「食料自給力」の確保へ5年で集中構造転換 基本計画 食農審27日答申2025年3月24日
2024年6月に施行された改正食料・農業・農村基本法のもとで初となる「基本計画」を審議してきた食農審は3月27日に本審議会を開き江藤農相に対して基本計画を答申する。
3月21日に開催された企画部会
今回の基本計画は、激動する国際情勢や人口減少など国内状況の変化に対応し、さらに短期的な農業や食料に関する課題が発生しても対応できる農業構造にするため、計画期間を5年間とした。その初動5年で農業の構造転換を集中的に進める。
食料自給率はカロリーベースで現在の38%を5年後に45%に引き上げることを目標とする。摂取カロリーベースの食料自給率目標も設置し、現在の45%を53%へと引き上げる。
農地面積は412万ha(2024年427万ha)を確保し、49歳以下の担い手数を現在の水準(2023年4.8万人)を維持する。
生産コストの低減を図るため農地の大区画化(1ha以上)やスマート農業の導入やDXの推進、農業支援サービス事業者の育成も図る。3月末までに策定される「地域計画」に基づいて担い手への農地の集積、集約化を進める。
また、国内の人口減少で需要減が見込まれることから、輸出を促進し「海外から稼ぐ力」を強化することで国内の食料供給能力を確保することも打ち出した。
米政策は2027年度から根本的に見直し、水田活用の直接支払交付金を水田、畑を問わず麦、大豆、飼料作物など作物ごとに支援へと転換する。また、米は輸出の拡大に向けて低コストで生産できる産を新たに育成する。2030年に現在の8倍の35万t(精米)の輸出を目標に掲げる。
3月21日に開かれた食農審企画部会では委員の意見を反映して修正された基本計画案が示され、委員からは異論は出ず、今後の実践に向けた課題などが指摘された。
弁護士の林いずみ委員は米政策について「米の輸出を食料安全保障のバッファーとして位置づけ
今後は価格政策的な観点での減反的な政策調整はやめていくことを期待したい」と述べたほか、農業者自らの判断による需要に応じた生産が合理的と指摘し、市町村の再生協が個々に生産数量の目安を通知するは「自らの経営ではない」として農水省に指導を求めた。
これに対し農水省は地域の再生協による主食用米の生産量の「目安の設定は任意であり、指導は難しい」と回答、農水省としては需給状況についての情報発信に努めるとした。
今回の基本計画では多数の目標とKPI(重要業績評価指標)が設定される。今後は最低でも1年に一度はKPIの達成度を検証しPDCAサイクルを回していくことが重要になる。
農林中金総研の小針美和主任研究員は「今回の基本計画のキーワードは地域計画」だとし、まずは3月末までに策定される各地の地域計画の検証が重要になると指摘した。
そのほかKPIの達成状況はそれぞれの地域状況をふまえて検証することが必要で、達成に向けた改善策に対する地方の負担増への配慮が必要との意見もあった。
また(株)日本農業の内藤祥平代表取締役はKPIのなかには「達成できず壁にぶつかるものも多いのでは。だからこそPDCAサイクルを回す必要がある」と指摘して、農業の構造転換に向け、同じ施策の連続ではなく「構造転換へのギアを上げるため、より強度を強める施策を考えるべき局面も出てくる」として、達成状況の検証とともに、打つべき対策の検討も必要になると提起した。
今回の基本計画では、農業に対する国民の理解醸成を重視しており、中嶋康博部会長は「国民の理解がなければ施策は駆動しない」(3月14日の企画部会)と指摘している。今回の会合で宮島香澄日本テレビ解説委員は「ここから先は私食べる人、あなた作る人、ではやっていけない。(国民)それぞれが生産や流通に近づいて思いを持っていくことが重要」と話した。
山梨県の中山間地域で営農するファーマンの井上能孝代表取締役は「この5年間、危機感を持って取り組むべき。ピンチをチャンス変えていく中山間地域もある」としつつ、都市と地方、生産者と消費者での「すれ違いをなくし相互理解を深めるべき。農業現場で何が起きているか、知ってもらうことが大切」と強調した。
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