水戸市で農をテーマにした美術展 ミレーや小川芋銭の作品など紹介 9月2日まで2023年8月2日
水戸市で開催中の農をテーマにした美術展(茨城県立近代美術館で)
茨城県は全国有数の農業県。農業産出額は全国第三位だ。メロンやレンコン、白菜、ミズナ、栗などは全国一の生産量を誇っている。美術作品には昔から、農作業をする人々の姿が描かれてきた。19世紀のヨーロッパでは、現実をありのままに描く自然主義芸術のモチーフとして、また産業革命後には、都会人を癒す風景として田園や農民がクローズアップされた。画家たちは、とりわけ働く農婦の姿に労働の尊さと健康的な美を見出し、描く対象としてきた。一方で、農村における貧困や農民運動などの問題をテーマとする画家たちも登場する。
県都水戸市にある県立近代美術館には、農業にまつわる作品や作家が多い。そこで企画されたのが「土とともに美術にみる《農》の世界」。命と食に直結する農をめぐる作品を5つのジャンルに分け、多彩な農のイメージが紹介されている。これまで、国内では農をテーマとした美術展はあまり開かれてこなかったので、農に関わる人にとっては格別の展覧会だ。
会場に入るとすぐにミレーの「落穂ひろい」や「種まく人」が目に飛び込んでくる。第1章は「田園風景の発見 フランスと日本」。「種まく人」は岩波書店のロゴマークとして知られている。ピサロの「立ち話」、ミレー、ゴッホの「座る農婦」など、眼前の自然をありのままに描く風景画が並ぶ。農作業や家事・育児に励む女性たちの健康美とともに、勤労の尊さを伝えている。画家たちは筆を持って郊外に出かけ、働く農民を描いた。
一方、明治期に洋画を学んだ浅井忠らは、西欧の写実的な技法を学び、自国の自然と農村風景に目を向けていった。ここには浅井の「農家室内」、「藁屋根」などが展示され、失われたこの時代の農村の風景を見ることができる。
第2章は「ふるさとへの想い わが愛しき農村」。大正期以降の日本絵画に現れた故郷への愛着が感じられる。ここで圧倒的なのは小川芋銭。展示されている「畑のお化け」や「霞ヶ浦」、「春野」などで、芋銭のほのぼのとした理想郷としての農村風景が見られる。芋銭は牛久沼のほとりで農業に従事しながら制作を続け、河童の絵を得意とした。「芋銭」という号は、描いた絵で芋を買えるくらいになればという意味を持つ。
第3章「畑のマリア モデルとしての農婦と子」に続く第4章は「現実と抵抗と はたらく農民への共感」。農民の厳しい現実に関心と共感を寄せた作家たちの作品が取り上げられている。
明治以降、農村では地主層が台頭するのに伴い、地主と小作人が衝突する小作争議が各地で頻発した。第一次世界大戦後に小作争議はピークを迎える。戦後は食糧難や農村の貧困が社会問題となった。昭和の戦前期、鈴木賢二、上野誠らは農民をモデルにした彫刻や木版画を発表した。
戦後、農地改革により地主層は消滅したが、高率の税負担や米軍基地拡張による農地接収などのひずみは、各地で再び激しい農民運動を引き起こした。茨城、栃木では、農民の厳しい現実に共感した作家たちが社会問題を版画で伝え、市民に版画を広める「戦後版画運動」が盛んだった。この章では、鈴木、上野の作品の他、新居広治、飯野農夫也、滝平二郎らの作品が並び、農村の貧困を問うている。飯野の作品には、長塚節の「土」を演劇にした時のポスターと長塚の肖像画も含まれている。
終章は「アートの土壌としての農」。現代を生きるアーティストたちと農との関係がテーマ。種苗農家に生まれた草間彌生は、畑の植物や種子をモチーフに絵画の上で永遠の生命のテーマを奏でる。常陸大宮市でコメを作りながら油絵を描く野沢二郎、守谷市で有機農業をしながら版画を制作する大森薫子は、大地に息づく植物や動物の生命感を作品に反映させている。彼らのアトリエは田畑に囲まれ、まさに「土」とともにある。
本作品展には111点の作品が展示されており、水戸市千波町東久保の茨城県立近代美術館(電話029-243-5111)で9月2日まで開かれている。
(客員編集委員 先﨑千尋)
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米、稲WCSへの十分な支援を JAグループ2025年10月16日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】本質的議論を急がないと国民の農と食が守れない ~農や地域の「集約化」は将来推計の前提を履き違えた暴論 ~生産者と消費者の歩み寄りでは解決しないギャップを埋めるのこそが政策2025年10月16日
-
死亡野鳥の陰性を確認 高病原性鳥インフル2025年10月16日
-
戦前戦後の髪型の変化と床屋、パーマ屋さん【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第360回2025年10月16日
-
「国消国産の日」にマルシェ開催 全国各地の旬の農産物・加工品が集合 JA共済連2025年10月16日
-
静岡のメロンや三ヶ日みかんなど約170点以上が「お客様送料負担なし」JAタウン2025年10月16日
-
高齢者の安全運転診断車「きずな号」を改訂 最新シミュレーター搭載、コースも充実 JA共済連2025年10月16日
-
安心を形にした体験設計が評価 「JA共済アプリ」が「グッドデザイン賞」受賞 JA共済連2025年10月16日
-
東京都産一級農畜産物の品評会「第54回東京都農業祭」開催 JA全中2025年10月16日
-
JA協同サービスと地域の脱炭素に向けた業務提携契約を締結 三ッ輪ホールディングス2025年10月16日
-
稲わらを石灰処理後に高密度化 CaPPAプロセスを開発 農研機構2025年10月16日
-
ふるさと納税でこども食堂に特産品を届ける「こどもふるさと便」 寄付の使いみちに思いを反映 ネッスー2025年10月16日
-
「NIPPON FOOD SHIFT FES.」に出展へ 井関農機2025年10月16日
-
マルトモが愛媛大学との共同研究結果を学会発表 鰹節がラット脳のSIRT1遺伝子を増加2025年10月16日
-
マックスの誘引結束機「テープナー」用『生分解テープ』がグッドデザイン賞を受賞2025年10月16日
-
北海道芽室町・尾藤農産の雪室熟成じゃがいも「冬熟」グッドデザイン賞受賞2025年10月16日
-
夏イチゴ・花のポット栽培に新たな選択肢「ココカラ」Yタイプ2種を新発売2025年10月16日
-
パルシステムの奨学金制度「2025年度グッドデザイン賞」を受賞2025年10月16日
-
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月16日
-
鳥インフル デンマークからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月16日