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【TPP】米国ルールの受け入れ 大学教員の会2013年4月12日

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 4月10日に記者会見や意見交換を行った「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の呼びかけ人はそれぞれの専門分野からTPPの危険性、日本政府の問題点などを訴えた。主要な発言を紹介する(発言要旨を本紙が構成)。
 なお同会の賛同者は4月11日午後1時現在で878人となっている。

TPPは大企業の都合に合わせる
第3の構造改革

【萩原伸次郎・横浜国大名誉教授(アメリカ経済論】

 TPPは日本が東アジア共同体路線に突き進んでいくことを止めさせ米国中心の貿易システムをアジアに広げていく米国の戦略だ。いつのまにか日本はからめとられてしまった。それはなぜなのか。
 実は米国は貿易政策でかなり追い込まれている。WTO交渉ではインドと中国と農業問題で決裂した。一方、すでにあるNAFTA(北米自由貿易協定)を中南米に広げていく構想ができていたが、これは米国の多国籍企業の利益を追求するのみだという反発が中南米諸国から出てきて決裂した。結局、米国は環太平洋、東アジアに利益を求めざるを得ないという状況のなかでTPPが出てきた。したがって、そのなかに入っていくと米国にとって都合のいいルールが通されていくことになる。
 日米構造協議、年次改革要望書に基づいた橋本改革と小泉構造改革で展開してきた、国内経済を尊重するというルールが踏みにじられてきたという歴史がある。その点を考えるとTPPは第3の開国というより小泉構造改革を引き継ぐ、新自由主義的な改革を進めていくもの。単に自由貿易協定ということではなくて国内の構造を大企業、多国籍企業の都合のいい仕組みに変えていく「第3の構造改革」になるのではないか。国民的立場から考えるとこれはやめたほうがいい。日本は東アジア中心のシステムに回帰すべきだ。

TPPは米国のルールに従うこと
日本の制度が水泡に帰す
【金子勝・慶大教授(財政論)】

TPPの危険性を訴える金子勝教授 2001年頃、当時の黒田財務官(現日銀総裁)が猛烈な円安誘導と金融緩和を行った小泉構造改革と今は非常に状況が似ている。米国の投資家を呼び込むための政策が進んでいる。そのときも警鐘を鳴らしたが、気がついたときにはひどい状況になっていた。
 これを思い起こしているのは、今こそきちんと議論すべき論点をしっかり出すべきだと思うからだ。生活が楽になるとか、何が安くなる、高くなるという次元の話が飛び交っていることを非常に憂慮している。
 米国大統領は07年に包括的な貿易交渉権限(TPA)を失っている。したがって(大統領の言葉は)何の約束にもなっていない。米国では議会に法案を提出してTPPを締結するというプロセス。米国議会には反対勢力もいる。だから通商代表部がバイ(2国交渉)で1か国、2か国と詰めていく――、つまり、米国議会を通りやすいように米国の利害に沿った内容で交渉しているのが実態であって、実はTPP交渉の場はルールづくりの場になっていない可能性が高い。そこをきちんと見るべきだ。
 もうひとつは長い流れで物事をみるべき。07年に米国大統領のTPAが失効したのはドーハ・ラウンドが決裂したから。それはセーフガードをめぐってインドと中国と対立したからだったが、農業ではそれ以外にEUとの対立があった。実はドーハラウンドは米国が蹴ったもので、自分の思い通りにならなければ成功ではないというのが米国の立場である。 それ以降、たくさんのEPAとFTAが結ばれるようになってきている。その意味は、より自分に有利なルール圏の囲い込み合戦が起きているということ。それは米国のルールに従うようなものになる。日本が積み上げてきた努力や制度が将来、水泡に帰しかねない。
 したがって、われわれの国益が存在するとすれば、自らにとって何が有利かを多様な選択肢のなかで考えていくべきであり、その冷静さを失っているのではないか。イラク戦争に参加したときも米国についていかないと将来が成り立たないと思わされたような、非常に情緒的な議論に流されてしまっている。
 (米国の戦略から)途中で抜けられなくなるのはカナダやメキシコの例を見れば分かるが、一旦参加したら最後までいくしかない。したがって、最後に日本側に非常に不利な条件でも丸呑みしてしまう危険性が非常に高まっている。
 そこで、交渉参加表明があった段階できちんとした論点を日本国民が共有して議論することが必要だ。構造改革を煽ったが結果として格差は生まれる、貧困は生まれることになったのと同じになる。きちんと判断する材料を提供する責務がわれわれにある。

農業改革論とのすり替えは間違い
事前協議とは国民の暮らしを差し出すもの
【鈴木宣弘・東大教授(農業経済学)】

 「聖域」を守ることができるという論議で参加表明が行われたが、日本がこれまでのFTA交渉で除外してきた品目は834。全品目の10%を占める。しかし、TPPは1%程度しか除外できないことがほぼ明らかになっていることから、誰から見ても10%を除外することは不可能だ。それが明らかなのに、守ると言って参加表明した。これからどういうことになるのか?
 守ると言い続けるのであればどこかでその責任を取ることが問われてくる。途中で脱退するのか、サインしないのか、本当にそれをやるのか。それともまた嘘の上乗せで国民をごまかすのか、そこを厳しく問うていかなければならない。
 聖域を守れるかどうかと関係することでもあるが、米国は取引条件として必ずこれまでの規制緩和要求が十分に実現していない部分について、たとえば医療や食の安全性のこれまでの積み残し分について必ず実現させることをセットで要求してくる。
 実はこれはすでに2年前から裏交渉でTPP参加の『頭金』として支払いが要求されてきた。国民に対しては完全に秘密にされたが、2月の日米共同声明で公然の秘密となった。自動車、保険、さらにその他の非関税障壁として食品の安全性についても規制緩和が求められている。しかし、公然の秘密になったにもかかわらず、どこまで国民の命と暮らしを守るための仕組みを米国に差し出しているのかについて、まだ何も政府は言っていない。これを絶対に明らかにしてもらう必要がある。どこまで国民の暮らしを米国に譲ってしまったのかということを説明すべきだ。そのうえで譲れないことも譲れないと米国に言うべきで、それがなければ日本の暮らしはもたない。 それから農業を改革すればいいという議論とのすり替えが多いが、それは間違っている。農業強化は大事だが、TPPの原則では農業が崩壊する。
 農業が過保護だというが、日本はこれまで関税を下げ補助金を削ってきた世界でもっとも保護削減の優等生であったという事実が今の状態を招いているのであって、本当に過保護ならもっと所得が増えて生産も増えているはず。そのような農業悪玉論は農業の貿易自由化で利益を得ることができる人たちによる。間違ったデータによる世論形成であり、マスコミも正しいデータで議論すべきだ。
 これはまさに一部の大企業など、本当に日本には金だけしか見ないような人々がリードしているという大変な問題で農業悪玉論を盛り上げることによって他の問題を隠してごまかそうとしていることをきちんと検証しなくてはいけない。
 影響試算が出たが、TPPでGDPを0.66%、3.2兆円増やすというが、日中の2国でも0.66%増だ。ASEAN+日中間ならTPPの倍(1.04%増)の利益がある。いかにアジア中心のFTAのほうが日本にとって利益があるか。失うものは最大で得られるものはもっとも少ないのがTPPだ。
 一部には農家には年間1兆円払うからどうかという議論がまた出てくる。しかし、このような条件闘争でなんとかなるような生易しい協定ではない。本当に金銭補償するから、農業だけで少なくとも毎年3、4兆円が必要になるという計算もある。なによりもこれを受け入れたら国民の暮らしが壊される。取り返しがつかない。だから絶対に条件闘争の議論に巻き込まれないようにしなければならない。

民主主義の根本に関わる問題
【大西広・慶大教授(理論経済学)】

 先の総選挙のときに自民党がどのような公約をしたかという民主主義の問題がある。
 それは嘘をつかない、TPP断固反対というものだった。しかし、今は嘘をつかないと言って、嘘をついたという状況だ。これはいかにTPPに賛成の人でもこのような経過を許すわけにはいかないのではないか。日本の民主主義の問題だ。
 政府の影響試算では3.2兆円の純増があるとしている。一般均衡理論のモデルによる計算とは、関税ゼロになれば価格体系は確かに変化するから、その価格体系の変化に応じて最適な資源分配が行われるというものだが、実はどのような分配の方法が最適なのかをあらかじめ考えた結果としての計算なのである。
 その最適な資源の分配には日本の労働力の再分配も含まれていて、こちらの雇用が減った分だけこちらの雇用が増えるのが最適であるという前提での計算になっているのである。
 想定されているのは農業部門で就業者減があるが、一方で輸出・製造部門での大きな増がある、ということになっている。しかし、よく考えなければならないのは、農業部門で今まで働いていた学卒者でない労働者は新たに製造業部門に移動して正規雇用で雇われるはずがない、ということだ。非正規で雇われた場合、今までの生活が保障できるだけの利益増があるというのはどう考えても考えられない。何万人の労働力が減って、替わりに何万人の雇用が生まれるというのはモデルでは出てくるが現実問題としてあり得ない。
 このモデルの利用の仕方にはそもそも大きな問題があることを今後強く指摘していきたい。

秘密主義はまったく異例の交渉
【伊藤誠・東大名誉教授(理論経済学)】

 ISD条項は、日本の法律体系を無効にするおそれがある。さまざまな規制に対して企業の側からTPPの合意に反すると提訴し国家に巨額の賠償を請求できるようなことが心配されている。
 TPP条項は900頁にも及ぶといわれているが、昨日の要望書提出に際に念のため政府にこの条項を手に入れているかを聞いてみたが、どこにもないとの返事だった。まったく参加しなければ見せてもらえないし、参加したとしても一般民衆には手に入らないようなかたちで参加し、それを呑むか呑まないかということになる。まったく異例の、これまでの国際的アグリーメントを形成するときのやり方ともまったく違うやり方だ。これは米国内の市民団体も大統領すら読んでいないのではないか、議会の通商責任者も読んでいないのではないかと訴えている。これは民主主義の根本に反する。情報を公開して民衆がそれぞれ適切な判断を下すというルールに反するやり方で進められようとしている。できるだけ情報を公開するように強く訴えたい。

TPPは農業問題だけではない
共同研究で明らかにしたい 
【醍醐總・東大名誉教授(財務会計論)】

TPP問題についてかたる醍醐教授(右) 正面からぶつかり合う議論をもっとやる必要がある。公開討論会もおおいにやりたいと思っている。
 (推進派学者も)マスコミの場で一方的に独演できる場だけではなくて、反対派とぶつかり合う議論の場に出てきてほしい。そのうえで自身の確信を持っていること、たとえば伊藤元重・東大教授はTPP参加でGDPの半分ぐらい押し上げるといっているが、ぜひその根拠をぜひ聞きたい。多くの方が見ている場でそのようなやりとりをしたい。
 また、せっかくこれだけの大学人が参加したのだから政府の影響試算について共同研究で検証したい。
 財務畑の人間からすれば農業への影響試算は十分でないとみている。本来なら財政への影響を検証しなければならない。農業生産額の減少は農業はもちろん、流通、販売、それに関連した事業者の所得にどのような影響が出るのかが問題。さらにその所得がそれぞれの自治体の、たとえば地方税収入の所得割部分にどのような影響が出てくるのか、研究者としてきちんと検証する必要がある。かつ自治体の地方税収に影響が出れば財政力指数が動くことになるから、地方交付税交付金の基準財政需要が動く。そうなれば国の財政にも直に関わっている問題だということになる。 このような研究のなかでTPPは農業問題だけではないということを情報提供していく役割を果たしていけないかと考えている。

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