自給率を食料安保の核に 農業・農協問題研究所が研究会2023年9月12日
農業・農協問題研究所は9月9日、東京都内で食料・農業・農村基本法の見直しをテーマに研究会を開いた。研究会では田代洋一横浜国大・大妻女子大名誉教授が基本法改正論議の問題点を指摘した。
田代氏(左)と東山氏
農水省の基本法検証部会は答申で「国民一人一人の食料安全保障」を新たな基本法の理念として提起した。
この点について田代氏は「国民一人一人の食料安保」は全食料を輸入しても成り立つと指摘し、超低率の自給率が日本の食料安全保障のアキレス腱であり、自給率向上は食料安全保障の「必要条件」であり、国民一人一人は「十分条件」と位置づけるべきだと強調した。
適正な価格形成の仕組みづくりも新たな農政課題となっているが、農水省が参考にしているエガリム法を制定したフランスでは、農業者報酬の確保に国が直接責任を果たさず業界間取引に委ねるものだいう批判があるという。しかし、それでもフランスでは農業者への直接支払いが前提となっている。
一方、日本では統計調査を活用して生産コストなどのトレンドを算出するという議論があるが、農水省はこの20年間で統計職員を78%削減しており「価格転嫁の基礎固めができるのか」と疑問を投げかける。さらに生産費の価格転嫁だけではなく労働報酬まで農産物価格で補えるのかという問題もある。
田代氏の試算では水田作で5ha未満は農業所得は赤字で全産業賃金と同水準の所得が得られるのは30ha以上の雇用企業型転作経営だと指摘、労働報酬問題は価格転嫁では解決できず、コストのみを価格転嫁しても需要減退、輸入品増を招くとして直接支払い制度で生産者を支えることが必要だと提起した。
また、「多様な農業人材」の位置づけも検証部会では議論になったが、農地保全と集落機能の維持の面での位置づけにとどまっており食料生産の担い手として位置づけられるかはまだ不明であり、一方、現実には規模拡大が進むなか農地は最大の減少率であり、「多様な担い手を増やすことなく食料安全保障の土台としての農地・農村を守れない」として、とくに西日本は担い手確保が主要なテーマとなっていると指摘した。
そのほか農業政策と環境政策の結び目としての水田農業の重要性などを強調した。
研究例会では東山寛北大教授が北海道農業の現状を報告した。
水田地帯で主食からの作付け転換でWCS用稲が増える動きがあるが、肉用牛との耕畜連携づくりや、専用機械の導入費用などの課題があることや、畑作地帯ではゲタ対策の単価引き下げとビートの生産数量引き下げ、酪農では生産抑制を強いられるなか、12月から加工原料用乳価が引き上げられるが、それによって来年度の補給金単価水準への懸念も出ているという。
品目ごとに政策課題があるなか、研究例会では今後、改正基本法の具体化を注視していくことが必要だと強調された。
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