適正な価格形成 対象品目は関係者の合意で決定 「コスト指標」づくりが課題2024年9月2日
改正食料・農業・農村基本法に盛り込まれた「食料の合理的な価格形成」の実現に向けて農水省は2025年中に法制化をめざしている。その仕組みづくりのために昨年夏から、生産から食品製造、流通、消費までの関係者が参加する「適正な価格形成に関する協議会」を設置して議論してきた。生産から流通までのコストが考慮された価格が形成されるよう品目ごとの実態調査に基づく「コスト指標」づくりが課題となっている。
協議会ではこれまでの議論で流通や小売、消費者から、生産資材費や電力代などの上昇などの事情は理解できるとの考えが示されるとともに、コストを指標化、見える化する必要があるとの意見が出されている。コストの指標化は危機的状況にある食料生産についての消費者が理解することにつながる可能性もあるとの意見も出ている。
ただ、個々の生産者や製造業者のコストは企業秘密であることから、第三者の関係団体が一定のまとまりがある産地での同じ品目のコストをまとめて把握することが現実的だとされている。流通、小売といった段階ごとのコスト把握も関係団体が把握する方向となっている。
農水省はコスト構造を把握するため、3月から米(7産地・銘柄)、青果物(11品目・24道県程度)、鶏卵(大規模・中小規模の養鶏業者)、飲用牛乳(大手・中小の乳業メーカーなど)などで実態調査を行っている。
さらに流通各段階の取引価格も調査し、最終的な小売価格に各段階の価格がどんな水準で反映されているかも把握する。
合理的な費用を考慮した価格形成のためには、こうしたサプライチェーン全体でのコストの把握と「見える化」が第一歩となる。
そのうえで「コストを考慮した取引」が必要となる。コストを考慮した取引といってもコストすべてが価格に反映されるわけではなく、価格形成の際に「考慮されるべき費用」として「コスト指標」を作成することが検討されている。
コスト指標を各品目でどう作成するかはこれからの議論となるが、国が示すわけではなく品目ごとに関係者が集まった団体で検討し合意する。コスト指標はコスト調査の結果や、公的統計、業界の独自調査などを活用して作成する。
そのコスト指標が上がった場合、生産者など売り手がその水準や要因などを説明し、小売業者など買い手との間で速やかに価格交渉が行われて価格が改定されるという姿を農水省は描く。需給と品質を価格形成の基本としながらも、合理的な費用を「考慮」するというが改正基本法がめざす姿であり、双方合意のもとで当事者間で価格を決定する仕組みを検討する。
具体的な姿はまだ不透明だが、対象品目は関係者の合意で選ぶことになる。今のところ協議会のワーキンググループでは「飲用牛乳」と「豆腐・納豆」の仕組みづくりが議論されている。
一方、小売業者からは法制化に向けては「品目が深闇に広がらないよう歯止めが必要」という意見も出ている。食品価格は競争環境に左右されるとの指摘や顧客に少しでも安く提供するのが小売業者の役割だとの主張もある。
ただ、「それで食料生産が持続可能なのか?」を問うのが今回の法制化の狙いだと農水省は説明する。かつて量販店で牛乳の安売りが問題となり、独占禁止法の不当廉売で規制できないかという議論があったが、数日間の牛乳の特売に対して罰則の対象とすることが難しいことや、そもそもセールは業者の努力の賜物だとされて独禁法の限界も示された。
こうした独禁法に対して今回の法制化では、食料生産が持続可能な価格となっているかを法律で検証できるようにするという。言い換えれば、関係者が合意した「コスト指標」が考慮された価格となっているかをチェックできるようにする。「他の業界ではやっていないこと」(農水省)で、飲用牛乳や豆腐・納豆は生産・製造の持続可能性が危機的だとの認識が共有されて議論が先行しているといえる。
ただし、費用が考慮された価格形成が実現しても所得が増加しないと消費者はそれを買えない。そのため食料の持続的な供給のためには「賃上げによる購買力の確保」も課題としているほか、低所得者など経済的弱者への食品提供への支援も求められる。
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