「震災復興は漁協の性格に即して」JC総研2013年5月27日
3.11東日本大震災の復興に漁村と漁協はどのような役割を果たしているか――。このテーマでJC総研は5月12日、東京都内で第24回公開研究会を開いた。特に漁業は排他的に魚場を利用する漁業権があり、この管理を基本とする漁協は、その組織形態、意思決定方法の違いが、震災復興の進め方を大きく性格付けている。岩手・宮城・福島3県の漁協の性格の違いと震災復興の取り組み、復興の過程で生まれたコミュニティ「仮設商店街」のあり方、「結い」的性格の強い宮城県南三陸町の漁村の互助組織の性格などについて考察した。
◆3県3様の漁協の対応
東京大学社会科学研究所の加瀬和俊教授は「東日本大震災からの復興と漁協の役割」で報告。同教授は漁協の基本的な性格を実質的強制加入で共同行動を前提とする同業組合的性格、生産の調整、低利資金の転貸、公的な補助金の受け皿などの機能を持つ協同組合的性格、そして漁民対策の必要性から政策下請け機関的性格の3つに分ける。この性格の違いから、震災後の復興の進め方に差が生じていると指摘する。
岩手県は、養殖・低地網など、排他的に漁場を利用する漁業権をもとにした同業組合的性格の強い小地域漁協が中心で、組織の意思は漁業者主導で決定される。総じて財務力は弱く、漁協の組織体制によるが、差が大きく、職員の解雇・賃金切り下げ漁協と職員維持漁協に二分化される。復興のための予算がついても職員体制が整っていないため、独自の事業ができないなどの問題が生じている。
一方、個人免許による漁船漁業が中心の宮城県は、県一本化された広域統合漁協になっており、幹部職員主導で意思決定される。財務力があることから、職員の県内融通が可能で、特別出資受け入れで金融機関管理が進み、賃金体系の変更で乗り切りを図る。合理的だが漁業者の意思反映が間接的であり、上下の意思疎通が滞るという問題がある。船さえ確保できれば個別に操業再開できるため合意形成が困難さが、復興の遅れにつながるなどの問題がある。
なお、福島県の漁協の性格は宮城県と似ているが放射能汚染で漁業が不可能になっており、漁協は復興のための事業を停止している。
加瀬教授は「漁業者の合意を前提とする同業組合的な性格が協同組合性に支えられると復興がスムーズにいくのではないか。漁協には3県3様の組織形態がある。復興にあたってはそれを強く主張しなければならない」と指摘する。
(写真)
震災からの復興で漁協の役割を考察した公開研究会
◆商店街復興に協同組織化の芽
被災地の生活再建には商店街の復興が欠かせない。大阪市立大学の松永桂子准教授は岩手県を中心とする「仮設商店街の成り立ちと今後の課題」で報告した。特に商圏の分散した岩手県では震災後、さまざまな形態の仮設商店街が誕生した。高齢者を中心とする地域のコミュニケーションの場として重要な役割を果たしているが、設置後2年経過し、商店主の高齢化、本設への対応など、多くの困難な問題で苦慮しているのが実態だ。
松永淳教授は、現在の仮設商店街の問題点として、[1]元気のあるところとそうでないところの2極化[2]仮設住宅が郊外にでき、中心市街地の外延化[3]市町村の復興計画にどう反映させるか――を挙げる。高齢化は店の継続か廃業かの判断を求められる。また本設への過程で、一時仮設住宅の住民と離れることになり、市町村の復興計画あるいは、道路、鉄道再建の内容と時期が決まらないと判断が難しい。
このなかで新しく、事業協同組合など協同組織をつくり、行政に先行して独自で新しい商店街をつくる地元スーパーの動きがあり、また補助金を申請するため中小の商店がグループ化するところもある。「被災地の新しい芽だといえる。商店街の振興組合のように、従来補助金の受け皿的な機能を果たしていた組織が、それ以上のものをどこに求めるかがポイントになる」と指摘する。
◆漁村特有の互助組織が健在
漁村には農村と同じような「協同の精神」がある。これについて海と漁の体験研究所の大浦佳代代表が宮城県南三陸町の互助組織「契約会」の事例を紹介した。契約会は同町歌津周辺の漁村特有の組織で、歌津地区には12の契約会があり、独自で山林や前浜(干潮水面から満潮水面の少し上までの磯)の一部を管理し、そこからの収益を地区の自治やインフラ整備なとの費用に充てる。歌津の契約会はここからの収益を貯蓄し、6000万円で避難所として使える生活センターを新築。これが東日本大震災で役だった。
大浦代表は、[1]同・相互扶助だけでなく前浜でのアワビやウニの収益という経済性に支えられている[2]限りある磯資源を持続的に利用するめ、種苗放流など資源保護・保全を厳しく行っている、などから、「地先(磯)の漁場管理団体である漁業協同組合の原型といえる。漁協管理組織の枠組みに入っていることも特筆される」と注目する。
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