100年後に成果出せる施策を 伝統農業を見直すべき 元JA全青協会長・飯野芳彦氏 農協研究会2022年9月8日
実践段階に入った「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」をテーマに、9月3日に開かれた研究会(農業協同組合研究会主催、農協協会協賛)で、埼玉県川越市の大規模農家で、元JA全国青年組織協議会会長の飯野芳彦氏は、多品目の野菜づくりを通して感じている日本農業やみどり戦略の問題点などを指摘した。
飯野芳彦氏
「みどり戦略」がめざす農業は、われわれがすでに実行してきたことです。埼玉県川越市で3・5haの畑作経営をやっていますが、ほ場が50筆あり、一番遠い畑は4・5㌔離れています。いかにゾーニング(都市計画法による用途別区分)に失敗したか分かります。
周辺には400年前の先人たちが植林した平地林があります。林ですが大木はありません。40~50年ごとに萌芽処理しているからです。それによって古木を蘇らせ、美しい平地林を維持しています。
なぜ萌芽処理するかというと、関東ローム層という火山灰の土壌に理由があります。火山灰はミネラル分が豊富で水はけはいいものの保水・保肥力がないので、放っておくとヨシやアシが繁茂します。
17、18世紀になって江戸の人口が増えて野菜が不足し、未利用の武蔵野台地を開墾して畑にしました。この地域は水運がよかったので、野菜を江戸の日本橋まで直送できたのですが、まさに消費を見越したマーケットインの政策だったといえます。
ヨシやアシを刈り取って開墾し、人工的長方形に区割し、入植しました。針葉樹を屋敷林に、常緑樹を雑木林に配し、その落葉樹の葉を人糞と混ぜて腐植させます。400年間、毎年たい肥を入れ続けました。
いまもなお、わが家は40aの雑木林で、落ち葉を集める〝くずはき〟をしています。これが大変な作業です。それで日本一の品質の野菜ができ、出荷額で埼玉トップクラスに入る野菜産地になっているのです。腐植たい肥は購入した方が手っ取り早いかも知れませんが、野菜で稼げるから、いまも続いているのです。
わが家は市街化調整区域にあり、周辺は宅地です。1・2haで年3作しています。1.2haを宅地にすると90戸の家が建ち、400人が住めます。農地をつぶして家を建てる理由が分かるというものです。われわれは100年後のための施しをしているのです。これこそが食料の安全保障です。「みどり戦略」は100年後の成果が出せる施策でしょうか。
国産材の需要が伸びていますが、現在の林業従事者は5万人までに減り、需要に対応できない状態が続いています。2050年に日本の農業従事者は50万人になるといわれています。そのときは、必要な米はもう作れなくなっているのではないでしょうか。伝統的な日本の農業を保護する施策のない日本農業に未来はないと思います。
(関連記事)
・「カギ握るのは消費者」「資材高騰の中で活用を」「みどり戦略」めぐり報告・討論 農協研究会主催(2022.9.5)
・【報告1】農水省みどりの食料システム戦略グループ長の久保牧衣子氏
「肥料高騰の中、地域に応じて交付金など活用を」「みどり戦略」推進へ 農水担当者が呼びかけ 農協研究会(2022.9.6)
・【報告2】JAぎふ代表理事組合長 岩佐哲司氏
「消費者の理解が第一」コンソーシアム設置へ(2022.9.7)
・【討論】農水官僚 VS 大規模農家
「みどり戦略」成功のカギを握るものは(2022.9.9)
重要な記事
最新の記事
-
農業の転換点 正確な情報発信を 大会決議実践で「JAを前に」 山野会長2025年4月10日
-
有償の農業支援サービス提供「収穫」が7割 単価は面積当たり2025年4月10日
-
有償の農業支援サービス 利用者は28% 農水省2025年4月10日
-
【JA人事】JAきょうわ(北海道)(4月4日)2025年4月10日
-
【JA人事】JAきたみらい(北海道)大坪宏則組合長を再任(4月8日)2025年4月10日
-
その昔の季節の行事【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第335回2025年4月10日
-
「品薄単価高」バブルがはじけた切り花の3月相場【花づくりの現場から 宇田明】第57回2025年4月10日
-
高橋尚子、石川佳純など参加「JA全農チビリンピック2025」5月5日に開催2025年4月10日
-
本日10日は「魚の日」浜名湖産うなぎなど80商品を特別価格で販売 JAタウン2025年4月10日
-
BASFジャパン 7月1日付で新社長にハシビ・ゼイダム氏2025年4月10日
-
営農型太陽光発電に関する新サービスに早くも依頼 つなぐファーム2025年4月10日
-
台湾の大学・企業と遠隔営農支援システムの実証実験を開始 NTTアグリテクノロジー2025年4月10日
-
農福連携の取り組みを広げる 事例紹介動画も公開 福岡市2025年4月10日
-
農機200台が揃う「春の展示会2025」開催 実演&体験も充実 唐沢農機サービス2025年4月10日
-
奈良県産いちご「古都姫」のショートケーキ登場 カフェコムサ2025年4月10日
-
直営店限定「白鶴 御影郷」から春限定純米大吟醸 11日に新発売 白鶴酒造2025年4月10日
-
「第3回おからドーナツ選手権」日乃出食品が2部門で金賞 日本乾燥おから協会2025年4月10日
-
「ライフ」の唐揚げ「第16回からあげグランプリ」東日本・中日本で金賞2025年4月10日
-
お米を守れ!「Rice or Die」が伝える、日本の食卓に迫る危機とは 特設サイト開設 アサヒパック2025年4月10日
-
北海道訓子府町と包括連携協定 農業新興・地産地消など6分野で 石井食品2025年4月10日