TPPで全国集会 3000人が現場の怒り訴える2013年10月10日
農林漁業の発展のため「国境措置は当然」
JA全中やJF全漁連、生活クラブ生協、パルシステム生協連など、9の団体でつくる実行委員会は10月2日、東京の日比谷野外音楽堂で、「TPP交渉から『食と暮らし・いのち』を守り『国会決議の実現』を求める全国代表者集会」を開催。台風22号の影響で風雨が強まるなか、全国から3000人が集まった。
集会で自民党の石破茂幹事長は「重要5品目は必ず守ると約束した。国益を損なう交渉はしない。ここで断言する」と強調した。言葉の重みを集会参加者のみならず多くの国民は注視している。
実行委員会代表は萬歳章JA全中会長。
主催者あいさつでは、衆参農林水産委員会の決議(右)について「国政の最高機関の意思の表明。交渉参加の前提となったもので必ず実現されなければならない」と強調し「政府は決議を重く受け止めると繰り返すだけでなく、決議にある脱退も辞さない不退転の覚悟で交渉に臨むことを国民に明確に約束しなければならない」と訴えた。
ただし、政府は守秘義務を理由に交渉状況をほとんんど説明しない。それどころか、関税撤廃の品目を増やすとの報道がある。
「モチや団子は自由化の対象とするといった報道が飛び交っているのは、なし崩し的な譲歩のためではないかと疑わざるを得ない。決議はいったいどこにいったのか。いったい何が真実なのか、現場では動揺と混乱、怒りが広がっている」(萬歳会長)と怒りをあらわにした。
JA全国女性協の大川原けい子会長は「女性は仲間とともに地域と暮らしを支えている。TPPは私たちの努力を無視し、地域のつながりを分断、豊かな農村風景も崩壊させるほどの劇薬だ」と批判、「政府には復興より先にやることなどないはず」と訴えた。
JA青年部からは北海道農協青年部協の黒田栄嗣会長が登壇。「この国がめざすものは一体何か。ことさら経済成長を訴えているが、それ自体が生きる目的ではないはず。命を次の世代につなぐこと。政府は国民とともに歩む道を模索するべきだ」と訴えた。
◆「国民不在」の声多数
全国代表者集会ではTPP交渉の秘密性には「国民不在だ」との厳しい声が上がった。
岩手県生協連の吉田敏恵専務は「協定の中身は参加しなければ分からないからと強引に参加し、参加してからは非公開だから交渉状況は伝えられない、という。こんな悪徳商法まがいのことを国レベルでしようとするのは許せない」と強く批判。また、「日本の農林水産業は決して大企業のように減税しないと外国に逃げるぞなどと脅しを言うことはない。黙々と作り続けてくれているではないか。
私たちは自国の生産を増やしてくれなければ安心して暮らすことはできない」と訴えた。
医療の現場からは宮本留美子・JA茨城県厚生連茨城西南医療センター病院看護部長が発言。「混合診療の全面解禁や営利企業の医療参入、公的医療保険制度は交渉対象外と説明しているが、将来にわたり対象とならないと断言できるのか」、「市場原理主義が医療に導入されることになれば地域格差も加速。現場で働く看護師はすべての患者は分け隔てなく平等に救うことを考えている。命や健康をお金で計るようなことは断じて受け入れられない」と訴えた。また、松尾統章・福岡県議会議長は国民合意がなければ交渉参加すべきではないとの意見書は同県議会をはじめ44道府県から政府に提出されていることを改めて強調した。
◆「国益を損なう交渉しない」石破自民幹事長が断言
こうした声に政治はどう応えるのか。
自民党の石破茂幹事長は次のようにあいさつした。
「選挙のときに何を言ってもいいというものではない。言ったことに責任は持たなければならない。米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源、これの関税撤廃はしないということを公約して、われわれは議員になり政権を構成しているから、これに違うような交渉はしない」、「主権者の代表である国会議員、それによって構成される農林水産委員会、そこの決議は極めて重い」、「私どもは重要5品目は必ず守る、あるいは国民皆保険は必ず守る、そのことを約束した。これは必ず守っていく。そのことはここで断言する」―。
また、公明党の石田祝稔・農林水産部会長も「国会議員として国会で決議をした。国益を第一に全力でこの決議を守っていかなくてはならない。与党としての責任を果たしていく。みなさんが雨のなかでがんばっている姿を無駄にすることはない」と語った。
集会翌日の10月3日、自民党議連の「TPP交渉における国益を守り抜く会」」が開かれた。冒頭のあいさつで森山裕会長は、2日の集会に触れ「石破幹事長のあいさつを聞いて国益は守られると思った」と述べた。同議連は改めて農林水産分野の重要5品目と国民皆保険制度など聖域確保を最優先することを政府に求める決議をした。
しかし、APEC首脳会合を受けて、政府は聖域としてきた重要5品目のうちから譲歩する品目を検討すると報じられている。国会決議をないがしろにする姿勢は断じて認められない。
◇
リレーメッセージの参加者(発表順、敬称略)。
▽大川原けい子(JA全国女性協会長)
▽黒田栄嗣(JA全青協理事、北海道農協青年部協議会会長)
▽吉田敏恵(岩手県生活協同組合連合会専務理事)
▽山根香織(主婦連合会会長)
▽高橋洋(JF宮城漁協青年部顧問)
▽蛯澤精一(青森県東北町森林組合参事、全国森林組合職員連盟会長)
▽宮本留美子(JA茨城県厚生連茨城西南医療センター病院看護部長)
▽松尾統章(福岡県議会議長)
▽醍醐聰(東京大学名誉教授)
あいさつした政党代表。
▽自民党・石破茂幹事長
▽公明党・石田祝稔農林水産部会長
▽民主党・小川勝也ネクスト農林水産大臣
▽日本共産党・志位和夫幹部会委員長
▽生活の党・畑浩治幹事長代理・総合政策会議議長
▽社会民主党・又市征治党首代行
TPPから食と暮らし・いのちを守り
国会決議の実現を求める集会決議
本年4月、わが国のTPP交渉への参加にあたって、衆議院および参議院の農林水産委員会は、「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること」などを内容とする決議を採択しました。その内容は、3月の与党自民党における決議を踏まえたものとなっています。
過半を超える国民の不安や懸念が払拭されないまま政府は交渉参加を決断しましたが、国権の最高意思決定機関である国会における決議および与党としての国民との約束である自民党決議に忠実な交渉結果を出すことは、政府が負う極めて重い責任です。
わが国の交渉担当者は、秘密保持契約を理由に、わが国が交渉でどのような主張をしているのかすら国民に明らかにしていません。我々の正当な主張をわが国の交渉方針に反映しているのかどうかも明らかにしないのは、民主的なすすめ方ではなく、国民の理解や支持を得ることなど到底できるものではありません。このなかで、自由化率を上げるなど、なし崩し的な譲歩のための環境整備を行っているのは、決議をないがしろにする行為と言わざるを得ず、断じて認められません。
TPP交渉は、国民の食と暮らし・いのちに関わる問題だと認識した上で、政府は交渉にあたるべきです。TPPは例外なき関税撤廃により、わが国の農林水産業にとりかえしのつかない深刻な打撃を与えかねません。更には、食の安全・安心、医療、保険、ISDなど国民生活に直結し、国家の主権を揺るがしかねない問題も含んでいます。
わが国の農林水産業は、中山間地域が7割を占め、7千もの島々からなる多種多様な国土・自然条件のなかで営まれています。今後とも持続可能な生産を継続し、後世に豊かな生活をつなぐため、国民各層との連携のもと徹底して行動していきます。
以上、決議します。
平成25年10月2日
TPPから「食と暮らし・いのち」を守り
「国会決議の実現」を求める全国代表者集会
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