【農業WGの意見問題】「承服できない」奥野全中会長、中野全農会長2016年11月18日
政府の規制改革推進会議農業WGが11月11日に発表した農協改革と生乳流通のあり方についての「意見」をめぐって自民党は農林関係合同会議を17日に開いた。JAグループから奥野会長らが出席し民間組織である全農やJAの事業、組織のあり方について年限を区切って改革を求めている意見について「承服できない」と表明した。出席した議員からも「農協解体は絶対反対」、「何の権限があってこんな話を出してくるのか」など反発の声が多数を占めた。
会合で西川公也農林・食料戦略調査会長は農協改革については26年6月の与党とりまとめで自主改革を基本に5年間を改革期間とすることなどが決まっていることを改めて指摘したが、安倍総理からは「できれば規制改革会議とそう時間的なずれがなく一緒にやってくれないかという意見もあった。中身は農家にやさしい対策であってほしいという気持ちを伝えられた」と話し、「規制改革推進会議から意見が出た以上、放っておくわけにはいかない。党としてどういう対応をするか、みなさんの意見を聞こうということになった。ただ、不断の改革はやっていく。農家の所得を上げる大前提のもと、農家のみなさんの期待に応えていきたい」などとあいさつ。小泉進次郎農林部会長は「意見のなかには骨太PTの立場から賛同できる中身があるのも事実。一方、これは受け止めきれないというものもあるのも事実だ。これからしっかり協議をしていきたい」と話した。
規制改革推進会議事務局からの「意見」の概要報告のあと、JA全中の奥野長衛会長は次のように述べた。
◆奥野会長「驚きと怒り」
「昨年10月末のTPP大筋合意以降、必ず日本農業に何らかの影響があるだろう、どのような対策を打っていけばいいのか、について与党、農水省と議論を重ねてきた。そのなかで日本農業を世界に通用する農業にしよう、日本の農業構造を変えていかなければならないという決意のもと、(小泉氏から)一緒に山を登りましょうという提案をいただきわれわれも合意をしてがんばってきたつもりだ。目的は日本の農家、農業のためであって、全農はもう事業改革に着手もしている部分もある。
そこにいきなり農業構造の改革ではなく、農協改革という言葉が規制改革推進会議から飛び出してきた。非常に驚いたし、怒りも感じている。今日開いた全国会長会議でも怒りの意見ばかりだった。
われわれは農業を変えようとがんばってきた。それがなぜ今農協を変えようということになるのか。われわれとしては承服しがたい」。
◆中野会長「徹底して闘う」
JA全農の中野實経営管理委員会会長は「最初に聞いたときの腹立たしさはとても簡単に言いあらわせるものではない。意見書は全農の事業、組織のあり方や信用事業にまで言及するもの。農協改革第二ステージというべきもので決して承服できるものではない」と強調したうえで、「規制改革改革推進会議に注文、要望がある。意見書の前文には、今般、改めて現時点における改革の方向や進捗状況を確認したら生産資材の調達方法などに課題があることが分かった、と書いてある。全農との十分なヒアリングもないなかで、どうしてこのような提言になるのか分かりかねる。全農を含む系統農協の改革の方向や進捗状況をどういう方法で確認されたのか、その結果がどうだったから、こうした結果に至ったのか、5年間の集中改革期間に対する認識を聞かせてほしい」と同会議の議論に疑問と批判を示し「この意見書はまったく承服できない。全農の職員やJA、あるいは取引先にも先行きの不安を語る人々が出てきた。この意見書が原因で会員、組合員のみなさまに迷惑、損害がかかるようなことがあれば私どもとしては徹底して闘いたいと思っている」と断固たる姿勢をとることを強調した。
JA全中の飛田稔章畜産・酪農委員長は生乳出荷の全量委託を廃止するとの意見に「指定団体制度の機能が維持されるとは思わない。良いとこ取りを許すわけにはいかない。しっかり指定団体機能堅持を」と訴えるとともに即時廃止を求めている「クミカン」について「JAがしっかり農業経営の記帳をしながら経営の中身を把握して、次の年の経営方針をどうするかを農家と考えていく仕組み。なくすと農業は無理だという人も出る」と農家にとって必要な仕組みであることを強調するとともに、加入脱退は自由で北海道の加入率は71%という実態も報告した。
◆総理はなぜこんな委員を任命したのか?
議員からは厳しい批判が相次いだ。「農協改革に現場の意見を聞いていない。努力しても無駄ではないかというメッセージになる。地方の暮らしがどうなっていくのか」、「農協解体は絶対反対」、「何の権利があってこんな提言を出すのか」、「規制改革推進会議のメンバーは責任が取れるのか。農協からまた自民党はだますのかといわれた。JAとの信頼関係でやってきたはず」などの意見のほか、「この農協改革を政府に実行させるとなったら、日本の自由主義の死。農協は民間の事業体だ。いつから統制経済になったのかだ」、「この意見を扱わないでほしい。民主主義の崩壊ではないか」など政府の姿勢と政策決定プロセスへの疑問が出たほか「どうしてこういう人を総理は任命したのか。政府と与党は一体といいながらこれだけ距離がある」との総理批判や、「北海道は全面的に反対。相容れるものは何もない。全員対決だ」など強い口調の批判が相次いだ。
意見のなかには容認できる改革案もあるかどうかを検討すべきとの声もあったが「そんなものは必要ない」との即座に反発の声が上がった。
意見表明は45名。2時間以上に渡った会合の最後に西川委員長は「自民党は農村、農業、農家がよくならない限りどんな提言もはね除ける。受けません。将来、あのときの改革がよかったという自信がない限り意見を聞くわけにはいかない。これが共通の認識であろう。よく話合いをしながら取り扱いも含めて検討していきたい」と述べた。
会合では規制改革推進会議のメンバーと意見交換をすべきだとの意見もあった。西川会長は何らかのかたちで意見交換する意向も示した。26年に農協改革について当時の規制改革会議が全中廃止など極端な意見を提出した際も自民党の会合では政府の規制改革会議メンバーと平場で議論すべきとの意見があったが「政府・与党は一体」との認識のもとか、実現しなかった。
今回の意見について安倍総理は「皆様から頂いた提案を私が、責任を持って、実行していく」と7日の規制改革推進会議で述べている。自民党の会合では「与党とも連携してなどの意見がなぜ入らなかったか。官高党低か」、「政府は前向きだが自民党は後ろ向きと捉えられてはミスリードだ」と今後の選挙にも影響するとの指摘もあった。
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