決議との整合性は国会の判断 林農相2014年4月8日
日豪EPA(経済連携協定)が7年の交渉を経て4月7日に大筋合意した。交渉開始前の平成18年の衆参農林水産委員会で関税削減の「除外」や「再協議」とすること求めていた重要品目の1つ、牛肉は段階的に関税削減し協定発効から18年目には半減されることで合意した。国会決議との整合性を問われた林農相は記者会見で「国会での判断」としたが、今後検証が必要だ。JA全中の萬歳章会長は「わが国の畜産・酪農経営への影響がないかどうか、政府には徹底した検証を求めていきたい」などと談話を発表した。
安倍総理は7日夕方の共同記者会見で「強固な二国間の関係を新たに、特別に引き上げ、一層、強固なパートナーシップをつくりあげていくことを確認した。
2007年に私が総理だった際に開始をした日豪EPA交渉が大筋合意に到ったことを格別にうれしく思う。日豪EPAは両国間の貿易、投資を促進する極めて重要な枠組み。今般の大筋合意は両国関係の緊密化にとって歴史的な意義があると思う。この協定の可能な限りの早期の署名に向けて今後、作業を迅速に進めていく」と述べた。
また、豪州のアボット首相は「エネルギー、食料、資源を含めた安全保障をこの地域が得ることができる」などと語った。 牛肉ついて豪州は現行税率(38.5%)の撤廃または大幅な削減を要求していた。
交渉で合意したのは段階的削減で▽冷蔵牛肉は15年目に23.5%に削減(約4割削減)、▽冷凍牛肉は18年目に19.5%に削減(約5割削減)というもの。豪州産牛肉は国産牛肉の3割を占める乳牛のオス、メス(廃用牛)と競合するといわれる。また、豪州産は米国産牛肉とも競合関係にあり、日本市場では米国産牛肉の輸入再開で豪州産のシェアが奪われてきている。 豪州側のこうした事情から段階的な関税削減で合意したとみられる。ただ、輸入急増による産地への打撃を回避するため、年間輸入量が一定量を超えた場合は関税率を現行の38.5%に戻すセーフガード措置を導入する。
冷蔵牛肉の関税は協定発効1年目に6%引き下げられ32.5%となるが、この年のセーフガード発動基準数量は13.0万tとされた。なお、平成20年から24年までも豪州産冷蔵牛肉の平均輸入量は14.8万tとなっている。
一方、冷凍牛肉は1年目に8.5%引き下げられ30.5%となる。この年の発動基準は19.5万tとされた。平成20年から24年までの平均輸入量は19.5万tとなっている。このセーフガードの発動基準は10年目に冷蔵14.5万t、冷凍21万tとすることは交渉で決まった。ただし、その間の発動基準数量は決まっておらず今後協議する。また、10年目以降のセーフガードの扱いについては協定発効後10年目に再協議することとされた。
発動基準は現行の平均輸入数量となったため、今以上の輸入増大に歯止めがかかるともみえるが、一方では、この発動基準数量までは毎年削減されていく低関税枠で輸入が可能になるともいえる。 乳製品ではバターと脱脂粉乳は再協議扱いとされたが、プロセスチーズとシュレッドチーズ(ピザなどにかける削ったチーズ)の原料となるナチュラルチーズと、無糖ココア調整品については国産品を一定割合、抱き合わせで使用することを条件にした無税枠を拡大・新設した。
プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズはこの枠の数量を20年間で4000tから2万tに拡大する。シュレッドチーズ原料用は10年かけて1000tを5000tに拡大する。無税となる抱き合わせ比率は国産1対豪州産3.5。豪州産35kgのチーズに対して国産を10kg使用すれば35kgは無税で輸入できる。輸入を増やそうと思えば国産チーズの使用も増やさなければならないという仕組みだといえるが、牛肉も含め国内生産にどう影響を与える協定となるか、検証と生産者への説明が今後求められる。
そのほかの合意内容は▽米=関税撤廃等の対象から除外、▽小麦=食糧用は再協議、飼料用は横流れ防止措置を講じたうえで民間貿易に移行、無税。▽一般粗糖、精製糖=再協議、高糖度粗糖=精製糖製造用について一般粗糖と同様に無税、調整金水準は糖度に応じた水準に設定。
○林農相の談話
本日、安倍総理大臣と豪州のアボット首相が首脳会談を行い、豪州との経済連携協定締結交渉の大筋合意に達しました。 平成19年4月の交渉開始からちょうど7年、16回に及ぶ交渉会合を重ねながら、政府一体となって全力を挙げて交渉を続けた努力が本日結実したものであり、今後の両国のより一層の経済発展、関係の強化につながることを期待します。
農林水産物の交渉に当たっては、衆参両院の農林水産委員会の決議を踏まえ、我が国農林水産業・農山漁村の多面的機能や食料安全保障の確保、現在進めている農林水産業の構造改革の努力に悪影響を与えないよう十分留意して、交渉期限を定めず、粘り強く交渉に取り組んでまいりました。 この結果、、国内農林水産業の存立及び健全な発展を図りながら、食料の安定供給にも資する合意に達することができたと考えております。本協定締結の効果・影響に留意しつつ、生産者の皆様が引き続き意欲をもって経営を続けられるよう、肉用牛経営をはじめとする農畜産業について、構造改革や生産性の向上による競争力の強化を推進してまいります。
今後、TPP交渉をはじめ、日中韓FTA、日EU・EPA、RCEP等の交渉が続きますが、世界でも有数の農林水産物輸出国である豪州との交渉で培った経験を活かしながら、農林水産業のセンシティビテイに配慮しつつ取り組んでまいります。
最後に、国民の期待に応える我が国農林水産業、農山漁村を実現するた
め、大臣である私が先頭に立って、引き続き農林水産政策の改革を進めてまいりますので、国民各位のご理解とご協力をお願いします。
(関連記事)
・畜産・酪農経営の影響、徹底検証を 全中会長談話(2014.04.08)
・日豪EPAで崖っぷちに立つ牛肉(2014.04.07)
・日豪EPA交渉 国会決議の実現求める(2014.04.04)
・TPPを先取りする生産調整政策の廃止(2014.03.26)
・貿易ルールづくり「農業者の話し合い重要」(2014.03.14)
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