法人経営の大型化進む 構造変化への対応が急務 家族経営も担い手に 基本法検証部会2022年11月28日
農水省は11月25日、第4回の食料・農業・農村政策審議会基本法(基本法)検証部会を開き、人口減少下での担い手確保の見直しについて有識者ヒアリングを行った。法人人経営に期待する意見が多かったものの、農地の集積や労働力確保、生産コストの削減、価格対策など、日本農業の根本的な構造にかかわる多くの課題が指摘された。中でも国内における地域ごとに異なる農業構造変化と農業形態のあり方が、新しい視点として提起された。
担い手についてヒアリングする基本法検証部会
現行の基本法は、「専ら農業を営む者や経営意欲のある者の経営展開の重要性に鑑み、経営の発展や円滑な経営継承を支え、家族経営者の活性化を図ると共に法人化を推進」(基本法22条)となっており、農業の担い手として法人経営への期待を示している。
しかし、現基本法制定から20年余り経ち、農業の就業構造は大きく変わった。今や65歳以上の農業者が4割以上を占め、主たる担い手である昭和1桁世代がリタイア。一方で減少する経営体の農地は農業法人が引き受けて、一定の規模拡大が進んでいるが、財務基盤や収益性は他産業と比べて脆弱で、売り上げが下落したときなど赤字に陥り易いなどの問題が生じている。
農業経営の法人化については、旧農業基本法(1961年)制定当時は、専業農家を中心とする個人事業主を想定しており、法人化については積極的に担い手としての位置づけはなかった。しかし、その後、専業農家の減少に伴って、農地を集積し規模拡大する法人経営が増えた。
今回の検証部会では、ヒアリングに先立ち、中央大学経済学部の江川章准教授が2020年の農林業センサスをもとに、日本農業の構造変化を分析。「販売農家の減少や農業労働力の高齢化という農業の脆弱化の局面と借入耕地面積率の向上という構造再編の局面が地域差を伴いながら見られる」と分析。
農業経営体と農地の減少はほぼ全国共通しているが、農業経営体の減少率が経営耕地面積の減少率より大きい北陸・東海・北海道などでは、農業縮小局面での構造改革が進みつつある。一方、経営耕地面積の減少が加速傾向にある中で、借入耕地面積は増加傾向にあり、1経営体当たりの経営耕地面積は増加しており、2020年で北海道30.2haとEUと肩を並べるまでになった。都道県は2.2ha。北陸・東海の借入農地面積は50%を超える。
こうした状況から江川准教授は、①農業の縮小局面での構造再編の進行(東高西低の地域間格差)、②個人経営体の減少と団体経営体の増加(個人経営体の急速な規模縮小、法人化の進展)、③大規模経営体による農地集積(北海道100ha、都府県10haが分解基軸)と分析する。
ヒアリングでは、JA全中の中家徹会長が「高齢化が進むなかで、認定農業者だけで生産の太宗を担うのではなく、新規就農や親元就農など多様な経営形態の役割も(基本法に)明記すべきだ」と、認定農業者の位置づけについて注文した。
また、地域と法人を含む主業農家の関係について、全国農業会議所の柚木茂夫専務は「集落機能の維持が難しくなっているなかで、労働力の不足など、経営体のリスクを地域で補完する仕組みが必要。その視点で集落営農のあり方の検討を」と、担い手と農業集落維持の両立が必要との考えを示した。
福山市立大学の清原昭子教授は、「農地の減少をみると、西日本では農業はなくなってしまう。しかし、岡山県などでは果実で成功している農家が多い」と多様な農業形態の価値を強調。また法人と個人経営について、(株)日本総合研究所の三輪泰史氏は、法人経営の必要性を指摘したうえで、「半数以上を占める家族経営も食料を維持するために欠かせない。両方維持する必要がある」と述べた。
基本法検証部会では、実際に新潟県上越市を拠点に全国で300haほどの農場を持つ(有)穂海農耕の丸太洋代表取締が経営状況を報告し、そのなかで大規模化に伴う課題として労働力の確保を挙げ、「給与面で他産業に太刀打ちできないため、労働力の確保は困難さを増している」として、定年退職者や外国人労働時間枠の拡大などを訴えた。
全国農業青年クラブ連絡協議会の山浦昌浩会長は「葉物の大規模生産は外国人の労働力がなくては成り立たない。60~70人のパートタイマ―を使っているが、最低賃金の上昇は経営を圧迫する」と、労働力確保に伴う大規模経営の苦境を訴えた。
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