住民本位の地域づくりを JC総研が公開研究会2013年9月9日
へき地にNPO法人の力
JC総研は8月31日、東京で第26回公開研究会を開き、「これからの『地域づくり』を問い直す」のテーマで討論した。大森彌・東京大学名誉教授が「地域政策の動向とこれからの自治・地域づくり」、秋葉武・立命館大学准教授が「過疎地における地域活性化?NPO法人砂浜美術館を例として?」、辻英之・立命館大学准教授が「へき地から始まる教育改革?村・学校・NPO3者の協働でつくる持続可能な地域づくり」について報告した。
◆「市民が自治基本法を」
大森・東京大学名誉教授
大森氏は地方自治の最少単位として「日常的な付き合いの範囲が出発点だ」と指摘。その上で、現在の地方自治法を“悪法”と言い切る。「住民を管理する法律であり、これだけでは地方はよくならない。いま地方自治体が自治基本法をつくるようになったが、これは住民が自分たちの手でつくるべき性格のものだ」と、地域づくりに欠かせない基本条例を住民主体でつくることを強調する。その基本の考えとして、「個人と家族の自立と自助」を挙げる。
それで限界に突き当たったら周辺の人が手を差しのべる。つまり自立を支援する「互助」である。それが無理な場合、高齢者の看護支援などのような「共助」、そして最終的には国などによる「公助」だという。その中で、上下関係でない、対等の組織論である「協働」の考えの必要性を強調する。「いままでのように行政によって縦社会で動いてきた組織において協働は難しいが、1998年のNPO法は画期的だった。市民主体の地方自治であるべきだ」と指摘する。
また、地方自治の将来の大きな懸念材料に人口減を挙げ、国籍法の「属人主義」の問題点を指摘する。日本の国籍法は、基本的には日本人である両親から生まれた子どもが次世代をなしていく社会。これに対して欧米では生まれたところが市民権(国籍)となる「属地主義」を採用している国が多い。「日本で属地主義が難しいのであれば、結婚を奨励し、子どもを生んだ夫婦を支援するため予算を注入するしかない」と述べ、早急な対策を求めた。
◆「自然の砂浜を美術館に」
秋葉・立命館大学准教授
秋葉氏は高知県黒潮町にある4kmにわたる砂浜をそのまま「美術館」として売り出し、
町の観光産業に育てたNPO法人の取り組みを報告。キャッチフレーズは「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」。つまり「『モノの見方』を変えた地域おこしだ」という。
活動内容はTシャツアート展、漂流物展などのイベント、公園管理(指定管理者)、ホエールウォッチング、WEBショップ、ケーブルTV番組制作、旅行会社の運営など多岐にわたる。
Tシャツアート展は白い砂浜に、写真やイラストを印刷したTシャツ約1000枚を洗濯もののようにロープを通して吊るす。青い空と海を背景に風にはためくTシャツは、そのまま絵になる。同じアート展をモンゴルやハワイでも開いた。またアート展を契機にオーガニックコットンの導入が始まった。
現在、法人の職員は15人。約1億1000万円の事業高を持つ地域産業に育った。秋葉氏は、この取り組みの持つ意味を「第1に条件不利地における社会的企業の普遍的要素をふくんでおり、さらに掘り下げる必要がある。第2にホストとゲスト、地元とよそ者の関係が批判されてきたが、実際には両者の関係はしたたかなダイナミズムにもなり、より注視すべき。第3に考え方の事業化は今後のNPOの経営的自立を考える上で興味深いテーマだ」と整理する。
◆「『教育力』が村を救う」
辻・グリーンウッド自然体験教室センター代表理事
辻氏は、教育をど真ん中に据えた持続可能な地域づくりの取り組みを紹介。グリーンウッド自然体験教室センターは、長野県泰阜村で暮らしの学校「だいだらぼっち」を運営するNPO法人。「地域に根差し、暮らしから学ぶ」山村留学の学校で、25年度は小中学の児童・生徒17人が参加し、合宿生活を送りながら、村の学校に通う。1986年の開校以来参加者は約400人に達する。
泰阜村は、長野県南部の過疎地で人口1800人の山村。満蒙開拓や戦後の大規模植林、減反政策と、国の政策に翻弄されてきた。しかし厳しい経済環境にあっただけに支え合い・相互扶助の気風が強く残っている。「だいだらぼっち」は、こうした村の暮らしを体験し、豊かな自然に接することによって自立・自律の精神を身に付ける。
職員は常勤が17人、非常勤が5人で、別に行っている信州山賊キャンプ、伊那谷あんじゃね自然学校を合わせてボランティアが年間400人以上。村内では規模で第4位の事業所になった。その効果は、[1]活動で消費する食料と燃料は村の契約農家や里山から調達する[2]スタッフが住民組織の担い手や政策提言者としての期待に応えつつある[3]村民自身が自信をつけ、教育の自己決定権を発揮し始めた――などに現れている。
辻氏は、「村の人々が、年齢や分野や、時を超えて手をつなぎ、村の子どもたちを育てる『あんじゃね』(大丈夫)な仕組みができつつある。それはまさに泰阜村の教育力が村民の手によって取り戻されていくかのようだ」と報告した。
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