米国産牛肉にセーフガード発動 関税引き上げ-農水省2021年3月17日
米国産の輸入牛肉が日米貿易協定に基づく輸入基準数量を超えたため牛肉セーフガードが発動し、25.8%の関税が38.5%に引き上げられる。期間は3月18日から4月16日までの30日間。
日米貿易協定は2020(令和2)年1月に発効し牛肉の関税は38.5%から今年度は25.8%に引き下げられた。一方、日米貿易協定で牛肉セーフガード(SG)は2020年度は24万2000tを超えると自動的に発動することになっている。
農水省によると2020年4月から21年3月上旬までの輸入数量は24万2229tと基準数量を超えた。そのため協定に基づき3月18日から4月16日までの30日間、関税率を38.5%に引き上げるSGが発動される。SGの発動期間は1月までに基準数量を超過した場合は年度末まで、2月までに超過の場合は45日間、3月までに超過の場合は30日間と協定で決められている。
牛肉の輸入量は牛肉需要が堅調なことから増加しており、2015年の48.7万tから2019年には62.2万tとなっている。この間、国産牛肉の供給量は33万t~35万tと一定量で推移している。
輸入牛肉のうち米国産が約4割を占め、冷蔵牛肉は量販店や焼肉店、冷凍牛肉は牛丼店、コンビニ弁当、冷凍食品に仕向けられている。
2020年度は新型コロナ感染症の影響で外食をはじめとした需要減で前年比95%と牛肉輸入量全体は減少しているが、米国産牛肉の輸入量は同103%と増えている。
その原因は豪州産牛肉の輸入減と農水省は分析する。2018年から2019年にかけて豪州は干ばつに見舞われ牧草の不足で牛を前倒し出荷した。その後、飼養頭数を確保するため繁殖雌牛の出荷抑制が行われたことや、コロナ禍で食肉処理施設の稼働率が低下したことから、生産が低調で日本の関係業界は豪州産から米国産へシフトしたことが米国産牛肉の輸入増につながった。業界関係者によると豪州産と米国産の価格差は逆転しているという。
需要面ではコロナ禍の影響で外食需要が減少したが、米国産牛肉の主要ユーザーの牛丼店は比較的堅調な売り上げでこれも輸入増加につながった。
一方、国産牛肉の価格は昨年4月の緊急事態宣言時には大きく下落したが、経済活動の再開によって上昇し10月には前年とほぼ同じ水準まで回復した。2月の速報値では和牛平均価格は2431円/kgで前年同月比+9.5%となっている。ただ、交雑牛去勢(B3)は1502円/kgで▲1.7%、乳牛去勢(B2)は1004円同で▲1.8%と前年より下落しており、価格の安い米国産牛肉輸入の影響が懸念されるが、米国産牛肉の輸入量は12月は前年比85%、1月は同82%、2月は91%と減少していることから農水省は「交雑種、乳用種への影響はゼロではないがそれほど大きくない」との見方だ。
セーフガードの発動は2017年8月以来、3年7か月ぶり。前回はウルグアイラウンド合意に基づく制度のもとでの仕組みで、現在はTPP11、日欧EPA、日米貿易協定が発効したメガFTA時代となり、セーフガードはそれぞれの協定で規定されている。
日米貿易協定では牛肉セーフガード発動すると米国に通知するとともに、協定のサイドレターで「発動水準を一層高いものにするため協議を開始する」ことが盛り込まれている。このサイドレターに合意したことが明らかになった時点で「そもそもセーフガードの仕組みを無意味にする再協議規定だ」との批判が出た。その再協議は90日以内で終了させるとしており、そのためセーフガード発動から「10日以内に協議を開始する」とされている。
農水省によるとこの再協議がどうなるか現時点では不透明。セーフガードの発動基準数量は2021年度は24.7万t、22年度は25.2万tなど引き上げられ協定では2033年まで基準数量が規定されている。サイドレターでは「発動水準を一層高いものに調整する」とされているが、単年度の見直しになるか、それとも水準全体の見直しなるかなど協議が始まらないと不明だ。また、今回の輸入増が干ばつによる豪州産の生産減という要因をどう協議に反映されるかも議論になり得る。
一方、米国側は協議の体制がまだ整っていない。バイデン大統領は米通商代表部代表に下院歳入委員会通商担当首席法務官のキャサリン・タイ氏を指名したが、現時点では議会で承認されていない。
承認されればアジア系米国人女性として初だがまだ決まっていない。そのため実務を担う次官、次官補クラスも任用されていない。
一方、今回は豪州産にはセーフガードは発動されない。豪州を含むTPP11で決まっている発動基準数量は2020年度は61.4万t。3月上旬までのTPP11国(豪州、カナダ、NZ、メキシコなど)からの輸入量は31万tで前年比90%。TPPから米国が離脱したが、TPP11での発動水準見直しは行われていない。この見直しもいぜん課題である。一方でTPPを離脱した米国は日米貿易協定で関税削減とともに独自にセーフガード発動の仕組みを作ったことから、今回の発動にいたったという面もある。また、年度途中から輸入基準数量を超えそうとの見方は業界に広まり、一定の輸入抑制効果はあったとの見方もある。
セーフガードの発動期間は30日間。4月17日からは2020年度より0.8%引き下げた税率25.0%が適用される。再協議がどうなるか、注視する必要がある。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(138)-改正食料・農業・農村基本法(24)-2025年4月19日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(55)【防除学習帖】第294回2025年4月19日
-
農薬の正しい使い方(28)【今さら聞けない営農情報】第294回2025年4月19日
-
若者たちのスタートアップ農園 "The Circle(ザ・サークル)"【イタリア通信】2025年4月19日
-
【特殊報】コムギ縞萎縮病 県内で数十年ぶりに確認 愛知県2025年4月18日
-
3月の米相対取引価格2万5876円 備蓄米放出で前月比609円下がる 小売価格への反映どこまで2025年4月18日
-
地方卸にも備蓄米届くよう 備蓄米販売ルール改定 農水省2025年4月18日
-
主食用МA米の拡大国産米に影響 閣議了解と整合せず 江藤農相2025年4月18日
-
米産業のイノベーション競う 石川の「ひゃくまん穀」、秋田の「サキホコレ」もPR お米未来展2025年4月18日
-
「5%の賃上げ」広がりどこまで 2025年春闘〝後半戦〟へ 農産物価格にも影響か2025年4月18日
-
(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
-
JA全農えひめ 直販ショップで「えひめ100みかんいよかん混合」などの飲料や柑橘、「アスパラ」など販売2025年4月18日
-
商品の力で産地応援 「ニッポンエール」詰合せ JA全農2025年4月18日
-
JA共済アプリの新機能「かぞく共有」の提供を開始 もしもにそなえて家族に契約情報を共有できる JA共済連2025年4月18日
-
地元産小粒大豆を原料に 直営工場で風味豊かな「やさと納豆」生産 JAやさと2025年4月18日
-
冬に咲く可憐な「啓翁桜」 日本一の産地から JAやまがた2025年4月18日
-
農林中金が使⽤するメールシステムに不正アクセス 第三者によるサイバー攻撃2025年4月18日
-
農水省「地域の食品産業ビジネス創出プロジェクト事業」23日まで申請受付 船井総研2025年4月18日
-
日本初のバイオ炭カンファレンス「GLOBAL BIOCHAR EXCHANGE 2025」に協賛 兼松2025年4月18日
-
森林価値の最大化に貢献 ISFCに加盟 日本製紙2025年4月18日