農作業事故 撲滅へ 課題と取り組みを報告 日本農業労災学会・東京農大総研研究会2021年10月25日
日本農業労災学会と東京農業大学総研研究会は10月22日、2021年度のシンポジウム「農作業事故防止のために産官学と農協・社労士グループとの連携をどう進めるか」をオンラインで開催した。
農作業安全や事故防止に向けて様々な対策が実施されているが、事故は着実に減少していない。こうしたなか農林水産省は農業者・農業者団体、労働安全分野の有識者、農業機械関係団体などを構成員とした「農作業安全検討会」を設置し検討を行ってきた。
シンポジウムで同検討会委員の田島淳東京農大教授は「農作業事故防止安全対策の現段階と今後の展望」を報告した。
農作業死亡事故は過去10年間で年間400人から300人へと減少している。令和元年は死亡者281人で、このうち184人、65.4%が農業機械作業での事故となっている。
令和元年までの5年間でみても、死亡事故のうちトラクターによる転落・転倒が圧倒的に多い。このうちシートベルトの未着用は90%以上を占める。重傷や軽症まで含めとシートベルトは6.5倍安全性を高めることが検討会でも示され、シートベルトの義務化と、シートベルトを付けていない時には警報が鳴るなどの装置の導入も必要との考えをまとめた。
ただ、田島教授はシートベルト自体が事故後の安全確保策であり、根本的な事故防止対策ではないことなどを指摘した。そのうえで建機のように、操作者の安全を守るシートバーが定位置にないとそもそも機械が動かないなど、農機でもそれを操作する一連の動きのなかで安全確保する考え方で対策を考える必要性や、灯火器類の装着などは、専門家の指導のもとに農業者が自ら工夫して安全を確保する参加型のシステムが有効ではないかなどと提起した。
農業機械の安全性検査については農研機構の藤井幸人安全検査部長が報告した。農業機械の安全性検査は2018年度から農研機構が実施している。トラクタの転倒試験などの安全キャブ・フレーム検査、制動装置などの安全装備検査に加え、ロボット・自動化農機検査も実施している。自動化農機では運転者以外の安全確保も課題になっているという。今後は行政による安全確保策とともに、製造者による安全保証、より安全性の高い製品を選択する行動変容なども求められると提起した。
JA全中営農担い手支援課JAグループGAP支援チームの高橋昭博氏は「JAグループの農作業安全とGAPの取り組み」を報告した。
高橋氏は農業現場の実態を報告した。免許が必要な機械や設備でも知識がないため無免許で使っていることや、整理されていない納屋での怪我や倉庫での落下などがある。収穫から運搬まで1人で行うことは当たり前となっており、そのリスクが意識されていないなどの問題点を指摘した。
自分の農場にどんなリスクがあるのか知ってもらうための勉強会などをJAが開くことが必要だという。どこが、なぜ問題なのか、雇用者に事故が起きたら「経営も打撃を受ける」などを自分たちで認識してもらうことを強調する。農薬散布時の保護具の必要性、廃棄物の管理仕方なども説明することが必要だ。
「JAは農家の実態をしっかり把握し、生産者とともに対策をしっかり立てること。まずは免許の確認から。事故が起きてからでは遅い。家族、パートも含めて対策は必要」と高橋氏は話す。
JAは営農部全体で生産者の状況を把握し、機械担当者、営農担当者、生産者団体の長を集め、対策の落とし込みと実施、リスク評価を行うことが必要などと提起した。
シンポジウムではそのほか、北海道の農作業事故防止の取り組みについて瀬野俊彦北海道農作業安全運動推進本部事務局長が報告。茨城県JAグループ監理団体「協同組合エコ・リード」の成井貞行氏が技能実習生の疾病について、また、社会保険労務士法人シャインの中村仁代表社員が兼業・副業に関わる農作業安全対策と農業労災制度の役割について報告した。
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