飢餓撲滅と脱炭素に生産性向上10年で28%必要 OECDとFAO2022年7月5日
ОECD(経済協力開発機構)とFAО(国連食糧農業機関)は6月29日に報告書「農業見通し2022-2031」を発表した。
報告書では、ほとんどの農作物の価格はコロナ禍にともなう供給と貿易の混乱で高値で推移しており、最近ではともに穀物の主要供給国であるウクライナとロシアから農産物輸出の見通しが不透明となり、さらに状況は悪化していると指摘している。
そのうえでウクライナが完全に輸出能力を失った場合、小麦価格は紛争前の水準より19%高くなり、ロシアの輸出量が50%減少した場合は34%高くなると指摘している。
ОECDとFAОの発表によれば、マティアス・コーマンОECD事務総長は「ウクライナに平和が訪れなければ世界が直面する食料安保の問題は、最貧国で悪化し続ける。戦争の即時終結はロシアとウクライナの人々だけでなく戦争による急激な物価上昇に苦しんでいる世界中の多くの家庭にとって最良の結果である」と述べた。
また、FAОの屈冬玉事務局長は「食料、肥料、飼料、燃料の価格高騰と財政のひっ迫は世界中の人々に苦しみを広げている。ロシアとウクライナなど主要輸出国からの食料供給が減少し、世界全体で食料入手が困難になった場合、2023年には推定で1900万人以上が慢性的な栄養不良に陥る可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
報告書では中期的な見通しとして、今後10年間で食料消費は世界全体で毎年1.4%増加するとしている。その要因は人口増加で追加的な食料需要のほとんどは低・中所得国から発生し、とくに低所得国では穀物中心の食生活が続き、2030年までに飢餓を撲滅するというSDGs目標を達成するほど増加しないと予測している。
一方、世界の農業生産は年率1.1%増の見込みだが、エネルギーと肥料価格などの価格高騰が続くと生産コストの上昇から、生産性と生産高の伸びの制約となる可能性があると指摘している。
世界的に農作物生産量増加を促すために、育種技術の引き続きの向上と集約的な生産システムへ移行を前提にした場合、世界全体で農作物生産量が増加するとしている。増加量の80%は単収の増加で15%は耕地の拡大によるとする。
また、農業の温室効果ガスへの影響については、今後10年間で6%増加し、増加分の90%は畜産が占めるという。パリ協定で定められた世界的な温室効果ガス削減に農業分野が寄与するには、とくに畜産において「クライメート・スマート」農業生産プロセスや技術を大規模に導入することが求められるとしている。
報告書はこれまでの傾向が続くと2030年の飢餓撲滅と温室効果ガス排出量削減は達成できず、目標達成のためには世界全体の農業生産性を10年間で28%向上させる必要があると指摘する。
これは過去10年間の生産性上昇分の3倍以上だという。そのうえで農業を持続可能な生産性向上と持続可能な食料システムへの転換を達成するには、農業投資とイノベーションの促進、知識、技術、技能の移転を可能にする「包括的な行動が急務」と提起するとともに、食品ロスと廃棄の削減も求めた。
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