新たな農村の価値求めて どうなるこれからの「集落」 中山間地域フォーラムがシンポ2023年7月11日
NPO法人・中山間地域フォーラム(生源寺眞一会長)は7月8日、東京都内で「ポストコロナ期の集落の未来」をテーマにシンポジウムを開き、中山間地域の集落の今日的機能や継承のあり方、未来展望などについて、講演と現地報告、意見交換を行った。コロナ禍で中止が続き、4年ぶりの開催。約150人が参加した。
講演する生源寺会長
シンポジウムでは生源寺会長が、中山間地域の現代的な価値について、「抽象的な概念や経済価値としての理解ではなく、具体的な歴史との出会いや地域ならではの後世への共感が大事だ」と、農業の多面的機能を経済的価値だけに結びつける考えに疑問を投げかけた。
その一つとして農業用水の維持管理や公平な用水配分のためのルール、農道や公民館の維持の共同管理などのコモンズ(共同利用)を日本の文化的遺産として挙げる。
150人が参加し、講演と現地報告、意見交換を行った
また農業の多面的機能だけでなく、「農業自体の価値を再認識することも大切」と指摘。つまり、人間の思い通りにならない生き物を相手にする農業の難しさ・おもしろさ・達成感など、「自ら育ちゆくものを育てる点で、教育にも通じるのが農業の本質」と問題提起した。
今日、中山間地域の人口減少が大きな問題になっているが、徳島大学の田口太郎准教授は、「人口という統計的思考から脱するべきだ」と指摘する。人口減少で「できなくなる」が問題であって、人口が減少しても「できる」が維持できれば問題ないという。
ライフスタイルの多様化、交通の利便性の向上で都市と農村は近くなり、何らかの形で農村に関係を持つ人が増えており、この「関係人口」との「協働」を考える必要がある。一方、ICTを活用して地域や農地の適正管理、管理空間の戦略的縮小、粗放的土地管理などで、「地域としての縮小戦略」も視野に入れる必要がある。
田園回帰で農村に移り住んだ人が、最初にぶつかるのが集落との付き合い。京都府南丹市に拠点を置くNPO法人テダス事務局長の田畑昇悟氏は「集落の教科書」作りを報告。集落で暮らすための村のルール、習慣、生活、魅力などを記したガイドブックで、コンセプトは「良いこともそうでないこともちゃんと伝えたい」とした。
農村に移住したときのあいさつに始まり、葬式の習慣、神社やお寺の付き合い、ムラの行事などで、その数200項目を超える。一方で、教科書をつくるにあたり、集落の決まりの見直し(棚卸し)も行った。ホタルの産卵時期を避けて川の草刈り時期を遅らせたり、除草剤使用の取り決めを作ったり、女性限定のお手伝い委員の廃止、世帯1票から一人1票制の導入などがある。「現状の可視化、話し合いの機会づくり、他の集落を知る機会につながるなど、教科書づくりを通じて、話し合いが活発になり集落の機能を見直す機会になった」と田畑氏はいう。
地方自治体からは長野県松川町と高知県が報告した。松川町産業観光課の宮島公香さんは、人・農地プランの取り組みや、環境保全型農業の推進・学校給食への有機農産物の提供、遊休農地対策などを通じて話し合いの機会が生まれ「今まで課題だったことの解決につながる活動が生まれている」と報告した。
また、高知県は集落の実態を知るため令和3(2021)年、20世帯未満の集落を対象に集落実態調査を実施した。それによると19世帯以下の世帯が増え、小規模集落ほど高齢化率が高い。このため、10年前に比べ地域活動への参加者が減少し、生活物資の確保や移動手段など、日常生活に不便をきたしている実態が浮き彫りになった。
このため同県では旧小学校や集会場を拠点にした集落活動センターを設け、地域外の人材などを活用しながら集落の維持、再生に向けた取り組みを行っている。これを小さな集落活性化事業として展開。同県中山間地域対策課課長の安藤優さんは「10年間取り組んできて、その効果・評価は高く、引き続き中山間地域対策の柱として進め、県全体の集落の活性化を加速させたい」と報告した。
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