塩害に負けないイネの開発に成功 農研機構、東北大、産総研が世界初2020年8月24日
農研機構と東北大学、産業技術総合研究所は8月20日、根の改良で塩害に強いイネの開発に世界で初めて成功したと発表した。地球温暖化で高潮リスクが高まっている日本や熱帯アジア沿岸部など、「塩害」想定地域でイネの安定収量を目指した品種改良に大きく一歩前進した。
土壌の表面に根を伸長させる「地表根遺伝子(qSOR1、キューソルワン遺伝子)」を世界で初めて発見したのに基づくもので、これを使って根を改良した。発見した遺伝子を制御し、酸欠状態の土中に根を張らせないことで塩害による収量の減少を約15%軽減できたという。
塩害は、畑より水田で起こる方が被害が大きい。植物細胞にダメージを与える前者に対し、水田の場合、土壌全体が酸欠状態となり、根腐れなど生育不良を引き起こすからだ。従来のようなイネの耐塩性研究や品種改良では塩による直接的な害のみ対象で、土壌の酸欠状態には対応できなかった。
今回開発を進めた研究グループは、干ばつ時に土壌下層の水を利用できるようにするという従来のようなイネの開発とは異なり、土壌表面近くに張る根(地表根)であれば、塩害で生じる酸欠状態の土中の害をイネが回避できるではないかと着想。インドネシアの一部の水稲が地表根を作ることを
過去に発見していたためで、塩害水田でそれを用いている報告はなく、塩害水田での米生産の改善に利用できないか試みたという。
研究を進めた結果、インドネシアの水稲から地表根形成にかかわるqSOR1遺伝子を同定。同遺伝子は根の先端で働き、重力方向ではなく土壌表面に根を張ることが明らかになったという。
地表根を形成しない一般的なササニシキに同遺伝子を組み入れると地表根が形成され、通常のイネと同ササニシキとで4年間にわたって行った収量比較でも、今回の遺伝子を組み入れたササニシキの方が塩害水田においては「15%以上」も増収となるという成果が得られた。通常の水田の場合、生育に影響があるといえるような差はみられなかった。
報告レポートでは「塩害水田で起こる根の酸欠の回避に有効で、塩害水田向けのイネの品種改良に利用できる」と結論付けている。
インドネシアの一部の品種しか地表根遺伝子は持っておらず、日本を含め世界中のほとんどのイネ品種で新たな育種利用が期待できると述べている。
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