食料安保で本紙コラムの宮城大・三石教授が講演 農政ジャーナリストの会2022年5月11日
本紙コラム【グローバルとローカル:世界は今】を執筆している宮城大学の三石誠司教授が5月9日、農政ジャーナリストの会の研究会講師に招かれオンラインで講演した。
宮城大学教授 三石誠司氏
農政ジャーナリストの会は4~6月期の研究会テーマを「改めて食料安全保障を考える」とし、その第1回研究会で三石教授は「穀物と食肉の需給から見る食料供給基盤の危機」と題して報告した。
三石氏は世界の食肉生産量について直近20年の変化を解説した。
20年間で牛肉は800万tの微増で6000万tほど、豚肉は3000万t増えて1億1000万tとなり、それぞれ増えたが、鶏肉は5000万tから1億tへと倍増していることを指摘した。要因は経済発展にともなう生活水準の向上で食肉消費が増えるが、それに対応した工業的、安定的なブロイラー生産が進んだためという。
世界全体で畜産環境問題への対応が迫られることに加え、人々の健康志向、人口の多いヒンズー教やイスラム教でも禁忌とされない食肉であることなどを倍増の要因として挙げる。
世界の鶏肉貿易量は年間約1300万tで日本は100万t以上の輸入量でトップ。しかし、三石氏によると中国は100万t以上の輸入国になることが確実で中東地域も200万tの輸入需要があるなど、今後の安定した鶏肉輸入に不透明な要素も指摘した。
また、豚肉は中国が最大の生産国で自給を必須とする政策をとるが、アフリカ豚熱で生産が激減した2018年から19年には、米国から中国向けの豚肉輸出が急増した。その分、日本への輸出は減ったが、米国にとって中国の重要度が顕在化した。
こうした動向をふまえると日本の畜産基盤がきわめて重要になっていると指摘した。
一方、世界の穀物生産の動向では、米をめぐる世界情勢が変化しているという。米国農務省の見通しでは4900万tの輸出量が2031年には5667万tと10年間で767万t増える。日本の全生産量に匹敵する新市場ができることになるが、それに対応した輸出国として米国農務省は生産量の多いインドから1万t程度の輸出を見込むエジプトまで挙げるものの、そこに日本の名前は挙げられていないという。
そのほか大豆の貿易は拡大し中国の輸入量は9900万tから10年後には1億4000万tを超える見込みでブラジル、アルゼンチンが輸出を増やす。こうした拡大する貿易量を前にすると日本の大豆輸入数量350万tは「別次元」といえるほど小さい。
また、トウモロコシはとくに米国ではエタノール向けが45%を占め、今や農産物であり工業用素材でもあるというポジションの変化がある。
こうした各国の動きについて、食肉を必須の食料として、その確保に手段を選ばない状況が進行していることや、農産物を食用だけではなく工業用としても位置づけて増産を図るなど、三石氏は日本との発想の違いを挙げた。
日本は米を飼料用にするのが精一杯で工業用利用などは「とんでもない」という考えだ。しかし、工業用にコーンスターチを使うのと同じように、米をコーンスターチに代えて産業用途として使う発想が必要ではないかと提起する。
実際に基幹的農業従事者が80代となって離農が加速する。そのなかで誰が水田を耕すのかに向き合い、米の生産を維持していくには、たとえば米の産業用利用のように、せめて「既存の商品を新規市場で活かすという視点の転換が必要」で、こうした具体的な対応策を実行することが食料安保につながると強調した。
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