「地方自治と協同組合」 JC総研公開研究会2015年5月8日
3報告もとに意見交換
「地方自治と協同組合の関係はどうあるべきか」。このテーマで、一般社団法人・JC総研はこのほど、東京で公開研究会を開いた。
研究会では、住民参加型の福祉事業を展開している長野県のJA信州うえだの取り組み、当事者・市民が主人公として公共サービス事業を行う労働者協働組合の活動、それに新自由主義改革下の非営利福祉協同事業体のあり方についての3報告をもとに
意見交換した。
◆施設と地域が一体
JA信州うえだ管内の豊殿地区にある特別養護老人ホーム「ローマンうえだ」とやはり同地区にある豊殿診療所は、住民の強い要望と運動にJAが応えた形で設立された施設だ。
このため、住民参加型の運営が実現しており、地域の人が自主的な「安全の地域づくりセミナ―」を開催し、その卒業生が、介護の面でさまざまなボランティア活動を行っている。基本となる考えは、将来の入居者・利用者は地域住民であるという考えに基づき、施設と地域の壁を無くすることに力を入れていることに特徴がある。
報告したJC総研の小川理恵主任研究員は、「地域住民が活動の中心となり、その活動をJAや行政が後押しする新しい保険・医療・福祉の形が生まれつつある」と評価する。
介護保険制度の改革で、2015年から訪問介護・通所介護などが市町村事業に移行することになるが、これを行政だけでフォローするには限界があり、地域全体で支える仕組みが必要だということだ。「ローマンうえだ」は、将来の介護のあり方を示している。
小川主任研究員は「地域住民が活動の中心となり、施設と一体化。その活動をJAや行政が後押しする新しい保健・医療・福祉の形ができつつある」とみる。
◆「公共」は利用者が
労働者協働組合(ワーカーズコープ)は、自ら出資し、自ら仕事をつくる協同組合組織であり、主に行政の委託による事業を展開し、既存の生協やJAと違った協同組合として最近注目されている。その事業内容は、ビルの管理や清掃、駐輪・駐車場管理、訪問介護や子育て支援、生協物流など多岐にわたり、50近い業種に達する。現在、全国300を超える事業所で1万3000人近い人が働く。
報告した協同総合研究所の相良孝雄事務局長は、こうした受託事業に「市民自治」の重要性を強調する。「公共」をつくるのは、行政ではなく、当事者や地域住民、そこで働く者だということ。つまり公共事業の委託先を決めるのは自治体ではなく、地域の利用者であり、その人たちに問うべきだという。
委託者と受託者の関係を超えて、「まちづくり」「生活と地域の課題」を共通のテーマとして取り組んでいくという、「参加者との関係づくりを日常的に追求していことが大事だと」、住民主体の自治のあり方を問題提起した。
◆公助があり自助
新自由主義のなかでの非営利福祉協同事業について話した佛教大学の鈴木勉教授は、介護保険制度の「地域包括ケア」に疑問を投げかける。2012年の「社会保障プログラム法」にある「政府は、住民相互の助け合いの重要性を認識し、自助・自立のための環境整備等の推進を図る」とあるが、そこではまず「自助」、それができないのであれば「助け合い」で対応するというが、これは国の社会保障義務の回避だという。
同教授によると、「安定した雇用と暮らしのできる賃金、つまり公的な生活ができるための保障制度のあることが自助の条件だ」というわけである。
したがって、政府の、まず「自助ありき」を前提にした地域包括ケアのシステムは、本人・家族の「自助=自己責任」が優先されているという。したがって協同組合陣営は、「医療費・介護費用の公費負担削減の方法として提案された地域包括ケアを無批判に受け入れるのではなく、地域ケアの一翼を担いながらも、国民の医療・介護保険体制の抜本改正を提案すべきだ」と指摘した。
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