基本法改正しっかり 持続可能な食と農へ【年頭あいさつ 2024】坂本哲志 農林水産大臣2024年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
2024年もJAcom農業協同組合新聞をよろしくお願い申し上げます。
JAcomでは、元日から3日まで、農林水産大臣をはじめJAグループ全国連、農業関連団体のトップなどによる年頭のあいさつを掲載しています。
坂本哲志
農林水産大臣
明けましておめでとうございます。
令和六年の新春を迎え、皆様の御健勝をお祈りいたしますとともに、我が国農林水産業及び農山漁村の一層の発展に向けて所感の一端を申し述べ、年頭の御挨拶とさせていただきます。
農業政策の最も重要な使命は、国民に食料を安定的に供給することです。しかしながら、近年の我が国の食をめぐる情勢は、これまでとは大きく変化しています。
昨今の食料の生産資材価格の高騰は言うまでもなく、気候変動による食料生産の不安定化、世界的な人口増加等に伴う食料争奪の激化などにより、いつでも安価に食料を輸入できるわけではないことが明白となっています。
一方、国内の食料供給基盤に目を向ければ、国内の人口全体が減少局面に転じ、生産者の減少・高齢化も進んでおり、将来にわたって持続可能で強固な食料供給基盤を構築することが急務となっています。
本年は、農政の憲法とも言われる食料・農業・農村基本法が制定から四半世紀という節目の年となる中で、このような情勢の変化を踏まえ基本法が時代にふさわしいものとなるよう、三つの観点から見直しを行います。
第一に、食料安全保障の抜本的な強化として、食料安全保障を基本法の柱として位置付け、国内農業生産の増大を基本とする食料安定供給の基本的な考え方を堅持した上で、輸出の促進、輸入の安定確保、適正な価格形成を促す視点等を位置付けます。
第二に、食料供給が環境に負荷を与えている側面にも着目し、環境と調和のとれた食料システムの確立を柱として位置付けます。
第三に、人口減少下における農業生産の維持・発展と地域コミュニティの維持として、担い手と多様な農業人材による農地の確保、農業法人の経営基盤の強化、スマート農業技術の開発、サービス事業体の育成による産業の振興等を位置付けます。
以上を踏まえ、基本法の改正案を本年の通常国会に提出するべく万全の準備を進めてまいります。
こうした基本法改正案の通常国会への提出と基本法の改正内容を実現するために必要な具体的な施策については、「食料・農業・農村政策の新たな展開方向に基づく施策の工程表」として昨年末に取りまとめたところです。
本年の通常国会に向けては、基本法改正と併せて、不測時の食料安全保障の強化のための新たな法的枠組みの創設、農地の総量確保と適正・有効利用に向けた農地法制の見直し、スマート農業を振興する新たな法的枠組みの創設、食品原材料の調達安定化を促進するための新たな金融・税制措置の整備を実現するための法案の提出を目指してまいります。
以下、本年における農林水産行政の主な課題と取組の方針について申し述べます。
【食料安全保障】
昨年末に改訂された「食料安全保障強化政策大綱」に基づく施策を着実に実行し、食料安全保障の更なる強化に向けた構造転換を図ってまいります。
また、不測時の食料安全保障の強化を図るため、政府一体となって食料供給確保の措置を実施できるよう、政府対策本部の設置を始め、国民生活・国民経済への影響の程度に応じ、早期に必要な措置を講ずることができる枠組みの創設を目指します。
【農林水産物・食品の輸出促進】
国内市場の縮小が見込まれる中、農林漁業・食品産業の持続的な発展を図るためにも、拡大する世界の食市場を獲得する農林水産物・食品の輸出促進が不可欠です。そこで、オールジャパンの輸出力強化として、輸出産地の形成や輸出向けHACCP等対応施設の整備、品目団体の取組や輸出支援プラットフォームの活動強化、優良品種の海外流出防止のための知的財産の保護・活用の強化などを推進してまいります。こうした取組を通じて、二〇三〇年の輸出額五兆円目標の達成を図ってまいります。
【みどりの食料システム戦略の推進】
食料の安定供給のためには、環境への負荷を低減し、生産の持続性を高める必要があります。このため、みどりの食料システム法に基づく生産者・事業者認定の全国展開を進め、化学肥料・化学農薬の使用低減や有機農業の拡大、生産者の環境負荷低減の取組の見える化、J―クレジット制度活用の推進、補助金の支給要件として一定の環境負荷低減の取組を求めるクロスコンプライアンスの導入等、「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた施策を着実に実施し、将来にわたり持続可能な食料システムの確立を図ってまいります。
【スマート農林水産業の推進】
労働力不足の解消や生産性向上等を実現するため、スマート農林水産業の実装や農林水産業のデジタルトランスフォーメーションを加速化する必要があります。特に、生産性の高い農業の実現に向け、スマート農業技術等の研究開発・実用化や、経営、技術等でサポートする事業体の育成・確保を推進するとともに、スマート農業技術の活用とこれに適合するための生産・流通・販売方式の見直しを税制・金融等で後押しする法制度の整備を目指します。
【人・農地】
人口減少に伴い農業者の減少が避けられない中で、将来にわたり持続的な食料供給を維持していくためには、新規就農の促進などにより食料供給を担う者の確保を図りつつ、それでもなお少ない人数となった場合に備え、これに対応可能な生産基盤に転換する必要があります。このため、農地の受け皿となる経営体や付加価値向上を目指す経営体を効率的かつ安定的な経営体として育成・確保するほか、食料の生産基盤である農地を確保し、地域で適切に利用されるよう、将来の農地利用の姿を示した地域計画を定め、農地の集約化等を進めるとともに、地域の農地の計画的な保全、適切な利用も一体的に進めてまいります。
さらに、農地の総量確保と適正利用のための措置を強化するとともに、人と農地の受け皿となる農地所有適格法人の経営基盤強化措置として、農業者以外の食品事業者等の出資割合を拡充するなどの措置を講じるなど、農地法制の見直しを目指してまいります。
【主要な生産対策】
米政策については、需要に応じた生産、販売を着実に推進していくため、国産需要のある麦・大豆や飼料作物、米粉用米・新市場開拓用米、加工・業務用野菜などへの転換や畑地化を進め、産地として定着させる取組への支援を行ってまいります。
畜産・酪農については、耕畜連携による国産飼料の生産・利用の拡大を進めるとともに、和牛肉の国内外の需要拡大や生乳の需給改善に向けた取組を推進してまいります。
また、畜種ごとの経営安定対策や金融支援などの各種施策を総合的に講じ、生産者の経営改善に向けた取組への支援を行ってまいります。
【農業生産の基盤の整備及び保全】
農業生産活動を継続していくためには、農地や農業水利施設などの農業・農村の基盤整備が欠かせません。農業の生産性向上や農村地域の防災・減災、国土強靱化を実現するため、農地の大区画化や汎用化・畑地化、農業水利施設の長寿命化やため池等の豪雨・地震対策、ICT技術の導入等を推進するとともに、農村人口の減少下にあっても営農や農業水利施設等の保全管理が適切に行われるよう、土地改良区の運営基盤の強化も含め、土地改良制度の検討を進めてまいります。
【家畜防疫】
昨年十一月以降、国内で高病原性鳥インフルエンザが発生しています。全国どこで発生してもおかしくない状況であり、最大限の警戒をお願いいたします。また、高病原性鳥インフルエンザだけでなく、豚熱やアフリカ豚熱などの家畜伝染病についても、関係者と危機感を共有し、飼養衛生管理の徹底を基本とした発生予防・まん延防止対策と水際での侵入防止対策に都道府県等と連携して全力で取り組んでまいります。
【食品産業・食品流通】
持続的な発展を図るため、産地・食品産業が連携した国産原材料の安定調達、フードテックなど新技術の活用等による新たな需要の開拓、環境負荷低減や人権に配慮した原材料調達等を推進してまいります。
また、適正な価格形成に向けた検討を進めるとともに、円滑な食品アクセスの確保を図るため、二〇二四年問題に対応した中継共同物流拠点の整備等を進めるほか、中山間地域等でのラストワンマイル配送に向けた取組など、関係省庁と連携して進めてまいります。
さらに、食品原材料の調達コストが上昇・高止まりする中、食品原材料の調達安定化を促進するため、金融・税制上の支援措置を講ずる法制度の整備を目指します。
【農村の振興】
農村を支える人材を一人でも多く確保し、活力ある農村を次世代に継承していくため、日本型直接支払により地域を下支えしつつ、中山間地域におけるICTなどデジタル技術の活用、農泊・六次産業化・農福連携等の農山漁村発イノベーションの取組、農村RMOの形成、棚田地域の振興、中山間地域等における農用地保全の取組などを推進するほか、鳥獣被害の防止やジビエの利活用を進めてまいります。
【森林・林業】
森林・林業政策については、二〇五〇年カーボンニュートラル等の実現に向け、路網や加工施設の整備、製材・CLTを用いた建築物の低コスト化等を通じた木材の需要拡大、担い手の育成など、川上から川下までの取組を総合的に進めてまいります。あわせて、森林整備や治山対策にしっかりと取り組むことにより、森林吸収源の機能強化と国土強靱化を進めてまいります。さらに、昨年十月に取りまとめられた「花粉症対策初期集中対応パッケージ」に基づき、人口の多い都市部周辺などのスギ人工林伐採重点区域におけるスギ人工林の伐採・植替えの加速化など、花粉症対策を着実に実行してまいります。
【水産】
水産政策については、まずは、ALPS処理水放出を受けた一部の国・地域による科学的根拠なき輸入規制の撤廃を求めていくとともに、昨年九月に策定した水産業を守る政策パッケージ等に基づき、影響を受ける水産物の国内の需要拡大や新たな輸出先の開拓、国内加工体制の強化等を着実に進めるなど水産事業者に寄り添った対策の実施に引き続き万全を尽くしてまいります。
また、水産資源管理を着実に実施するとともに、クロマグロ漁獲管理を強化する法制度の整備や漁業経営安定対策を講じ、新たな操業形態への転換、輸出拡大等、水産業の成長産業化を実現してまいります。
あわせて、水産分野においても高性能漁船の導入など、カーボンニュートラルの実現に向けた取組を進めるととともに、漁村の活性化に向けて地域資源等を活用する海業の振興等を推進してまいります。
【東日本大震災からの復興】
東日本大震災から、まもなく十三年が経過します。復旧事業により、津波被災農地や水産加工施設などのインフラ復旧は相当程度進展しましたが、原子力災害被災地域では、営農再開や水産業・林業の再生、風評払拭等、まだまだ取り組むべき課題があります。引き続き、被災された農林漁業者の方々が再び立ち直るための万全の支援を行ってまいります。
以上、年頭に当たり、農林水産行政の今後の展開方向について、私の基本的な考え方を申し述べました。国民の皆様の豊かな食生活とそれを支える美しく活力ある農山漁村を次世代に引き継ぐため、農業政策の大きな転換点に立っているとの自覚を持ち、食料安全保障の確保に向けた改革元年として、基本法の改正と関連施策の実現に全力を尽くす一年にしてまいります。
本年も、農林水産行政に対する皆様の御支援と御協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。
令和六年一月
農林水産大臣 坂本 哲志
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