「国際貿易に関するWFOの政策」を策定2013年4月24日
4月15?17日の3日間、新潟県の朱鷺メッセを会場に世界の農業団体が加盟するWFO(世界農業者機構)の第3回総会が開かれた。48カ国から72団体、250人が参加し、4つの分科会(「気候変動」「青年と女性」「バリューチェーン」「食糧安全保障」)に分かれて議論を行い、課題を共有した。
本総会での「最大の成果」は、「国際貿易に関するWFOの政策」(以下、「政策」)を策定できたことだ。
その前文では▽世界の人々に食料を供給する重大な役割を果たしている農業者▽各国の国内経済と農村社会の双方で成長や雇用創出をするため農業分野の成長が不可欠なこと、などを強調したうえで、貿易協定では「農業は引き続き他の経済分野と異なる形で取り扱われなければならない」ことをアピールしている。
このWFOが採択した「政策」の意義とは何か、農業者にとってどのようなメリットがあるのか、考えてみたい。
Q 「国際貿易に関するWFOの政策」って、そもそも何なの?
A 国際貿易というと、今日本では多くの人が「TPP」を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、農産物の国際貿易を行うことの意味について、WFOのロバート・カールソン会長は次のような認識を示している。
「世界の人口は毎日22万人ペースで増加しているが、土地資源や水資源には限りがある。極端な気候変動により生産条件も変化しているなか、生産量を増やして世界の人々に食料を安定的に提供し、産地と食を必要とする人を結びつけるために、貿易は重要な役割を担う」。
つまり、不足するものを補い合うという、いわば「貿易」の原点を各国が確認し、共通の認識に立つことを表明したのが今回の「WFOの政策」といえるだろう。
Q 2国間交渉よりも多角的な貿易を重視するのはなぜ?
A 「政策」では「2国間や地域の交渉よりも、多角的な交渉が望ましい」としている。カールソン会長は「いまやWTO(世界貿易機関)交渉は行き詰まっているが、私たちはWTOによる多角的な交渉が最良の手段であると考えている」と語る。
そして、その交渉のなかでとくに重要なことして「共通の基準、指針となる原則を設けたり、国際基準をきちんと評価すること」だという。それによって「農業者が市場における権力の乱用の犠牲者にならないで、安全で栄養豊かな農産物を将来にわたって、必要とする人に届けることができる」と強調した。 WTOの原則は「互恵主義」。農産物貿易が必要だとしても、各国の農業が持続できるルールづくりはWTOの原則を尊重すれば実現可能というのが世界の農業の考えだといえるだろう。
また「市場における力の乱用」を防ぐために、協同組合や共同販売活動など「農業者による強力な組織が効率的に機能するよう、競争政策を各国政府に求める」という一文が入ったことも評価できる。
Q 参加国には輸出国も。立場が生産規模が異なるのになぜ一致できたの?
A WFOの参加国は、先進国と途上国、農産物輸出国と輸入国、また大規模農業と小規模農業など、それぞれに立場が大きく違う。カールソン会長はWFOを立ち上げた当初、「すぐに立ちゆかなくなるだろうと揶揄された」と話す。にもかかわらず「政策」として合意できたのは「世界中の家族に、よりよい生活を与え、自分たちの農場を次世代につなぎ、地域の発展に貢献したい」という「根源的な思い」があったからだと語っている。
Q TPP交渉への影響はあるの?
A 今回の「政策」ではTPPには言及されていない。萬歳章・JA全中会長は記者会見で「WFOの政策は世界の農業者共通の希望をまとめたもの。TPPを抜き出してこれに対する立場を表明したものではない」と語ったものの、同時に「TPP断固反対という姿勢は変わらない」と強調した。その意味をどう考えるべきだろうか。 今回の「政策」にはその目的として「市場アクセスの改善」という事項は盛り込まれたものの、TPPのような「関税撤廃」などという極端な考え方はどこにも見あたらない。さらに各国が尊重すべき「指針となる原則」のなかでは「すべての政府は、自国の農業政策を自ら策定する権利を持たなければならない」、「貿易ルールはセーフティネット、計画流通、供給管理など、安定供給を促進する国内政策措置を認めるものであるべき」と明記されている。
これらは関税だけでなく各国独自の政策や規制なども緩和、撤廃しようとするTPPの思想とは明らかに異なる。今回の合意にはTPP参加国で農産物の自由化を主張するニュージーランドも加わった。今後、TPP交渉が進むにしても、このWFO合意をもとに、世界の農業者と連携し極端な農産物貿易に歯止めをかける動きにつながることが期待される。
総会は来年アルゼンチンで開催される。
【国際貿易におけるWFOの政策】(要旨)
○前文
農業者は世界の人々に食糧を供給する重大な役割を果たしているが、直面する課題は増え続けている。世界の土地資源、水資源には限りがあり、極端な気候変動により生産条件も変化している。
そのようななか、将来にわたり安定的かつ確実に食糧供給を確保し、農業が国内経済、農村社会の双方において成長と雇用創出に貢献し続けるには、強力で成長する農業分野が不可欠である。
貿易の推進はこれらの課題に対する重要な解決策。公正で、透明で、予見可能な貿易環境で活動できるように、WFOとして、意欲的な貿易政策目標の追求、世界の農産物貿易システムの強化に取り組んでいく必要がある。
同様に重要なのは、世界中の農業者が経済、社会、環境において広範な役割を果たすこと、そして後発開発途上国固有のニーズが考慮されるよう、貿易交渉が基本原則にのっとって行われることである。さらに、食糧安全保障や農村が根本的に重要であるという認識に立って、貿易協定においては、農業は引き続き他の経済分野と異なる形で取り扱われなければならない。
○WFOは世界の農産物貿易システムを強化するため、以下の取り組みを求める
・国際基準の確立、強化(基準確立のさい農業団体との対話がなされるべき)
・WTOと整合しない保護的な措置の削減
・後発開発途上国の農業者(女性農業者を含む)への能力開発支援の促進
・農産物市場の透明性と予測可能性を向上させる
・市場開放により農業者が公平に利益を得るようにする
○指針となる原則
・農業分野に影響を与える協定(貧困や飢餓の削減を目的とした国際協定など)との整合性を図る
・すべての政府は、自国の農業政策を自ら策定する権利を持つ。貿易ルールはセーフティーネット、計画流通、供給管理など、安定供給を促進する国内政策措置を認める。
・衛生・植物検査基準は、WTOのSPS協定に適合した、国際的な基準を採用。
・開発途上の経済が貿易により悪影響を受けないよう、固有の条項を盛り込む。
・天災・人災に対処する食糧援助では、国内市場への悪影響や貿易歪曲を防ぐ。
・農業に関する貿易交渉(2国間、複数国間、多国間)の開始に際しては、農業者団体と十分に協議する。
重要な記事
最新の記事
-
【警報】野菜類、花き類にハスモンヨトウ、オオタバコガ 県内全域で多発 熊本県2024年11月13日
-
【クローズアップ】25年度全中畜酪政策提案 生産意欲損なわぬ酪肉近目標を 国産飼料拡大と生乳需給強化も2024年11月13日
-
町内清掃に参加し環境保全活動 JA共済連2024年11月13日
-
農業高校の生徒と教員がVRで農作業事故を疑似体験 JA共済連が農業収穫祭で特別講義2024年11月13日
-
日本唯一 お茶の総合博覧会「世界お茶まつり2025」開催 静岡県2024年11月13日
-
「おにぎり ぼんご」と親子おむすび教室を共同開催 ファミリーマート2024年11月13日
-
埼玉県の名産「桂木ゆず」を肥料に使用「桂木ゆず米」新発売2024年11月13日
-
外食・中食・小売 関西最大級の商談展示会「FOODSTYLE Kansai 2025」開催2024年11月13日
-
和歌山県橋本市「第18回まっせ・はしもと~柿まつり2024」開催2024年11月13日
-
第18回全農学生『酪農の夢』コンクール受賞作品が決定 上位4作品の朗読動画を公開 JA全農2024年11月13日
-
京都のブランド牛「亀岡牛」品評会で健闘「優良賞2席」を受賞 亀岡市2024年11月13日
-
「北海道のひだり上るもいフェア」東京・有楽町のどさんこプラザで開催2024年11月13日
-
馬上丈司社長が財界「経営者賞」受賞 千葉エコ・エネルギー2024年11月13日
-
富士通と連携 CO2削減などの課題を可視化・分析 スムーズなEV導入を支援 JA三井リース2024年11月13日
-
JICAから追加支援 ブラジルで高機能バイオ炭事業を加速 TOWING2024年11月13日
-
「自然派Style産直じゃがいもまるごとハッシュドポテト」新登場 コープ自然派2024年11月13日
-
台湾産のジャポニカ米「むすびの郷」14日から発売 西友2024年11月13日
-
【特殊報】ルレクチエにセイヨウナシ黒斑細菌病 県内で初めて確認 新潟県2024年11月12日
-
水田政策 直接支払いなど 国会で熟議 大胆な農政運営めざす 江藤農相就任会見2024年11月12日
-
民意はどこにあったのか? 得票率に見る衆院選と農業政策 田代洋一・横浜国大名誉教授2024年11月12日