組合員の家と農を守る 相続対策でセミナー2014年2月21日
相続・事業承継支援対策トップセミナーJA全中
JA全中とJAまちづくり情報センターは2月5日、「相続・事業承継支援対策トップセミナー・交流会」を開いた。JAトップら170人が参加、組合員の世代交代が迫っているなか、組合員世帯の農地・資産の相続や管理・保全、事業承継などに対するJAによる支援対策をどう展開すべきか、現場の実践事例をもとに話し合った。
JAだからこそ支援を
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トップセミナーには多くの参加者があった。
◆迫る世代交代、問われる基盤
第26回JA全国大会決議(平成24年10月)では、JAグループがこれまで実施してきた資産管理事業を“組合員のくらしと資産を守る”観点から再編することを提起した。背景には「第一世代」と呼ばれる70歳以上の正組合員が4割を超えている現状がある。
JA全中のまとめによれば、第一世代の正組合員のシェアはJA出資金の34%、農地の48%、貯金の30%以上などとなっている。この層の世代交代の進行に適切に対応しなければJAの経営にも大きな影響をもたらす懸念もあり、JAの信頼を高め第一世代の資産・事業を「次代につなぐ」ことが求められている。
トップセミナーでJA全中の馬場利彦参事は、課題提起のなかで「なぜJAが支援することが必要なのか」を強調した。
(一社)東京都農住都市センターが平成23年に行ったアンケート結果によると「資産管理のうえでJAに望むこと」の回答では「相続対策の相談・指導」37%、「相続税に関する勉強会、相談・指導」28%などと相続に関するJAの相談機能を求める声が多い。
実際にJAに対する個別相談件数は増えている。25年度のJA全中調査では相続個別相談件数は23年度の4000件あまりから6000件へと2年間で1.5倍に増えた。関心の高まりの背景には、平成27年から相続税の基礎控除の引き下げ、税率の引き上げという税制改正が決まったこともある。
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馬場参事
◆家と農を守る、再編の観点で
このように相続相談へのニーズが高まっているばかりか、相続件数(推計)も23年度の26.1万件から25年度には28.7万件と増えている。世代交代が迫っている、というよりも、現実に世代交代は起きているといえる。
ただし、それにともなってJAへの出資金、共済、信用、経済事業などで手続きが異なることや、職員の連携・理解不足などから組合員の苦情も増えているという。これに的確に対応しなければJAの組織基盤を損なうことにもなりかねない。
もっともJA経営の面からのみ適切な相続・事業承継支援が必要とされているわけではない。
世代交代を機に「資産」をターゲットにして信託銀行や信用金庫など競合他業態も攻勢を強めている。各支店のエース級を集め「総資産営業」人材を育成したり、司法書士グループと連携した遺産整理を展開するなどの例がある。また、住宅業者のなかにも相続税の納付に必要な資金の立て替え融資や、土地売却などのサービスを始めている業者もある。
ただ、こうした他業態による相続対策とは、農地を宅地として売却するなどの対策にとどまり、その結果、組合員世帯が代々受け継いできた資産が散逸するという事態になりかねない。
これに対してJAは「農地を農地としていかに引き継ぐかの観点」から相続・事業承継支援を行う。JAだからこそできる家と農を守る事業だといえる。それは次世代の暮らしの設計でもあり、地域づくりにも関わることだともいえる。
◆誰も「相続」は避けられない
JAの相続・事業承継支援は相談活動が起点となる。相続が発生する前に組合員の多様なニーズに対して支援することが次世代との信頼関係づくりにもつながる。馬場参事は「次世代は選ぶ世代。JAといえどもワン・オブ・ゼムだ」と指摘する。
そのためにJAでは▽相談の受付体制と各事業部門の支援体制の整理、▽情報共有手法の構築、▽教育研修の整備など体制づくりを進める必要がある。
そのうえで▽納税資金対策(融資、生命共済、土地売却等)、▽遺言信託など争族対策、▽営農継続など事業承継対策、▽生前贈与、生命共済非課税枠活用などの節税対策といった具体的な事業に取り組むことが必要になる。
こうした一連の支援対策にJAが取り組んでいることをJA広報誌などで組合員に周知することも大切だ。また、先進的な取り組み例では、税務・法務セミナーの開催も▽専門家ばかりではなくJA職員が講師を務め信頼を高める、▽親子参加を呼びかけるなど次世代との接点をつくるなどの工夫もある。
さらに相続・事業承継支援につなげるきっかけとして確定申告支援・記帳代行に取り組むことや、財産診断の実施もこの対策の鍵となることなどもトップセミナーでは強調された。
◆組合員のため相談活動軸に
実践報告したJAやまがたの長澤豊会長理事は「相続問題はすべての組合員、すべてのJAが避けて通れないこと。きちんと対応すれば組合員の評価が変わる。21世紀のJAにとって基幹事業に位置づける必要がある」と強調した。また、「くらしの相談員」活動に力を入れているJA兵庫六甲の柳瀬博彰常務は「この事業はJAのためではなく組合員のため。組合員の資産を守る観点から、組合員自身にもどんな資産管理事業が必要かを考えてもらう取り組みもJAに求められる」と強調した。
パネルディスカッションでコーディネーターを務めた星勉・JC総研主席研究員は世代交代が迫っている現状について「地域農業、地域資源をどう引き継ぐのか、JAは危機感を」と指摘し、組合員に対する相談活動は「すぐに収益を生まないが将来にわたって収益を生む。逆に相談活動をJAの取り組みの核にするぐらいの長期的視点が必要ではないか」と課題提起した。 そのほか、JA職員が情報を共有することの重要性や、なによりもJAトップがリーダーシップを発揮して組織・経営基盤対策として組織あげて取り組むことが大切と強調された。
次世代対策 待ったなし
倉内巖・JAまちづくり情報センター会長(JA愛知中央会会長)
政府の「農林水産業・地域の活力創造プラン」で農業の成長産業化が打ち出され、JA改革が規制改革会議の議論で大きな柱になろうとしている。しかし、われわれはこれからも食と農を軸に地域に根ざした協同組合として自らの課題は自ら改革していけなければならなない。
そのなかでも次世代対策は待ったなしの課題だ。JAグループでは第26回JA全国大会で「次代へつなぐ協同」をメインテーマに掲げた。その次世代対策のひとつとして組合員のくらしと資産を守る観点から従来の資産管理事業を抜本的に見直し、組合員の相続や事業承継を支援するための総合的な取り組みへと転換することを提起した。
このトップセミナーは現場の実践に学び情報交換を通じて全国のJAで取り組みが進むことを願って開催した。知見を共有し各JAでの取り組みの足がかりとしてほしい。
JA事業の基幹にすべき
長澤豊・JAやまがた会長理事
長澤会長は▽資産対策を担うことは次代につながる、▽相続・事業承継支援対策は都市部だけの問題ではなく、JAグループがネットワークを築く必要がある、ことなどを強調した。
同JAは平成25年に組合長の直轄部署として資産サポート部を新設、12名の職員を配置した。JA世田谷目黒で職員2名が実務研修をするなど取り組みを行ってきた。
研修に参加した職員は「相続の相談業務はJAでしかできない。JAに対する信頼を取り戻す意味でも大変重要な業務だと分かった」などと話す。
今年1月までの相談訪問件数は280。昨年4月からは農中信託銀行の遺言信託代理店業務を開始したことから相談に厚みが加わったという。全支店に「相続相談サポートマニュアル」を配布し、初期対応は支店で行う体制を整備。長澤会長は課題として「家族にも相談できないケースもある」として組合員の心へのアプローチと相談業務に対する職員の意識向上と専門知識の習得を挙げたほか、JAグループとして相続相談員の認証制度をつくることも提唱した。
そのうえで「この支援の取り組みから利益を得るものではない。しかし、派生する信頼は莫大だ。実践にはトップの覚悟と決断が重要」と訴えた。
くらしの相談活動を軸に
柳瀬博彰・JA兵庫六甲常務理事
同JAは資産管理活動について「緑輝く地域とこころ豊かな暮らしのために、大切な資産を守り次世代への架け橋をつなげよう」と目標を掲げ、中期5か年計画のなかで相談活動を充実させることを盛り込んだ。
そのために支店に「くらしの相談員」200名を配置している。相談員は支店長が任命。組合員世帯を訪問し、生活設計、相続対策、資金・税金相談など多様な相談を受ける。「JAにとっての情報源」としての存在だ。その相談を受けて、営農なら営農支援センター、不動産などの問題であれば資産管理センターなど専門部署に取り次ぎ、JAからの提案活動につなげる。その提案につなげるには、くらしの相談員に専門部署につなごうというセンサーを働かせることが求められる。そうしたなか、くらしの相談員には組合員から情報を得ることを促すための表彰制度の導入や携帯可能な手引書を作成している。
そのほかにJAの低利用・未利用組合員を対象にした資産管理版TAC、出向く資産管理相談員も配置している。
相続には弁護士など専門家の力も必要にはなるが、単に専門家に任せるのではなく「JAが最後まで介在してこそJAへの信頼が高まる」とこの取り組みの意義を語った。
(関連記事)
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