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【TPP】反発強める米国議会2014年4月28日

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 4月初めから事務レベルで協議が続き、再三にわたって閣僚間での協議も行われたことから、今回の日米首脳会談では何らかの大筋合意があるのではないかと事態が緊迫していたTPP(環太平洋連携協定)交渉。結果は合意事項はなく、日米共同声明には「両国は2国間の重要な課題について前進する道筋を特定した」と記し、また「まだなされるべき作業が残されている」と両国の主張に開きがあることも示した。ただ、かりに何らかの合意に到ったとしても、米国議会はオバマ大統領に通商交渉の一括権限を与えておらず、議会を通らない可能性もある。その議会からは政府宛に「関税ゼロ以下のTPPには反対する」との乱暴な書簡も出されている。日本でも麻生財務大臣が25日の記者会見で「かりにフロマンと甘利でまとまったとしても、それが米国の議会で通る保証もない」と話した。
 大統領の訪日前の4月21日に来日した米国でTPP反対運動を広げている市民団体のロリー・ワラック氏も「そもそも日米会談でオバマ大統領が約束しても何ら法的意味を持つものではない」と話していた。結局は通商交渉に関しては無権代理人として来日、アジアを歴訪しているともいえる。ワラック氏の話などから米国の状況とTPP交渉の今後を考えてみる。

◆貿易政策は議会の権限

 米国の合衆国憲法では「議会は…外国および複数の州の間の取引を管理する」と議会に貿易政策の決定権限を与えている。 24日の安倍総理との共同記者会見でオバマ大統領自身、TPP交渉の早期妥結を訴えるなかで「議会は韓国とのFTAを可決した。他の国々とのFTAも可決している」と述べたが、韓国とのFTAに当時の米国大統領ブッシュが署名したのは2007年のことだ。
 議会が承認したのはそれから4年後の2011年である。承認が長引いたのは韓国とのFTAの中身に議会が不服だったからで、議会の意向を受けて米国は韓国と再交渉、その結果、牛肉の輸入条件の緩和、自動車の環境基準の引き下げなど、さらなる譲歩を韓国は飲まされたといわれる。
 米国は建国以来、通商交渉に臨む際、議会が獲得すべき条件を通商交渉官に指示、その交渉結果を上院と下院で承認してから最終確定する。日本も国会の承認が必要だが、条約は予算と同じ扱い。衆議院の議決が優越する(日本国憲法第61条)。日本政府には外交上の強い権限が与えられているといえる。
 一方で、米国の大統領は自らの権限を強めようと、貿易に関する議会権限を大統領に与える法律を考え出した。1973年、当時のニクソン大統領が成立させたのが最初の例で、これが「追い越し車線(ファスト・トラック)」と呼ばれる法律だ。

◆TPA法案はお蔵入り状態

 この権限は、大統領が署名した貿易協定案について、議会は条文修正はできず賛否だけを決めることができるというもの。その後、ファスト・トラック法は貿易促進権限(TPA)法と呼ばれるようになった。
 韓米FTAが再交渉してからでないと議会が納得しなかったのは、当時のブッシュ大統領にTPAがなかったからである。正確に言えば期限が切れてしまったのだ。議会はブッシュ大統領にTPAを与えたはしたが、それは2002年から07年までの5年間という期限付きだった。したがって韓国とFTA交渉を始めた06年にはTPAが与えられていたが、署名した07年には権限を失ってしまったということになる。
 こうした経過も背景にTPP交渉をまとめるためオバマ大統領は今年1月、議会に対してTPA法案を提出した。しかし、下院では与党である民主党の多くが法案に反対を表明し、上院でも同法案の審議と採決をコントロールする立場の民主党議員が“上院で採決するつもりはない”と表明するなど、法案自体がお蔵入り状態になっている。オバマ大統領はこうした事態のなかで来日したといえる。
 今、TPA法案に議員が反対しているのは11月に中間選挙(上院議員3分の1と全下院議員が改選)を控えているからだといわれる。選挙では自らが政策を訴え戦うのに大統領に重要政策を白紙委任するなど認められるはずがない、というわけである。そこで11月の中間選挙後ならTPAが成立する可能性があり、したがってTPP交渉自体、中間選挙の前に結論を出せるはずがないという見方が有力になってくる。 麻生財務大臣も25日の会見で「11月の中間選挙まで答えはでないだろう。国内でオバマが全部まとめきれるほどの力はないだろう。中間選挙するんだもの。その前に結論を出せるとは思わない」と発言している。

◆一括権限は過去の法律

 しかし、オバマ大統領とはロースクール時代の同級生だというパブリック・シチズンのローリー・ワラック女史は「議会は二度とTPAを認めないだろう」と21日にTPP阻止国民会議が開いた緊急集会で強調した。
 ワラック氏によれば、TPA、あるいはファスト・トラックが認められた時代は、貿易交渉といえばおもに関税に関するものだった。しかし、その後、WTO(世界貿易機関)やNAFTA(北米自由貿易協定)などでは、関税以外の非関税措置も通商交渉に含まれるようになった。
 TPPはまさに食品安全、環境、医療、知的財産権など関税以外の規制緩和をめざすもので、安倍首相もオバマ大統領も「21世紀型の貿易ルール」だと胸を張るが、それぞれの分野の政策を拘束しかねない交渉結果を、もはや大統領に一括して議会が権限を与えることはないと言う。ワラック氏は「TPAの成立は遅れているのではない。TPAは過去のものだからだ」と現代の貿易の現実に合わず、さらには「伝統的な貿易問題をはるかに越えて、議会の立法権と権限を直接侵害するもの」と強調した。何よりもオバマ大統領は08年の大統領選挙で候補として「私はTPAの延長にも新規の制定にも反対だ」と訴えていた。
 実際、TPA法案に反対する議員は、逆に議会により強い権限を与える新しいシステムを要求しているという。
 このように議会が反発を強めているのは、TPP交渉が秘密主義で行われ、議員に情報公開されていないからで、議会からの多くの質問にUSTRの担当者は回答を拒絶するなどの事態に議会に怒りが満ちているという。 こうした反発もあって、交渉を進めるなら議会の要望を実現しろという動きにつながった。関税ゼロ以下の妥結は認めないとする書簡のほか、日本の円安政策をターゲットに通貨操作規制条項を盛り込むよう上院で60人、下院で230人が求めている。
 これらの要求は日本としてとても合意できない内容だが、一方でTPPの危険性については米国議会にも認識が広がり、民主・共和両党のなかからISDSに反対する声が上がっているほか、世論調査では回答者の3分の2がTPPに反対との結果もあるという。
 このようにTPP交渉で扱う幅広い分野への懸念は米国でも広がり、また投資や医薬品、国有企業、環境の分野では参加国でまだ大きく意見が違っているという。
 にもかかわらず日米協議では農業に焦点が当てられ、牛肉・豚肉が焦点であるかのように伝えられた。ワラック氏は「他分野の交渉に弾みをつけるため、農業を隠れ蓑にした」と指摘した。
 ワラック氏は米国内でもTPAにもTPPにも反対する盛り上がりがあると報告し、「アジア諸国は本当にTPPの実態を理解しているのか」として、日本の議会も日米首脳会談と日米協議の結果について「詳細な情報提供を政府に求めていくべき」と話した。

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