生物多様性保全と温暖化対策は両立できる 森林総研などが予測2019年12月5日
地球温暖化による気温上昇を2℃以内に抑えるには、新規植林やバイオ燃料用作物栽培など土地改変を伴う対策が必要。しかし、その土地改変は、野生生物のすみかを奪い、多様性を低下させるかもしれないと心配されていた。
森林総合研究所は、立命館大学、京都大学、国立環境研究所、東京農業大学と共同で、パリ協定(※1)が目指す長期気候目標(2℃目標)達成のための温暖化対策が、森林生態系を含む世界の生物多様性に与える影響を評価した。その結果、2℃目標の達成で、生物多様性の損失が抑えられることが予測された。
研究の概要。この研究では、温暖化対策「あり」と「なし」のそれぞれの場合における将来の生物多様性の損失程度を比較した。その結果、気温上昇が2℃以内に抑えられる対策「あり」のケース(上)の方が、大幅な気温上昇によって多くの生物種の生息地が失われる対策「なし」のケース(下)よりも、生物多様性の損失が抑えられると予測された。
温暖化を放置しておくと、気温上昇により生物の生息環境が悪化する恐れがある。2℃目標達成のためには新規植林やバイオ燃料用作物の栽培といった土地改変を伴う温暖化対策が必要だが、同時に生物のすみかも奪い、多様性を低下させてしまう可能性がある。この研究では、2℃目標達成のための温暖化対策「あり」と「なし」それぞれの場合における将来の生物多様性損失の度合いを、複数の統計学的な推定手法を使って、世界規模で比較した。その結果、対策「あり」で2℃目標を達成した方が、「なし」のままで温暖化が進行してしまった場合と比べて、生物多様性の損失を抑えられることが、世界で初めて示された。この成果は、2019年11月20日にNature Communications誌でオンライン公開された。
生物多様性への影響予測結果。温暖化対策「あり」と「なし」それぞれのケースについて、5種類の社会経済シナリオのもとで予測した2070年代の生物分類群ごとの潜在生息域の変化割合(%)と、その変化の要因の寄与度を色分けで示した(土地改変、気候変動、2つの要因の相乗効果)。鳥以外の多くの生物では潜在生息域は減少するが、その減少の程度は対策「あり」の場合の方が対策「なし」の場合よりも緩やかになると予測される。
この研究の内容は次のとおり。
▽材料と方法
世界中の生物多様性を評価するため、5億件以上の生物分布情報から、5つの分類群(維管束植物、鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類)に属する8428種の生物種を選び出し、情報を整理。このデータをもとに、地球規模で生物の生息に適した地域(潜在生息域)を予測するための生体ニッチモデル(※2)を構築。完成したモデルに将来の気候や土地利用の条件を当てはめると、その条件に見合った生物の潜在生息域を予測し、地図上で可視化できるようになる。
将来の気候条件としては、「2℃目標を達成するための温暖化対策を推進する場合(対策あり)」と「なにもせず温暖化が進行した場合(対策なし)」の2通りを想定した。さらに5種類の異なる社会経済シナリオ(※3)を想定し、それぞれの社会経済状態に見合った将来の土地利用変化を予測するモデルと生態ニッチモデルとを統合することで、シナリオごとの生物多様性損失の程度を比較・評価した。
▽今後の展開
この研究で開発した手法で、温暖化対策と生物多様性の関係を世界規模で分析することが可能となった。この手法は、温暖化対策だけでなく、持続可能な社会のための様々な政策が生物多様性に及ぼす影響の影響に応用することが可能。複数の持続可能な開発目標を達成するためのロードマップを探索することが可能となる。
(※1)パリ協定とは、京都議定書に代わる2020年以降の温室効果ガス排出削減などのための国際枠組み。世界共通の長期目標として産業革命以降の温度上昇を2℃以内に抑えるという目標(通称2℃目標)を設定するとともに、これを1.5℃に押さえる努力も追求するとしている。
(※2)生態ニッチモデルとは、生物種の現在の生息地点と気温・降水量・土地利用などの環境因子から、当該生物種の生息適地の存在確率を推定する統計学的手法。
(※3)社会経済シナリオとは、地球温暖化とは直接関係しない社会経済の多様な発展の可能性を、シナリオとして記述したもの。この研究では、「持続可能」「中庸」「地域分断」「格差拡大」「化石燃料依存」という名称の、それぞれ異なる社会経済状態(人口、GDP、エネルギー技術の進展度合いなど)を想定した5つのシナリオを用いている。
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