新しい資本主義とは何か 農中総研 南理事研究員が講演2022年4月21日
農林中金総研の南武志調査第二部長(理事研究員)は4月20日、オンラインで「マクロから見た新しい資本主義」をテーマに講演した。南氏は今後の政策として「人への積極的な投資が重要」などと指摘した。
「新しい資本主義」は岸田首相が昨年の自民党総裁選で掲げた。「分配なくして次の成長なし」を理念に、これまでの株主資本主義や市場万能主義に基づく構造改革路線が生んだ所得格差の是正と中間層への手厚い配分に力点を置く、と南氏は岸田政権の経済政策を見る。
そのひとつがエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる医療、福祉、保育分野の従事者の賃上げを令和4年度予算で実施することであり、賃上げ税制を拡充する税制改正も行った。
人への分配はコストではなく「未来への投資」と捉える考え方が示されているという。
新しい資本主義とは何かは明確ではないが、南氏は類似の概念として近年、欧米でも出てきた「ステークホルダー資本主義」の考え方を挙げる。
これまで企業は株主第一主義で利益の最大化をめざしてきた。しかし、ステークホルダー資本主義では、企業は取引先との公平で倫理的な関係構築、地域社会への貢献、従業員の公正な報酬提供と能力開発の支援などを行うとされ、「株主のために存在している」という基本原則から大きく修正する考えを示した。
そうした方向転換をめざすとして、雇用や所得をめぐる日本の状況はどうなっているか、南氏はデータで示した。
格差拡大が叫ばれており、実際に当初所得でみると格差を示すジニ係数は1990年以降、0.40から0.55超へと大きくなっている。しかし、再分配所得で見ると2000年以降、0.35から0.40内でほぼ横ばいで、拡大はしていないという。G7のなかで日本は格差がもっとも少ない。
一方、日本の賃金は停滞し、2000年ごろからOECD平均を下回り、最近では韓国のほうが日本を上回っている。米国との差は開く一方で、日本で1000万円稼いでいても米国では低所得者、ともいわれることも。
バブル崩壊後、企業はROE(自己資本利益率)を通じた企業価値最大化をめざし被雇用者の還元は後回し、労働組合も賃上げより雇用確保を優先した。企業は非正規雇用を増やし人件費の固定化を避けた。
南氏の分析ではアベノミクス下で、女性や高齢者の非正規雇用が増えて労働生産性は鈍化した。また、1989年に1000万人を超えていた年間給与400万円から500万円の中間所得層は、2019年には80万人を下回った。中間層が明らかに減少している。
一方、企業の設備投資は伸び悩み、内部留保は増え続けている。
南氏は歴代内閣は成長戦略を掲げてきたが成功したとはいえないと指摘。こうしたなか「人への投資」が必要だという。
少子高齢化のなかで「労働力」はますます希少になっており、それを有効活用することが求められる。そのためには生産性の高い産業や企業への労働シフトが急務でリカレント教育の促進、職業訓練の充実などで、労働力の質的向上も求められる。
また、反対論は根強いものの、労働者に十分に配慮した制度としたうえでの解雇法制も労使間で決着することが求められると話した。
デジタル化もキーワードであり、若い世代が中間層へと成長していくためデジタル技術のスキルを上げていくことや、地方や農村の活性化にとってもこれが重要になるとした。
南氏は「人への投資で未来を切り拓く、を主眼に政策も民間も動くべき」と強調した。
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