「私たちの苦い経験から学んで」TPP国際シンポ2013年6月10日
韓米FTA・NAFTAからの警告TPPをとめる!5.30国際シンポジウムより
TPP(環太平洋連携協定)参加に反対する「TPPを考える国民会議」や市民団体などが、ニュージーランドやメキシコ、韓国、米国で同じく反対運動に取り組む人々を日本に招いてTPPの問題点を共有しようと国際シンポジウムを5月末から6月初めに各地で開催した。
とくに米韓FTA発効から1年経った韓国や、1990年代に北米自由貿易協定(NAFTA)を締結し、さらにTPPにも参加するメキシコからの参加者などからは、外国資本や大企業の利益追求が目的で人々の食料や労働が不安にさらされている問題が強調され、国際的な連帯を強めて運動を展開する必要性を訴えた。
5月30日に東京で開かれたシンポジウムの概要を紹介する。
(写真)TPP国際シンポジウム、5月30日、東京・連合会館で。
◆狙いは大企業の世界支配
TPP交渉参加国のニュージーランドで阻止運動を続けているジェーン・ケルシー氏(オークランド大教授)は、TPPを推進しているのは「自分たちこそ世界を支配する権利があると信じている大企業の人たちにほかならない」とその本質を強調、とくに米国企業がアジアでリーダーシップを握るために、アジア・太平洋地域に「米国式のルールを押しつけるもの」と断じた。
また、そのルールを国際仲裁機関を通じて加盟国に強制できるISD条項(投資家が投資先国の政府を訴える紛争解決手段)や、その国の規制を決める審議会に「企業が参加する特権を与える」ことを定めた協定文もあるなどの危険性を指摘した。しかも、このTPP交渉は秘密裏に進められ、すでに会合は17回を重ね10月にはすべてを妥結する目標で進んでいる。
(写真)ジェーン・ケルシー氏
◆日本参加前に特別会合か?
この状況で日本は参加表明し、7月15~25日からの次回会合(マレーシア)に参加できる可能性はあるが、米国議会が日本参加を認めるまでの審議期間(いわゆる90日間ルール)を考えると「公式に参加できるのは7月23日」だ。ケルシー氏は、遅れて参加したカナダ、メキシコも「それまでに合意された内容については一切変更できない」ことを約束していることや、「日本が参加する前に特別会合を開いてできるだけ多くのことを合意してしまおうと他の国が動いている」との情報も得ていると話した。
これらの点や日米事前合意内容などから「安倍首相は、今動けばリーダシップを発揮できるといったという。しかし、参加表明は日本の降伏宣言にほかならないかもしれない」、「政権公約6項目は守れないのは明らか」と警鐘を鳴らした。
◆移民が米国民の職業を奪う
メキシコの電話会社テルメックス社の労働組合の活動家、マリカルメン・リャマス・モンテス氏は、1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)が労働や農業などにどんな影響を与えているかを話した。
主食であるトウモロコシの関税撤廃によって価格は45%も下落し1800万人もの農家が打撃を受け、NAFTA発効以前は、5億8100万ドルの食料輸出黒字国だったのが、最近では21億4000万ドルの輸入国になったという。 職を求めて都市部や米国へと移住を余儀なくされる国民が増え、国境地帯の警備にかかるコストはNAFTA合意前の93年には約10億ドルだったが、発効後の99年にはその3倍になった。国境監視員も2倍の9000人になったという。
マリカルメン氏は「移民はメキシコだけの問題ではない。米国の賃金を引き下げ米国市民の雇用を奪っている」と指摘、誰の利益のための自由貿易協定なのかと訴えた。
同時にメキシコ国内でも労働条件は悪化してきたという。家族が必要とする基礎的な食料パッケージがあり、それは約15ドル。それに対し今の最低賃金は5ドル。かつては1人が働けば購入できたが、「今では3人が働かなければ家族を養えない」、「政府は低い賃金を維持して投資を呼び込もうとしている」と強調した。
(写真)マリカルメン・リャマス・モンテス氏
◆豊かさはどこにいった?
ISD条項の発動の影響も深刻だ。
米国企業(メタルクラド社)がサン・ルイス・ポトシ州に建設しようとした有害廃棄物の処理施設の建設申請を自治政府が却下したところ、同社がメキシコ政府を訴えて1560万ドルの賠償金を獲得した事例がある。
こうした事例のほか「政府は20億ドル以上の損害賠償を支払わされている」という。
「NAFTAによって雇用が増え所得が上がり、豊かな社会が築けるとの約束のもとに合意した。しかし、それとはまったく反対の現実。日本には苦い経験をしっかり学んでほしい」とマリカルメン氏は強調した。
韓国からは弁護士のキム・ジョンウ氏、韓国農漁村社会研究所副理事長のクォン・ヨングン氏、韓米FTA阻止汎国民運動本部共同代表のパク・ソグン氏が参加。韓米FTAの問題点などを報告。「TPPは韓米FTAプラスアルファになる」などと指摘した。
(写真)キム・ジョンウ氏
◆ISD反対で韓国国会に動き
弁護士のキム氏はすでに韓国政府がISD条項で国際仲裁機関に提訴されていると話した。
この問題では、昨年9月にベルギー籍の米国系ファンド会社、ローンスターが韓国政府に2兆220億ウォン(約1820億円)の損害賠償を請求したことが明らかになっている。
ロンスターは韓国の銀行を買収、それをまた別の企業に売却したのだが、韓国政府がこの取引での株式譲渡承認を遅らせ投資金回収で差別を受けた、と訴えた。また、譲渡取得税3900億円の課税は韓国政府の意図的な処分だなどとして投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴した。
キム氏によるとこの紛争解決にあたる判事は米国人、英国人、フランス人の3人。こうしたなか、韓国国会ではISD条項の修正・削除を求めて米韓FTAを再交渉すべきとの決議が行われたが、政府は「勝つ可能性が120%」などと言っているという。
しかし、そもそも国内の裁判所ではなく海外の仲裁機関が判断する自体が「国の法律や制度が歪められるということ。国の主権、民主主義への真っ向からの挑戦だ」と批判した。
(写真)
クォン・ヨングン氏
◆いかに実感を持つか
ただ、ISD条項を始め、韓米FTA反対運動のなかで見抜けたことがいくつもあったという。
クォン・ヨングン氏は自由貿易の農業への影響というと「どうしても関税のことを考えてしまう。しかし、狙いはバイオ産業育成のための知的所有権。これはGM農産物輸出拡大など食の安全に関わること」と指摘した。 このように「実際にまだ起きていない問題について、それは仮定の話だ、と人々がなかなか実感できないことが運動を広げていくうえでもっとも難しかった。熱心な運動家でもまさかそんなことまで…、と半信半疑だった」と韓米FTA阻止汎国民運動本部のバグ・ソグン共同代表は話し、「外国の事例をよく調べること」が大事で「われわれが食料輸入を増やすことは飢餓や貧困の増大に手を貸すことになる」(クォン氏)ことなどを発信していくことの重要性が提起された。
(写真)
パク・ソグン氏
【TPP(環太平洋連携協定)をめぐる動き】(年表)
2006年 シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの「P4協定」発効
2008年 米国が交渉開始意図を表明
2009年 米国、TPP交渉への参加を議会通知
2010年 (交渉会合を4回開催)
3月 第1回会合でP4協定加盟4国に加え、米、豪、ペルー、ベトナムの8か国で交渉開始。
10月 菅総理所信表明演説「TPPへの参加を検討」。第3回会合でマレーシアが交渉参加、計9か国に。
11月 横浜でAPEC首脳会議。菅総理会見「関係国との協議を開始する姿勢を明確にした」
2011年(交渉会合を6回開催)
11月 ホノルルでAPEC首脳会議。
○野田総理「交渉参加に向けた関係各国との協議を開始し、各国がわが国に求めるものについてさらなる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経たうえで、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていく」。
○カナダ、メキシコが交渉参加に向けた協議開始の意向表明。
2012年(交渉会合を5回開催)
1月 交渉参加9か国と協議→米、豪、NZを除く6か国は日本の交渉参加を支持。
4月 日米首脳会談。オバマ大統領、自動車、保険、牛肉への関心表明。
6月 交渉参加9か国、カナダ、メキシコの交渉参加支持表明。
10月 カナダ、メキシコの交渉参加に関する9か国の国内手続き終了。交渉参加国11か国に。
11月 オバマ大統領再選後、ASEAN関連首脳会議での日米首脳会談で協議の加速化で一致。東アジアサミットの際のTPP首脳会議で参加9か国首脳は「2013年中の交渉妥結をめざすことに合意」。
2013年
2月 日米首脳会談で共同声明発表。
3月 安倍首相、「交渉参加」を表明。シンガポールで第16回会合。
5月 ペルーで第17会合
7月 15~25日マレーシアで会合予定。
日本参加?
(内閣官房の資料をもとに作成)
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