森林再生基金で森林整備進む2013年8月5日
第7回森林組合トップセミナー・森林再生基金事業発表会が8月1、2の両日、東京・台場のホテルで開催され、平成24年度に事業を実施した7森林組合、1県森林組合連合会から、事業の成果とそれに基づく今後の活動方針などが発表された。
◆基金を森林再生の起爆剤に
森林再生基金は、農林中央金庫が創立80周年を機に、平成17年度に15億円を拠出して公益信託として創設された。森林の多面的機能を発揮できるよう、荒廃している民有林を再生させるため、森林組合などに助成する事業だ。これまでに297件の応募があり、45件の事業が助成された。
森林再生事業は、林業の採算悪化と条件不利な地形などで放置された森林、放棄されたままのレジャー施設予定だった森林、不在村所有者の森林など、一般の公的支援の手が届きにくい荒廃した森林で、それぞれの地域の特性に応じた独自の森林再生活動が行われている。
森林の荒廃は、地形・地質が不利な上に森林の境界がわからないため、所有者が管理をあきらめて放置された人工林が多い。そのため森林所有者立ち会いで境界確定を行い、根気よく話し合いを続けて、森林への関心を回復させ、森林整備によるメリットを提示し、森林所有者の理解の下、林道・作業道を開設して森林に入りやすい条件を整え、森林の整備を推進している事例が多く見られる。
事業の効果は、周辺地域に波及して地域全体としての森林整備が進み、団地化・集約化が進行して、森林所有者への利益がわずかなりとも還元されるようになりつつあり、森林再生基金が、わが国森林再生への起爆剤になるものと期待される。
◇
「来年度以降も別途サポート策を検討」
河野良雄・農林中央金庫理事長あいさつ
戦後造成された人工林が収穫期を迎え、林業の生産性低下から林業離れが進み、森林の荒廃が危惧される。森林組合系統は、「森林組合活動21世紀ビジョン」で国産材の利用拡大と流通改革、低コスト林業の確立等を推進している。農林中金としても、森林組合のこうした取組を微力ながら支援する所存です。
森林組合再生基金は、森林機能の多面的発揮に向け、荒廃した民有林の再生活動を支援するもので、創立80周年を機に15億円を拠出して特定公益信託を創設。平成17年度から昨年度までに297件の応募の中から45件の助成を決定し、有効に活用して熱心に取組まれており、その成果が優良事例として全国に波及することを期待している。
森林組合再生基金は今年度決定する助成で、当初の予定通り終了するが、森林の公益性や多面的機能の持続的発揮等を支援するため、来年度以降も別途サポート策を検討したいと考えている。
「木材価格問題、今後は具体的な行動に移る」
佐藤重芳・代表理事会長あいさつ
全森連は一昨年から木材価格問題に取り組み、昨年から木材価格プロジェクトにより価格問題検討委員会の答申を具現するための検討を重ねてきた。価格情報、需給情報の一元化とそれに基づくブロック、全国等広域での生産流通調整機能を発揮し、森林組合系統の量の力に基づく大口取引先の確保と安定価格実現のために今後は具体的な行動に移る。
「木材需要変化への対応が課題」
遠藤日雄・鹿児島大学教授の講演要旨
遠藤教授は、国産材合板の生産によって、木材の主役がA材(製材用材)からB材(合板用材)に変わりつつある。かつてのABC(チップ材)DE(バイオマス材)の序列が逆転する可能性がある。こうした木材需要の変化に森林組合はどう対応するのか、そのあり方が問われていることなど、今後の森林組合の役割に関して示唆に富んだ内容の講演だった。その概要は次の通り。
消費税引き上げ前の駆け込み需要で、住宅建築が増加しているが、その反動が必ず来る。シンクタンクの予測では、駆け込み需要102万戸から60万~80万戸に減少するとみているが、私は50万戸台まで激減すると予測している。
今度の駆け込み需要の後に何が起きるか、木質バイオマスエネルギーの利用に注目している。現在、計画段階・構想段階を含めると、全国に50カ所程度のバイオマス発電が予測されている。
木質バイオマス発電に対応して増産体制が組めるか。2003年以降スギを中心に国産材丸太は増加に転じているが、伸び率がスギでも0.9%にすぎない。木質バイオマスには間伐で対応できない。主伐をした場合、価格交渉権を我がものにできるかどうかが問われている。
かつては無節材が主役だったが、現代は合板、集成材などエンジニアウッドが主役になった。約物(高級材)は破綻したという認識が必要だ。30年前までは、銘柄材がプライスリーダーで、産地材別の価格で取引されていたが、平均値へ収斂されていくようになった。立木価格も同じで、丸太価格は末口が大きくても価格は高くならない。無垢柱の需要が減っているから、中目材がプライスリーダーになってる。
◇
8組合による事業発表のあらましは次の通り(発表順)。
北都留森林組合(山梨県)
森林・林業・山村再生プラン~生業としての林業への挑戦~
急傾斜地で森林整備が放棄されている地域で、切り捨て間伐から搬出間伐へ挑戦、林業を生業とした健全経営に向け、地形・地質に最適な路網整備と作業システムの構築に取り組む。
高性能林業機械による搬出システムの構築につなげるデータを入手できた。そのデータと経験を分析し、搬出間伐を生業とする林業に挑戦する上で、事前準備の重要性が理解できた。
今後は、精巧な作業計画や路網計画を作り、緻密な工程管理を行って更なる低コスト化を進める。
中濃森林組合(岐阜県)
多様性を持った里山森林整備モデル林の造成
交通不便な地区で放置されていた地区で、境界の明確化・林地の集約化・ゾーニングを行い、基幹作業道開設により効率的な利用間伐を実施するのが目的。
境界明確化で所有者が「自分の山」の自覚を持ち、森林組合に安心して管理を任せる面もあった。集落から離れていて未整備で荒廃していた林地も、作業道の開設で適正な森林整備ができるようになった。同時に、地域のモデル林つぃての展示効果も生じた。
今回の事業は整備の始まりとして、今回の事業地をモデル地とするとともに、今回の経験を生かし、管内すべての森林で利用間伐を主体に森林整備を進めていく。
加茂森林組合(岐阜県)
集落周辺の里山未整備森林再生プロジェクト
境界の明確化とゾーニングを行い、生産林は抵コストで効率的作業道の開設、利用間伐等により放置林を持続的に管理し、所有者に還元できる森林づくりを目指す。
ゾーニングで生産林と環境林の概念を認識し、計画的な森林整備、集約化施業を進めていく上で大きな成果が得られた。
今後は集落周辺の集約化可能な里山林を対象に森林管理協議会・林業推進委員会・座談会を通じて、災害に強い路網開設技術や作業手順の効率化をさらに向上させ、組合理念である「持続可能な森林づくり」と安定した長期マネージメントを実現する。
龍神村森林組合(和歌山県)
新天地開拓モデル事業~翔く「龍神村」谷を越える~
急峻な森林で谷を越える橋梁を含む先進的な作業道の開設と、これを活用した車両系作業システムを検証し、集約化施業の提案で森林所有者の経営意欲を鼓舞する。
橋梁を含む作業道を敷設したことで、搬出間伐ができるようになった。今回の搬出間伐では4人1班で、伐木をチェーンソー、造材から小運搬までをプロセッサー・ウィンチ付グラップル・2tダンプの構成で実施し、労働生産性は5.91立方m/人日だった。ただし、本線ルートの修正により蓄積の多い林分を多く通過することによって、結果的にhaあたりの搬出量が増えた。
しまね東部森林組合(島根県)
水源林における集約化施業による利用間伐の推進
豊かな水を安定供給するため、施業意欲の減退している森林所有者に提案・集約化する仕組みを作り、島根大学と連携して低コスト利用間伐システムの構築を目指す。
施業円滑化のため、地元の森林境界に詳しい3名を推進員に雇用して境界調査を1年かけて行った。境界調査面積92ha、森林所有者32名(共有者あり)、筆数207筆の境界を明確化した。まとまりのあるスギ・ヒノキ造林地を測量し、9団地、19.81haの利用間伐を行った。また、山林地籍調査、森林境界明確化の必要性と施業集約化の取組に理解を得ることができた。
愛媛県森林組合連合会
地域連携で取り組む「風早の森」再生事業
県森連が地域と連携して集約化、低コストで効率的な作業道整備、森林施業プランナー育成など、県森連の指導業務に生かせる経験やノウハウを得るのが目的。
県森連とあまり縁のなかった地区の「北条地域森林のこれからを考える会」と連携して、森林施業提案書・精算書を提示することができた。県森連は、施業提案書の導入を指導しているが、提案書の作成から精算書の提示まで行う中で、プロット調査の手間や提案書様式の不具合、精算時の補助金の取り扱い方法等、実務として経験できたことは、より現実的な指導に向けた貴重な経験となった。
久万広域森林組合(愛媛県)
利用間伐への転換のための木材生産検証事業
切捨間伐対象地の林分で生産コストを分析し、採算ラインを検証し、山林の類型化を行うことで、、利用間伐対象にすることを目指し、集約化施業をいっそう推進する。
本事業の取組により、一見切捨間伐しか選択できないと思われる林相でも、条件次第では搬出間伐に転換できる可能性のあることがわかり、今後の施業プラン設計の幅が広がると考えられる。
事業の一環として取り組んだハンディPCの導入もプランナーの負担軽減に大きく貢献した。
管内の森林整備対象カ所は、比較的条件が悪い場所の増加が予想されるが、本事業の経験はより多くの山林に対し適切な施業が可能になるだろう。
香美森林組合(高知県)
地域森林資源の管理者を目指して~限界集落の守り香美~
限界集落での森林整備を進め、その成果を広げて将来的には管内すべての森林を集約化することを目標に、豊かな森づくりを目指す。 集落に残る2名の在村者に推進員を依頼、不在村所有者77名のうち66名の同意を得て境界確定を進めた。この団地形成、境界確定の流れは限界集落周辺における森林整備推進のモデルとなろう。
本事業の最大の成果は「作業道ができて自分の山まで近くなり管理しやすくなった」「境界が明確になって子孫に山を残せる」と喜ばれていることだ。
(関連記事)
・外国資本による森林買収 24年は8件16ha(2013.04.17)
・放射性セシウム 森林外への流出は少ない(2013.04.05)
・被災地の森林組合を支援 農林中央金庫(2012.09.11)
・森林再生実現に向けトップセミナー 農林中金・全森連(2012.08.06)
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