早期妥結に努力 政府は強調2014年3月6日
米国の交渉姿勢に憤りも
2月22日から25日にシンガポールで開かれたTPP閣僚会合は大筋合意に至らず次回の閣僚会合の日程も決めないままに終わった。「最初に閣僚会合ありきでは事務折衝が実を結ばない」(甘利TPP担当大臣)として、閣僚会合では各国交渉担当官が早期妥結に向けて折衝を続けるよう指示を出した。一方で米国は日本に対して農産品の例外なき関税撤廃を主張するなど「非常にきついことを言っていると聞いている」(西川公也・自民党TPP対策委員長)と日米間には大きな隔たりがある。ただ、4月下旬のオバマ大統領訪日や5月に青島で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)貿易大臣会合を見据え、妥結に向けた動きが起こることも懸念され注視が必要だ。
◆日米間で対立 隔たり大きく
2月27日に開かれた自民党の外交・経済連携本部とTPP対策委員会の合同会議。出席した甘利明TPP担当大臣は「現地で真っ先に行ったのはバイ(=二国間)会談を精力的にこなすことだった」と切り出した。
2日目には市場アクセスをテーマにした全体会合が午前中に予定されており「その前に変な地合いが作られてしまうことは何としても避けなければならなかったから」とその理由を説明した。実際、今回の閣僚会合では市場アクセス分野ですべての国と二国間交渉を行った。
各会談で甘利は「われわれがなぜ農産品5品目にこだわるのか」を説明。与野党一致して衆参両院で決議しており、そうした政治的な制約は大なり小なりどの国にもあるだろうと強調したという。全体会合でもこれを粘り強く説き各国の理解を求めた。
しかし、日米の二国間協議では米国が原則関税撤廃の主張を繰り返したもようで「双方の立場には正直に言ってまだ隔たりがある」と甘利大臣は説明した。それでも「引き続き事務レベルで交渉を続けることは合意した」とする。
USTRのフロマン代表とは2回会談した。1回めの会談では立場の違いは埋まらなかったという。甘利大臣は2月15日にワシントンを訪問、フロマン代表と会談した。西川TPP対策委員長によるとこの会談で「下のみなさんに交渉権限を委ねてくれるという約束であったようだ」という。そのため2月17日にはカトラーUSTR代表補らが来日して交渉を続けた。しかし、シンガポールでの会談では「交渉しては振り出しに戻り、交渉しては振り出しに戻ると甘利大臣はこれ以上耐えられない状態になったようだ」(西川委員長)。
2回目の会談はいわば仲直りのためだったようで「一度レールをはずれかけたものをまたレールに戻した。担当レベルで交渉して行くことに合意した」(澁谷内閣官房審議官)という。
◆米国の姿勢に憤りが高まる
米国の交渉姿勢の背景には、大統領に交渉権限を委ねるTPA(大統領貿易促進法)を議会が認めていないことがある。政府が譲歩すれば議会を通らない可能性もある。原則論に終始したのはそのためだと言われる。
一方、TPA法案は米国議会に提出されているが、上院民主党のリード院内総務は1月下旬に近い将来のTPA法案の審議に否定的な姿勢を示し、2月には下院民主党のペロシ院内総務も提出されている法案は支持できないとの立場を表明した。オバマ政権の与党が否定的な姿勢を示したことになる。
交渉の内容は明らかではないが今回の二国間会談では「前に進んだ、数字も言った、言質も取れてたはずなのに取れてなかった。すぐに逆戻りしたようだった」と西川氏は話し、こうした米国の交渉姿勢に「私は非常に憤りを感じている。こういう態度で交渉を続けるのであれば、国会のみなさんのこれではできないという決議を考えていかざるを得ない気持ちでいっぱいだ」とまで言った。
石破茂幹事長も2月のJAグループ集会で述べた「遊びや冗談で脱退も辞せずと言ったわけではない」ことをこの日の会合で繰り返し「国益にならないということであれば党として強い姿勢を示していかなければ有権者の信頼を損なうことになる」と強調した。
また議員からは「米国の横暴さに他国も辟易しているのではないか。しっかり協力体制をつくって米国主導ではないTPPにすべきだ」との意見も出た。
◆他分野は進展 妥結急ぐ政府
ただ、政府は今回の閣僚会合で他分野では大きな進展があったと説明する。「国有企業」についてはその定義などから対立してきたとされたが、協議が進み例外措置などの課題を残すだけだけだという。また特許期間などで対立が深かった「知的財産」でも当初「3ケタあった論点が残り1ケタになった」(TPP政府対策本部)という。
さらに貿易や投資などを促進するための各分野ごとのルールについては多くの分野で大きな進展があったとされ、西村康稔TPP担当副大臣は「相当詰めてきた。ある時一気に決まる可能性もある」と話す。
国有企業や知的財産は“超難航分野”とされたきたが、今回の会合で山を越えたとされ、それが他分野の交渉を加速させるという成果を生んだのが今回の会合だったと政府は強調、「わが国としては早期妥結に向け引き続き関係国と最大限努力していく」というのが公式見解だ。
甘利大臣は「TPPは高い野心はめざすけれども限界はありますよ、ということを各国が認識するところから始まらなければいけないと主張した。その認識はある程度、共有されたと思っている」と述べ「決裂か、漂流かといわれたが、決裂でも漂流でもない。次に向かっての明確な歩みになった」と総括した。
西川氏は米国の交渉姿勢に憤りつつも「TPPは安倍総理の成長戦略の大きな柱。妥結ができるようさらに努力を続けていきたい」と話した。
その安倍総理を4月下旬にオバマ大統領が訪問する。「安倍さん、これ飲んでよ、と(オバマに)言われるのがいちばん怖い。しかし、これは言ってくると見ておくべき。政府は心してかかってほしい」とも西川氏は語った。
具体的な交渉状況が明らかにならないまま、事務レベルの折衝は続く。農業者を始めこの交渉に懸念を持つ多くの国民に情報提供と意思反映の仕組みは一層考えられるべきだ。
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