食料自給率目標の設定2014年10月21日
生産現場の意欲も重要
平成32年度にカロリーベース自給率を50%に引き上げる目標などを設定している現在の食料・農業・農村基本計画の見直しを議論している審議会企画部会は、食料自給率目標の設定や、経営展望、構造展望などの議論を年末までに深めていく。食料自給率目標の設定は生産現場の意欲低下につながらないようにすべきとの意見も出ている。
企画部会はこれまでに現行の食料自給率目標の検証を行い、目標設定の課題を整理した(=本文下)。今後はこの課題に沿って自給率目標や食料自給力について検討していく。 食料自給率目標の設定には、生産量も需要量も「現実」に見合ったものにすることが強調されている。その考えに即し品目ごとの課題と対応方向を検討する。
また、自給率目標の設定には、今後の人口高齢化も織り込むこととし、高齢化が1人・1日当たりの総供給カロリーにどう影響するかを検討する。 品目ごとの課題と対応方向については10月7日の第9回企画部会に農水省が提示した。
たとえば米は、消費量が過去50年間一貫して減少傾向にあり、今後も米の需要が減少する可能性があることから、需要拡大対策が課題となるほか、業務用米の安定取引の推進、需要に応じた主食用米の生産推進などを挙げている。
飼料用米は収量水準が低いことから収量向上が必要なことや、低コストで安定的な供給・利用体制の構築が必要だとしている。小麦は、用途別の需要動向をふまえながら国内産小麦の使用割合を高めることと実需者ニーズの的確な把握、収量・品質の高位安定化、水田の汎用化を推進する必要性などを指摘している。 こうした品目ごとの生産・需要の現状と課題をさらに検討し、品目ごとに生産数量目標を設定、その積み上げで全体のカロリーベース自給率と生産額ベース自給率を設定することとした。
一方で今回の基本計画の検討では、政府・自民党が昨年打ち出した「農業・農村所得倍増」を新たな基本計画に盛り込むことも課題となる。
農水省が示した検討方向は▽農業所得→各品目別に生産額の増大、生産コストの縮減に向けた対応方向を検討、▽農村地域の関連所得→加工・直売、都市と農村の交流などの施策分野ごとに雇用・所得の増大に向けた対応方向を検討、と漠然としたものにとどまっている。とくに農村所得については定義と現時点での具体的な金額も明確ではなく今後、これらを示すことが具体的な議論には欠かせない。
JA全中の萬歳章会長は10月7日の企画部会に対して、人口減少と高齢化の進展をふまえ「食料自給率目標についてはより現実的な目標を設定することが求められる」としながらも、現実的な目標設定が「生産現場の意欲低下につながることがないよう留意すべき」との意見を提出した。
また、農業・農村の所得倍増については「いかにして達成してくのか、施策別に具体的な道筋を提示すべき」ことも指摘したほか、経営展望でも「所得倍増に向けた農業者単位での具体的な取り組みを明示する必要がある」と強調した。
(写真)
食料・農業・農村政策審議会の企画部会。農水省7階講堂で。
【食料自給率目標設定の課題】
(課題1)品目別に現実に見合った需要量を想定する。
(課題2)生産量については需要面に加え現実的な生産条件に見合ったものとする。
(課題3)用途別の需要動向や生産性向上等の観点もふまえ農業者その他の関係者が取り組むべき課題を明確にする。
(課題4)生産と消費の両目において食料自給率向上に向けた努力が適切に盛り込まれること。
(課題5)品目別に生産数量目標を設定したうえで、全体のカロリーベース及び生産額ベースの食料自給率目標を設定。
(課題6)食料消費の動向は人口の高齢化の影響等を織り込む。
(課題7)緊急時の対応についてはカロリーベースの食料自給率ではなく食料自給力を重視し、その指標化も含め検討する。
(関連記事)
・(89)「概算要求のポイント」の問題点(2014.10.16)
・農業者を愚弄する所得倍増計画(2014.10.14)
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・【農業改革、その狙いと背景】真の「国富」は豊かな国民生活に 岡田知弘・京都大学経済学研究科教授(2014.09.25)
・自給率39%、4年連続 25年度(2014.08.05)
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