バイテク農業 現場から農業者が発信 日本バイオ作物ネットワーク設立2023年6月7日
生産現場の農業者自身がバイオテクノロジー農業など先端技術の有用性を議論、発信し、将来にわたる持続可能な食料生産を実現しようと4月20日、日本バイオ作物ネットワーク(JBCN)が発足した。同ネットワークは各国の農家とつながりを持ち、世界の最新技術の動向もふまえて日本農業の新たな展望を拓くことをめざす。理事長に就任した鳥取県の農業法人、トゥリーアンドノーフ(株)の徳本修一代表取締役を訪ねた。
徳本修一さん
地域を担う大規模経営
田植えシーズンを迎えた5月中旬、鳥取市気高町にあるトゥリーアンドノーフの水田を訪ねると、大型機械による湛水直播作業が行われていた。直播用にコーティングされた種子を8条の機械で播き、同時に肥料と除草剤も散布する。GPSも付いており、機械はかなりの速度で進む。「30аの播種を30分で終了します」と徳本さん。
同社は今年度、水稲65ha、大豆5ha、小豆7ha、デントコーン3ha、ソバ15haの計95haを作付ける。田んぼの枚数は400枚。20集落に点在する。作業は4月末のデントコーンの播種に始まり、5月から8月にかけて、水稲、大豆、小豆、ソバの播種と続く。
水稲は飼料用品種のみで「夢あおば」と「みなちから」を栽培。SGS(ソフトグレインサイレージ)用に鳥取県畜産農協にモミのままフレコン出荷するほか、WCS(ホークロップサイレージ)は刈り取り作業を委託、県内の畜産農家が利用している。
そのほかの品目も地元を基本に結びつきができている。大豆はJA鳥取いなばに出荷、ソバは地元のソバ加工場へ販売、今年から作付けする小豆は岡山県内の卸が全量買い付けることになっている。
会社の設立は2012年。東京でITベンチャー企業の役員だった徳本さんはもともとは有機露地野菜の大規模栽培をめざしたUターンし2haから始めた。20haまで拡大したが安定した栽培は実現しなかった。ここは曇天や長雨も多い湿田地帯。「東京で考えていたのとは全く違う景色」であることに気づき、4年前、水田をベースにした土地利用型農業の大規模経営へと大きく方向転換を図る。
現在、社員4名、アルバイト3名。水稲中心に転換して以来、高齢農家などから依頼が増え、毎年、20haづつ経営面積は増えてきた。将来は鳥取市内約3000haのうち1000haの農地集積も計画している。
作業見直し合理化徹底
湛水直播の様子
そのため必要最小限の装備で徹底的に作業を見直しムダを省くことを心がける。田植えをやめたのもその一つだ。田植えにともなう大量の苗の運搬作業を社員にさせたくないとの思いもあって、湛水直播への転換を決め、2年前から実装するための試験を続けてきた。それも条件の悪いほ場で苗立ちや収量などをテストし、十分な手応えを得て全面的に導入した。
そのほか収量を確保するための品種選定、播種前の耕うん、代かきなどの作業回数も見直した。
社員には今年4月採用が3人いる。一つ一つの作業の目的を明確に教えることを心がけ、営農管理アプリを導入し、現場で作業記録を入力させている。そうした記録から投下労働時間と収量などを計算し経営改善を図る。
「データを起点に意思決定しなければ強いチームに育たない」と徳本さんは言う。めざすのは大規模な水田農業経営で地域の農地を守り、適地適産でしっかりと食料生産を持続していくこと。社内のミーティングでは、「わくわくするような世界の農業の動き」や自分たちのミッションとは何かも話題する。地元にとどまって農業に意欲を持つ若い社員に自分たちの仕事の意義を感じてもらいたいからだ。
新入社員の北村尚哉さん。土木関係の仕事から転職。機械を自在に操作し作業をこなしていた。
科学的な視点で農業進化
こうして大規模経営をめざすなかで必要性を痛感したのが、遺伝子組み換えやゲノム編集といったバイオテクノロジーなど新しい技術について生産現場の農業者が理解する科学的な視点だ。
今回の日本バイオ作物ネットワーク(JBCN)設立のきっかけになったのは世界の先進的な農家で構成するグローバル・ファーマー・ネットワークの総会への参加だった。今年2月、20数か国から60人の農家が集まった会合に招待され、より環境負荷の少ない方法でいかに農業生産性を上げるか、世界共通のテーマを農業者が話し合い世界に発信した。
印象に残ったのは世界では干ばつと土壌劣化に苦しみ、それが保湿のため不耕起栽培の取り組みにつながっていることだった。一方で日本の水の豊かな水田の価値を実感したという。
その水田農業の持続性と生産性をいかに上げるか。世界の農業者とダイレクトにつながりながら、バイオテクノロジー農業の重要性を日本でも議論しようと同ネットワークを立ち上げた。
徳本さんは「実践的な議論をするプラットフォームに育てていきたい」と話している。
同ネットワークは第1回のオンラインミーティングを6月24日(土)に開く。テーマは「世界の不耕起農業の最前線」。南米の農家が講演する。
重要な記事
最新の記事
-
路線バスを使おう【消費者の目・花ちゃん】2025年1月11日
-
シンとんぼ(124) -改正食料・農業・農村基本法(10)-2025年1月11日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (41) 【防除学習帖】第280回2025年1月11日
-
農薬の正しい使い方(14)【今さら聞けない営農情報】第280回2025年1月11日
-
R・ケネディ・ジュニア氏が米国農務省長官顧問に指名された意味(2) 国際ジャーナリスト 堤未果氏2025年1月10日
-
鳥インフル 愛知県で続発22、23、24例目2025年1月10日
-
農地面積 1.1万ha減 目標面積下回る 2023年2025年1月10日
-
米価の見通し「高くなる」判断 過去最高値の「76」 米穀機構2025年1月10日
-
今年の一文字は「進」 山野JA全中会長2025年1月10日
-
(417)100年の流れ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年1月10日
-
JA貯金残高 108兆6262億円 11月末 農林中金2025年1月10日
-
鳥インフル 米イリノイ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月10日
-
高校生が和牛飼育の取り組み競う「第8回和牛甲子園」16日から開催 JA全農2025年1月10日
-
愛知県産バラで新年を祝う「新春 バラ花束25%OFFキャンペーン」開催中 JAタウン2025年1月10日
-
「博多あまおう」5%OFF「あけおめ!あまおめ!新春セール」開催 JAタウン2025年1月10日
-
本日10日は「魚の日」福島県常磐沖産ひらめ漬け丼など特別価格で販売 JAタウン2025年1月10日
-
濃厚な甘さと豊かな香り「岐阜県産いちご『濃姫』フェア」12日から開催 JA全農2025年1月10日
-
焼き芋やスイーツを堪能「三島甘藷祭り」JA直売所などで開催 JAふじ伊豆2025年1月10日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施中 JA全農2025年1月10日
-
ホスピス在宅「ビーズの家」運営のbeadsへ出資 農林中金キャピタル2025年1月10日