【3.11から13年】復興にはほど遠い福島 緊急事態宣言の解除はいつに? 2024年3月13日
東日本大震災から今年で13年。東京電力福島第一原発事故に伴う避難者はまだ約3万人近く、復興には程遠い。客員編集委員の先﨑千尋氏に福島の現状について寄稿してもらった。
「福島の原子力災害被災地域において、復興に向けた取り組みが着実に進んでいる」。「引き続き、福島の本格的な復興・再生、東北の復興に、全力を尽くす」。東日本大震災の教訓を風化させずに「能登半島地震をはじめとする自然災害への対応に生かし、災害に強い国づくりを進めていく」。今月11日に、福島県主催の東日本大震災追悼復興祈念式に出席した岸田文雄首相の式辞から引いた。なんと白々しいことよ。読むのが恥ずかしい。
東日本大震災から13年になる。東京電力福島第一原発事故に伴う避難者はまだ約3万人近くもあり、現地からの報告を見ても、復興には程遠い。第一、原発事故後に出された緊急事態宣言はまだ解除されていないではないか。帰還困難区域は福島県内で7市町村あり、原発事故で被災した同県12市町村の人口もばらつきはあるが、事故前の約6割。若い人は少なく、除染など原発事故関連の人が多いとも聞いている。
私の友人は原発関係の会社に勤め、定年後に原発近くの富岡町に居を構えたが、現在は須賀川市に住み、前の家は最近取り壊したという。また飯舘村で事故前に農業を始めた役場職員上がりの篤農家は、現在福島市で農業を続けている。13年も経てば、生活の基盤は移住先にあり、簡単には戻れない。
昨年には、漁業者などの反対を押し切って、いつ終わるのか分からない原発汚染水の海洋排出が始まった。中国によるホタテなどの輸入停止は、福島だけでなく、全国の漁業者を圧迫し、福島の復興、再生に影を落としている。私はこの水は放射性物質が完全に除去されていない、クリーンではないので、処理水と言わず、汚染水と呼んでいる。しかし、最近になってこの表現を使ったある食品流通関係の会社が代表者を辞めさせたという報道に接し、唖然としている。汚染水のもととなっている原発内の溶け落ちた核燃料「燃料デブリ」は、当初は2021年に取り出しを始めると東電は言っていた。しかし高い放射線量に阻まれ、いまだに耳かき1杯分も取り出せていない。
原発事故の爪痕は農業面で今もなお大きい。福島県の生産農業所得は震災前の1047億円(2010年)から717億円(22年)に落ち込んでいる。23年の同県内の水稲作付面積は震災前の24%、原発被災地域を含む相双地域の牛の飼養頭数は26%にとどまる。テレビで見た原発近くの家では、事故当時に干した衣類がそのままの状態で残っている。飼っていた牛が餓死し、骨が散らばっている。目をそむけたくなる光景だ。
東日本大震災の教訓を生かしていない能登半島地震
まだ福島事故の傷が癒えない中で1月1日に能登半島地震が起きた。地震調査研究推進本部(文科省管轄)が公表している「全国地震動予測地図(ハザードマップ)」(2020年)では、能登地域では今後30年以内にマグニチュード6.5以上の揺れが起きる確率は0.1~0.3%未満とされていた。石川県はこの長期評価をもとに、確率が低いことをPRして企業誘致していた。しかし今度の地震の震源地・珠洲市付近では2021年ごろから地震が頻発していた。「想定外」だとは言えないのだが、その兆候は無視された。
その震源地付近には、1970年代後半に、北陸電力が関西電力と中部電力の協力を得て、1000万kwの原発を作ろうとする計画があった。珠洲の住民はこれに強固に反対し、2003年に北陸電力は計画の凍結を表明した。反対運動がなく、この珠洲原発が稼働していたらどうなっていたか。考えるだけでも恐ろしい事態になっていたに違いない。
私は本紙2月20日号の「原発に『想定外』は許されるのか」で、地震はいつどこで、その程度の地震が起きるのか、予測できないと書いた。これは私の独断ではなく、地震学会の公式見解であり、多くの地震学の専門家はそう言っている。地震は今後も「考えてもいなかった場所で、考えてもいなかった規模、考えてもいなかった起こり方をする」。発生確率が低い地域でも、大規模な地震が起きることが能登半島地震で証明されたのだ。
能登半島地震の被害状況やその後の国、県、市町村の対応を報道で見ていると、避難所の運営や生活物資の提供、医療、ボランティアの受け入れなど、あらゆる面で東日本大震災の教訓を生かしているとは到底思えない。輪島市の避難所では1人当りたった1畳分のスペースで雑魚寝。自家用車やビニールハウスでの生活。岸田首相の式辞が白々しいゆえんだ。福島の緊急事態宣言の解除はいつになるのだろうか。
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