「自民党農政を問う」テーマに第19回農協研究会2013年3月11日
農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は3月9日、「自民党農政を問う」をテーマに第19回研究会を都内で開いた。昨年の総選挙で再び自民党に政権交代し、今後の農政は大きく転換することが想定される。研究会では自民党農林水産戦略調査会会長の中谷元氏とJA全中専務理事の冨士重夫氏がそれぞれの立場で今後の農政への対応について報告した。
農林水産業の多面的機能に交付金
【報告1】
今後の農業基本政策について
中谷元・自民党農林水産戦略調査会会長
自民党もJAも、これまで必死で日本の農産物を守ってきました。日米農産物貿易交渉やガット・ウルグアイラウンド、WTOなど一連の農業交渉の中で、日本の重要な品目は関税の引き下げを認めていません。JAのみなさんとは強い信頼関係にあります。一緒にこれまでのように農業を守っていこうと思っています。
◆言うべきことを言い農業を守る
先の安倍首相・オバマ米大統領会談の共同声明については、「よくやった」「だまされた」と、党内の評価は分かれています。しかし聖域を認めさせ、日本の農産物、アメリカの工業製品は、センシティブな品目として全ての関税を撤廃することは求められないと確認したことは成果だと考えています。「聖域」についてはいろいろな意見がありますが、大事なものは守るということが確認できたと思っています。
いまのところ情報がまったく入らないので、TPPに乗っていいのかどうか、判断できません。安倍総理には、国民に対して日本の農業を守る約束をするようにと申し入れました。「その気持ちを持っている」と話しておられるので、その考えにそって、しっかり日本の農業守っていただきたい。
◆TPP対策委員会で戦い方検討
個別に戦っては勝てないので、米国のUSTR(アメリカ通商代表部)に匹敵する作戦本部が必要ということで党内にTPP対策委員会を設けました。農業や医療、自動車など各分野で、これからの戦い方を検討しています。農水省、JAとも土俵をひとつにして戦わないと強くなりません。特にJAとは信頼関係があり、一枚岩となって全力で取り組みます。
自民党のこれからの農政のポイントは、農林水産業が持つ、食料供給以外の多面的機能を評価して交付金を交付することにあります。
これまで中山間地域の農業へ直接支払っていたものを平場にも拡大しようというものです。中山間地にはさらに加算します。第2に農業資源の適切な管理、および農村の自然環境の保全活動を促すための交付金です。従来の農地・水・環境保全対策を拡大させたものです。
さらに森林、水産業および漁村多面的機能の発揮のための交付金交付です。漁業者には日本の海を守ってもらわなければなりません。
◆就農支援し農地活用の仕組みを
そして農林水産業の担い手への支援があります。地元の高知県に帰ると、UターンやJターンで就農し、やっと経営ができるようになったとき、地主から、借りた農地の返還を求められて困っているという話を聞きます。一生懸命やってうまくいったら、農地が確保できるようにしないと安心して就農できません。耕作放棄地を利用した共同経営など、土地を地域でうまく使えるようにして、担い手を守っていかなければなりません。
自民党には、日本の農業をリードしてきた農政の歴史があります。先輩たちがやってきたように、農業の課題を一つひとつ議論しながらやっていきます。
◎質疑応答
―農業等の多面的機能の交付金の法律が成案になるのはいつごろか。
◆交付金制度、概算要求へ
すでに自民党が野党のときに国会に提出しているが、民主党政権の戸別所得補償制度と、水田・畑作経営所得安定対策を比較し、農水省で試算している。大規模も小規模も、農業をやっていない土地所有者も補償金がもらえる今の制度はやはり問題があり、一生懸命やっている人に補償するようにする必要がある。7月の予算概算要求に向けて仕組みづくりを進めたい。実際は秋の臨時国会に提案することになるだろう。
―多面的機能の制度は戸別補償制度をベーシックとして上乗せすることになるのか。
◆多面的機能を上乗せ
そう考えている。いまの中山間地直接支払に対する批判は出ていない。これを平野部にも広げることになる。自民、公明党の政治レベルでは合意を得ているが、水田の多面的機能や農村の環境や文化を守ることが、公共の事業だという観点から国民の理解を得たいと考えている。
―農林業は環境、地域を守るだけでなく、ダイズなどはエタノールとしてエネルギー源にもなる。TPP交渉に入った場合、国内対策として考えているのか。
常在戦場である。TPPを受け入れたわけではないが、エネルギー問題は将来の備えとして必要だ。これまでもオレンジ、牛肉自由化交渉で我々は何度も大会を開き、農家の気持ちを政府に伝えてきた。これからの日本農業のあるべき姿も当然念頭に置いて検討していく。
TPPの交渉内容は漏らされないようになっており、また日本が参加表明しても、アメリカ議会の承認が必要で、それには90日かかる。今年の秋までは日本では、外務省と経産省以外は分からない。TPP後発国はさらに追加措置が求められるようだが、本当なのかどうかもわからない。ただ、どうあろうと守るべきものは守る。
―食料自給率に50%確保は、民主党政府の方針だった。TPP参加後も50%目標は保持するのか。
◆自給率50%は継続
自給率は国の安全保障の上でも大事なことは、みんな分かっている。世界の食料危機がいつ起こるか分からない。50%は維持すべきだと考えている。それは農水省の予算を増やさないとできない。外国に負けないよう競争力を高めるためには土地改良や農道整備も必要だ。しかし、現実には農林予算は年々減っている。
もう一つは地産地消、6次産業化を進め農家の所得を安定させなければならない。これがようやく定着してきた。安全で安心できる国産農産物に対する評価が高まっている。もっともっと国産への認識を高める必要がある。それに応えるためにも50%をキープしたい。
―国益を守るのは当然だが、TPP交渉の中身が分からない。蓋をあけてみたら、とんでもないことだったとならないか。
◆組むべき相手をみて
参加国の中でもそれぞれ2国間で難航している問題もある。それをチャラにして交渉を始めることにはならないだろう。組むべき相手をみて戦っていく。途中で降りることができるかどうかは分からないが、国益を守るため必要なことは主張し、行動しなければならない。改めて農政の歴史をみると先輩たちはよく戦ってきていると感じる。
―ウルグアイラウンド、WTOときて、いま守っている品目は日本の土地利用型農業の最後の砦である。これを失うと日本農業の根幹を崩すことになる。そのことを認識してほしい。
交渉に参加しても、日本農業の死を招くような決着を受け入れる気はない。最終的に国会で承認しないという決断もできる。これは一つの国難であるという認識で精いっぱいやっていく。
【報告2】
新たな農業政策へのJAグループの対応
冨士重夫・JA全中専務理事
◆時代認識をふまえて
自民党に政権交代し、26年度からの本格的な農政改革が注目される。そのなかでJAグループが現在検討している新たな農政に対する考え方についてJA全中の冨士重夫専務が報告した。
冨士専務は、食料に対する見方が戦略的に輸出を押し進める「農産物余剰時代」からエネルギー原料としての利用や世界人口の急増、中国の食生活の変化などによって世界レベルで変わってきたとして、この時代認識にたって日本は今後、先進国としてどのような政策をとっていくのかを根本に据える必要があると強調した。
また、自民党と民主党を比較したうえでの今後の農政の着眼点に▽WTOの規律とこれまでの民主党農政をふまえて新たな政策をどう構築していくか▽全国一律補償か地域主義補償か▽品目統一でのバラマキ補償か「産地づくり交付金」のような担い手重視による補償か―を挙げ、そのうえでJAグループの考え方として(1)日本型直接支払(2)品目別対策(3)農業者経営対策(4)生産・流通・消費対策(5)知的財産戦略確立対策(6)地域活性化対策―の6項目を述べた。
◆多面的機能を重視
(1)では、第26回JA全国大会決議に盛り込んだ「農業・農村の多面的機能に着目した新たな直接支払い」を具体化し、活力ある時代の農業・農村づくりに向けた農政の確立をめざすため、多面的機能に着目した直接支払いは現行の品目別対策による経営安定対策とは別に、「農地を農地として利用する責務」を果たすすべての生産者個人に「基礎支払い」を地目別で新たに交付、それとあわせて中山間地域支払いや農地・水保全管理支払い、農地集積や担い手の特定など「地域営農ビジョン」に基づいた協同活動などの取り組みに上乗せで「加算支払い」する「2階建て」での考え方を述べた。
また、現行の10aあたり1万5000円の考え方の見直しや、定額給付となっている水田利活用自給力向上事業についても再構築する必要性を指摘した。
◆作物特性を考慮
(2)では直接支払いを前提としながらも、それとは別に作物特性をふまえた需給や価格変動への対応策を挙げた。
水田農業対策については、主食用米の需要が減少するなか、現在MA米や備蓄米によって供給されている加工用米などに着目し、「減反」から需要の多様化にあわせた「用途別供給管理」体制の構築で、「水田を最大限活用」していく政策転換の重要性を強調した。また、棚上げ備蓄に若干の上限枠を設け、予期せぬ需給変動には政府責任で価格の安定に対応する管理体制の必要性を強調した。
また、畜産対策では、畜種別の経営安定対策の強化を強調。飼料価格が高騰するなかで配合飼料に占めるコストの割合が畜種ごとに異なることから、「入口」対策の「配合飼料価格安定制度」と「出口」対策の「畜産経営安定対策」を畜種ごとにどう組み合わせていくか見直しが必要であるとした。
酪農では年々飲用需要が減少する一方で、需給が増加しているチーズを突破口に輸入シェアの代替をめざした国内産の製造・販売の取り組み支援と、メガファームに比べ経営の安定化を図っていくことが難しい都府県の家族経営を中心にした対策の必要性を指摘した。
(3)ではJA出資法人をより全国的に広めていくため、JA出資法人の設立や、農業の高付加価値化をすすめるためJA主導で企業・行政などとの共同事業による取り組みの検討を挙げたほか、(6)では小水力や風力、バイオマスなどを自然再生可能エネルギーの材料にするだけでなく、地域農業の活性化ともつながる対策を考えたいとした。
◇ ◇
しかし政策への対応より先にTPP問題が大きな局面を迎えている。冨士専務は日米首脳会談後の共同声明について、「『聖域なき関税撤廃』を前提にしたものとしか理解できない。極めて曖昧で危険だというのがわれわれの受けとめ」と述べ、「どう交渉に臨むのかという政府としての方針がしっかりとなければならない。方針をきちんと確立しなければ理解も納得もできない」と交渉参加反対への考えを強調した。
(関連記事)
・【TPP】自民党の対策委員会が検討開始(2013.03.07)
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