと思っています。それが成功したかどうかはわかりません。
今起きていることは相変わらず食料自給率が上がらず、耕作放棄地は増えるばかり、農村の疲弊はまったく止まらない、ということです。都市一極集中も止まらない、基幹的農業従事者の高齢化は著しい。
自給力と自給率の違い
今から25年ほど前、私は森喜朗内閣で当時は総括政務次官と言っていましたが、副大臣をやっていました。そこで自給率というフィクションみたいな数字はやめようと言った。
今まで日本が自給率が高かった時期とは、多分、昭和20年の敗戦直後でしょう。外国から食料は入ってこないなかで、餓死する裁判官もいました。しかし、自給率とは、その国で食べているもののどれだけを国内で生産しているかという数字ですから、食生活の豊かさを表すものでもなんでもない。
自給率とは、あくまで結果であって、大事なのは農地がどれぐらい確保されているか、農業者の人口構成がサステナブルなのか、あるいはため池や水路といった農業インフラがどれだけ健全に維持されているか、さらに単収など農業生産を表す指標が維持・向上しているのかという一つ一つのパーツに分けて、その数字がどれだけ上がっていくのか。そのトータルが食料自給率ということであるでしょう。
しかし、そういうことを捨象して食料自給率だけを政策目標にすることは間違いなので、食料自給力という概念にすべきだということを当時から言っています。
その後、防衛大臣にもなりましたが、安全保障というときには、常に万一のことを考えて安全保障政策をやるのであって、食料自給率38%だから国家存亡の危機のときに3カ月しか持ちませんでは、有事が3カ月で終わるって誰が決めたのか、ということになってしまう。昔から言うように、腹が減っては戦さはできないので安全保障というからには本当に食料自給率、自給力ということをもう一度きちんと考えたいというのが根幹にあって、それは多分、江藤農相も共有しているんじゃないかと思います。
政策の長期性と可視化
谷口 そこは一貫して変わらない総理のご意見だと思います。その上で自給率、自給力を高めようと農水省も努力してきたとは思いますが、なかなかうまくいかないという現実があります。細かいことを抜きにして言えば、政策に長期性がないと感じます。何十年も前から猫の目農政と言われてきました。
そういうなかで総裁選でも触れられた直接所得補償的な中長期の視野で政策を打っていくことが必要なのではないか。今も直接所得補償的な政策はあると言いますが、それが現場の人には分かりづらい、つまり、可視化されていないという問題もあると思っています。現場の農業生産者はこういう政策支援を受けているんだということが分かって、これなら頑張ろうという気持ちになるような政策の長期性と可視化、これが今は欠けている印象があります。
石破 それはどちらもその通りで、毎年毎年、農業政策が変わるというような不安定なことでは、農業を営めるはずもない。そして、農業者に対してこの政策をやる意味はどこにあるのか、という可視化も必要です。
もう一つはずっと食料自給率が上がらないできた。でも誰も責任をとっていない、私も含めて。なぜ自給率が上がらないのか、その検証と理由の分析を行い、その改善を試みて目標を定め、それが達成できなかったときの検証の体制、PDCAサイクルを機能させていかないといけないと強く思っています。
谷口 もう一つ大事な点は、直接所得補償という場合には対象者を一部に絞るのではなく、支援の厚さは別にして農業にかかわる人全体を応援するんだというメッセージが必要ではないかと思います。なぜかといえばすべての農地を完全に生かそうとするためには、非常に効率のいい場所で農業をやる人もいるけれども、そうじゃない場所の農地も必要なわけで、それも生かしていく戦略が必要だと思います。
重要な記事
最新の記事
-
【年頭あいさつ 2025】小澤 敏 クロップライフジャパン 会長2025年1月3日
-
【年頭あいさつ 2025】栗原秀樹 全国農薬協同組合 理事長2025年1月3日
-
【年頭あいさつ 2025】的場稔 シンジェンタジャパン株式会社 代表取締役会長2025年1月3日
-
【年頭あいさつ 2025】井上雅夫 住友化学株式会社 執行役員アグロ事業部担当2025年1月3日
-
【年頭あいさつ 2025】岩田浩幸 日本農薬株式会社 代表取締役社2025年1月3日
-
【年頭あいさつ 2025】国際協同組合年機に反転 村上光雄 一般社団法人 農協協会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】基本法理念 実現の時 江藤拓 農林水産大臣2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】基本法の具体化に全力 山野徹 全国農業協同組合中央会 代表理事会長2025年1月2日
-
食と農を未来へつなぐ【年頭あいさつ 2025】折原敬一 全国農業協同組合連合会 経営管理委員会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】利用者本位の活動基調に 青江伯夫 全国共済農業協同組合連合会 経営管理委員会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】つながり強化戦略推進 奥和登 農林中央金庫 代表理事理事長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】医療、福祉の充実に一丸 長谷川浩敏 全国厚生農業協同組合連合会 代表理事会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】『家の光』創刊100周年 JA教育文化活動支援に尽くす 栗原隆政 (一社)家の光協会 代表理事会長2025年1月2日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(2)2025年1月1日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(3)2025年1月1日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(4)2025年1月1日
-
2025年度 農林水産関係予算 2兆2706億円 前年より20億円増2024年12月27日
-
【特殊報】モモほ場で「モモ果実赤点病」県内で初めて確認 愛知県2024年12月27日
-
【特殊報】ブドウにシタベニハゴロモ 県内の果樹園地で初めて確認 富山県2024年12月27日
-
【注意報】かぼちゃにアブラムシ類 八重山地域で多発 沖縄県2024年12月27日