基本法の検証がスタート 農業の価値「国民の理解を」 食料・農業・農村政策審議会2022年9月30日
農林水産省は9月29日、食料・農業・農村政策審議会を開き、野村哲郎農相が大橋弘会長(東大副学長)に基本法の検証と見直しに関する意見を求める諮問を行った。意見交換では農業者の委員から「農業をやめようという話がたくさん出ている」、「コストを価格転嫁できない」、「国民や国土を守るために一次産業が必要だという国民理解の徹底を」などの現場の厳しい実態をふまえた声が相次いだ。
大橋会長(左)に諮問する野村農相
野村哲郎農相は現行基本法の制定から20年以上が経過するなか、農業者の減少と高齢化など農業構造が大きく変化したことに加え、世界的な食料需給のひっ迫と気候変動など食料安保リスクの高まりなど制定時には「想定されなかったレベルまで変化している」ことを挙げ、「今年はターニングポイントになる。消費者を含めさまざまな意見を聞き国民的コンセンサスをしっかり形成していくことが大事。20年を振り返り次の20年を見据えたものとなる活発な議論を」と審議会に期待した。
審議会では新たに「基本法検証部会」の設置を決め、部会長に中嶋康博東大教授を互選した。部会長代理には大橋会長が指名された。
委員の意見交換ではとくに農業者委員から集落の人口減少や、生産資材高騰など厳しい現実が聞かれた。
熊本県阿蘇で米と畜産の後継者として夫と就農して20年の大津愛梨委員は「大きく儲かるわけではないが専業農家として足るを知る暮らしをしてきた」というが、人の減少は続き「現場はぎりぎりの状態。とくに今年に入って長引くコロナと資材高騰で一気に不安定化。臨界点を超えようとしている」と実情を話した。
産業として農業を強化することは大事だが「農業者の減少が国土の荒廃や農村文化の衰退に直結する。国民と国土を守るために一次産業が必要なんだという国民への教育を緊急かつ徹底的に進めてほしい」と強調した。
日本農業法人協会副会長の齋藤一志委員は「稲刈りの真っ最中なのに、来年から田んぼ借りてくれないか、という話がたくさん出ている」と話した。肥料価格が4倍に上がり採算が取れないと生産をあきらめる人や、大型法人でも生産コストを価格に転嫁できていない現状を訴えた。「来年、再来年、農業の大破綻が来るのではないか」と懸念した。
新潟の中山間地域で米中心の農業をしている山波剛委員は「農地は法人に集まってくるが人がいなくなっていく。法人だけになったら地域はなくなる。農村地域をいかに残せるか施策を考えてほしい」と話すとともに、生産の苦労などを自らも伝え切れていないが、今後は国民理解が必要だと訴えた。
山梨で有機農業をする井上能孝委員は消費者が農業と環境について学ぶことの重要性を強調した。
果樹園を営む佐藤ゆきえ委員は、一次産業の価値を高めるため消費者の理解醸成することが大切だとし、今年は農園に就職を希望する若者が多く「今までにない人材が扉を叩いている。若者の考えや行動が追い風になる」として価値観の変化を指摘した。
国民に農業、農村の実態を伝えるとともに、その価値を理解してもらうことが必要との意見は多く、食料価格の高騰などで「今は理解を得やすい時期」との指摘もあった。
基本法検証部会長となる中嶋康博委員は、農村の人口減少に対しては「新たなステークホルダーとしていかに人を招くか」が課題になるとして、「農業は自然と共生しながら、人々と協同して取り組むところが他産業と違う。地域力を強化する観点から集落や団体のガバナンスのあり方が課題になる」と指摘するとともに、農産物の低価格で後継者がいなくなったとして「農業・農村の深刻な人手不足への対応を誤ると食料供給を破壊し、将来を危うくする」と話した。
一方で人が少なくなるなかで、地域全体でスマート農業やDXに取り組む必要性や、条件不利地域では飼料生産やバイオマス活用、粗放型の管理など新しい農地利用も考えるべきとの意見もあった
JA全中会長の中家徹委員は、低自給率と生産基盤の弱体化、多発する気象災害など、食料の安定供給のリスクが増大しているのに国民に理解されていないとして、コストが上がっても価格転嫁できない実態も含めて「国民理解の醸成」を強調した。
10月から基本法検証部会で月2回のペースで議論される。当面は有識者など関係者からヒアリングを行う予定だ。
【基本法検証部会の委員】
磯崎功典・キリンホールディングス代表取締役社長
井上能孝・ファーマン代表取締役
合瀬宏毅・アグリフューチャージャパン代表理事理事長(臨時委員)
大橋弘・東京大学副学長(部会長代理)
上岡美保・東京農業大学国際食料情報学部国際食農科学科教授
清原昭子・福山市立大学都市経営学部教授(臨時委員)
香坂玲・東京大学大学院農学生命科学研究科教授(臨時委員)
齋藤一志・日本農業法人協会副会長
茂原荘一・群馬県甘楽町長 全国町村会政調委員委員長(臨時委員)
高槻亮輔・インスパイア代表取締役社長
寺川彰・丸紅代表取締役副社長執行役員生活産業グループCEO(臨時委員)
中嶋康博・東京大学大学院農学生命科学研究科教授(部会長)
中家徹・全国農業協同組合中央会会長
二村睦子・日本生活協同組合連合会常務理事
堀切功章・キッコーマン代表取締役会長CEO
真砂靖・TH総合法律事務所特別顧問 読売新聞グループ本社監査役(臨時委員)
三輪泰史・日本総合研究所創発戦略センターエクスパート
山浦昌浩・全国農業青年クラブ連絡協議会会長(臨時委員)
柚木茂夫・全国農業会議所専務理事
吉高まり・三菱UFJリサーチ&コンサルティング プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト
(五十音順、敬称略)
重要な記事
最新の記事
-
5年ぶりの収穫祭 家族連れでにぎわう 日本農業実践学園2024年11月25日
-
鳥インフル 米イリノイ州、ハワイ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月25日
-
卓球世界ユース選手権 日本代表を「ニッポンの食」でサポート JA全農2024年11月25日
-
佐賀県産「和牛とお米のフェア」みのる食堂三越銀座店で開催 JA全農2024年11月25日
-
JA全農×農林中金「酪農・和牛の魅力発信にっぽん応援マルシェ」新宿ルミネで開催2024年11月25日
-
EXILE NESMITH監修 くまもと黒毛和牛『和王』の特別メニュー提供 JA全農2024年11月25日
-
「第1回全国冷凍野菜アワード」最高金賞のJAめむろなど表彰2024年11月25日
-
「熊本県産和牛とお米のフェア」大阪の直営3店舗で12月1日から開催 JA全農2024年11月25日
-
都市農業・農地の現状と課題 練馬の野菜農家を学生が現地調査 成蹊大学2024年11月25日
-
食育イベント「つながる~Farm to Table~」に協賛 JQA2024年11月25日
-
薩州開拓農協と協業 畜産ICT活用で経営の可視化・営農指導の高度化へ デザミス2024年11月25日
-
「ノウフクの日」制定記念イベント 東京・渋谷で開催 日本農福連携協会2024年11月25日
-
省スペースで「豆苗」再生栽培「突っ張り棒」とコラボ商品発売 村上農園2024年11月25日
-
在ベトナム農業資材販売会社へ出資 住商アグロインターナショナル2024年11月25日
-
楽粒の省力検証 水稲除草剤の散布時間の比較 最大83%の時間削減も 北興化学工業2024年11月25日
-
【人事異動】北興化学工業株式会社(12月1日付)2024年11月25日
-
幼稚園・保育園など996施設に「よみきかせ絵本」寄贈 コープみらい2024年11月25日
-
平田牧場×福光屋 幻の豚「金華豚」と大吟醸酒粕の味噌漬を新発売2024年11月25日
-
生活クラブの宅配サービス「シンプルスタイル大賞2024」SDGs部門で特別賞2024年11月25日
-
水辺と緑の公園で「子育てフェスタ」30日に開催 パルシステム千葉2024年11月25日