40万トンを飼料用米に 米の需給安定は国の責任2020年11月9日
農林水産省は11月5日、10月15日現在の2020年産水稲の予想収穫量を公表した。9月15日現在の生産量見込みより12万t少ない723万tと見込まれる。作況指数は2ポイント低下して「99」となった。10月16日に開いた食糧部会で農水省は9月15日現在の生産量見込みをもとに、2021年産米の適正生産量を679万tと示していたが、20年産の生産量が当初見込みより減ることから21年産の適正生産量を693万tと上方修正した。しかし、適正な需給には21年産でなお40万t近い主食用生産を飼料用米など非主食用米に転換していくことが求められている。再生産が可能な水田農業を維持していくため、生産現場の取り組みを支える国による関係機関の万全な政策支援が必要だ。JAグループは5日の全中理事会で「今後の水田農業対策に関するJAグループの政策提案」を決めた。水田フル活用による万全な支援の確保を求めている。
20年産比 36万tの削減を
農水省が米の需給見通しで21年産の適正生産量を693万tとしたのは、過去の例から安定的に米価が維持される在庫量を200万t程度する方針からだ。参考値として15年産で過去最大となる6.8万haの削減を行った場合の試算として692万tを示した。すなわち21年産では15年産とほぼ同様の取り組みが求められる。
北日本「良」、九州「不良」
来年の対策を考える前に今年産の作柄を整理しておきたい。10月15日現在の作況指数は北海道は106の「良」、東北は104、北陸は102の「やや良」となった。これらの地域では初期成育が順調で全もみ数が確保され、登熟も順調に推移し作柄が平年を上回った。
一方、東海から西はトビイロウンカの被害、登熟期の日照不足などで登熟が不良となった。九州では9月上旬の台風の影響もあって作柄が平年を下回った。東海は95、四国、近畿は96、中国は92の「やや不良」となり、九州は85の「不良」となった。九州は昨年は86、2年連続で「不良」となった。また、トビイロウンカの被害が大きかった山口県は73となった。ウンカ被害による坪枯れで収量が低下したことに加えて、ウンカ被害を回避するために早めに収穫したことによる単収の低下、さらに日照不足による粒張りの未熟なども要因と考えられるという。
コロナが米需要を直撃
東海から西日本にかけては作柄が決してよくないなか、来年産では過去最大となる作付け削減を全体として求められるのは需要が大きく減少しているからだ。これまで人口減と高齢化の進行で毎年10万t程度の需要減が見込まれていたが、昨年7月から今年6月末の1年間では20万t減とトレンドの倍の減少幅となり需要量は714万tとなった。これは新型コロナウイルスの影響で、業務用を中心に需要が減少したことが大きい。
農水省の調査では今年3月から8月の6か月間の販売数量は129万tで前年同期より6.3万tも減少した。このうち新型コロナウイルスの影響といった特別な要因による減少は4.5万tと推計している。
ただ、今後は需要回復を見込んでいる。米需給見通しでは、今年の需要実績は714万tだったが、来年6月末までの需要量を711万t~716万tとしている。この見込みについては「甘い」との批判もあり、農水省も変動の可能性があることを基本指針に注記するなど異例の対応となっている。
1俵1000円下落で 10a収入3151円減
米の過剰による米価下落が懸念されているが、農林水産省は10月27日、2020年産米の価格が下落した場合のナラシ対策(収入減少影響緩和対策)の補てん額など試算を示した。
20年産米価が19年産米価の60kg1万5720円(全国全銘柄平均価格、包装代、消費税含む)から1000円下がった場合、収入額は10a12万1032円となる。標準的収入額は10a12万4174円(直近5年中3年平均)であり、その差額の9割の10a2827円が補てん額となる。これを収入額にプラスすると計12万3859円となる。
ただし、19年産の10aあたり収入額は10a12万7010円だ。したがって、ナラシ対策による補てんを受けても10aあたり3151円の減収(▲2.5%)となる。(実際の補てん額は麦や大豆など他のナラシ対象品目ごとの収入差額を合算・相殺して算定)。
さらに農水省は60kgあたり1500円下落した場合の補てん額も試算した。それによると補てん額は10a6570円となり収入と合わせて10a12万3443円となる。補てんを受けても19年産収入額との差は10あたり3567円(▲2.9%)の減少となる。
ナラシ対策の申請件数(6月末)は7万8000件で19年産より1万件減少した。うち認定農業者が7万4678件、法人が6777件となっているほか、集落営農が2994件が加入している。集落営農の構成戸数は8万1000戸となっている。申請面積は米で46万4000haで前年より3万4000ha減少している。20年産の主食用作付面積は136万6000haの見込みであり、ナラシ対策への加入面積は34%に過ぎないのが実態となっている。 加入者が少なく米価下落の影響を受ける生産者が多数となることが懸念されるが、そもそもナラシ対策はここでみたように補てん割合は9割。下がった分の9割補てんでは翌年も米価下落が続けば経営への打撃は広がる。この点への批判は当初から尽きない。「下がったのは自己責任」ということか、と十分な経営安定対策となっていないことが加入者が少ない要因のひとつでもある。今後議論が求められる点だ。
主食の安定供給に 抜本対策が不可欠
平成30年に国による生産数量目標の配分の廃止から3年。この3年間の総括が必要だというのは自民党の議論でも多い。国が示した適正生産量から割り出した作付け面積は全国計で3年とも上回った。それでも過剰にならなかったのは作況が99など作柄が良くなかったことが要因でここに来て、コロナ禍の影響での需要減もあって一気に問題となってきた。農水省の食糧部会でも「数字は衝撃的だが、いつか来る未来がいま現れたと考え、各産地で必要な取り組みを実行すべき」との意見も出た。
JA全中の金原壽秀副会長(水田農業対策委員長)は11月6日の自民党農業基本政策検討委員会の政策提案で「作る自由、売る自由、の結果ではないか。需給の管理は国の責任」と訴えた。
40万t近い数量を作付け転換していくには、水田農業をどう描くのか、JAだけではなく、行政、稲作経営者、農業法人、集荷業者、実需者などた一体となって事態を共有することが必要だとJAグループは政策提案で強調する。JAグループの集荷量は300t程度であり、東北の主産県1県分の生産量に匹敵する40万t減産は「JAグループだけの取り組みでは限界がある」(中家徹JA全中会長)とする。
全国各地のJAからは実需者からの要請に応えて生産しており決して作りすぎではなく、むしろもっと生産してほしいという要望が寄せられているとの声も多く聞く。今回の政策提案では、個々の生産者や産地といったミクロの視点では需要に応じた生産となっていても、地域や県、さらに国というマクロの視点となると需給均衡からかい離するということが示されている。JAグループの政策提案では、JAグループや実需者などで構成し、業務用米や輸出米などのマッチングを行っている全国組織が機能を発揮するため、国と連携して需要に応じた生産が実現するよう支援を行うことを求めている。情報提供をするにしても、主食用米の生産目安や、非主食用米、麦、大豆の作付け拡大につながる情報提供が必要だとしている。
視点は食料安保と水田維持
需給均衡を図るための対策で必要なのは飼料用米の増産だ。これは基本計画でも増産目標を掲げていることであり、食料安保の観点から水田農業維持との観点で政策を考える必要がある。
基本計画では2030年に70万tとする目標であり、これを実現するには年間2.8万t増加が必要で全中の試算では現行制度での助成金で年約56億円の予算措置が必要となる。同様に米粉も2030年に13万t目標を達成するには年約17億円が必要になる。単年度の需給調整対策としてではなく基本計画の実現という観点から議論することが必要だ。
また、需給調整については飼料用米と主食用米での手取り格差の解消という助成措置の見直しのほか、集荷したJAや集荷業者が非主食用米に転換できる仕組みや、JAなどが交付金をプールして需給調整に活用する仕組みを求める声もある。
需要に応じた生産は必要だが、再生産ができる水田農業対策は、主食である米の安定供給とともに、地域、国土を守るという水田の多面的機能の発揮という消費者の暮らしにとっても大事な問題である。JAグループにはその発信も期待されている。
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