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【提言】アベノミクスで農業は守れない 村田武・九州大学名誉教授2013年7月24日

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・一層の規制緩和へ
・TPP参加を前提
・輸出は水産、加工品
・農水産業空洞化への道
・従来の政策と矛盾

 総選挙が終わり、いよいよ政策実行の段階に入った。TPP交渉は23日のマレーシア交渉から日本は初めて参加することになる。TPPは国の形を変えかねず、農業も壊滅的な影響が懸念される。安倍政権が打ち上げた「攻めの農林水産業」だが、取り立てて目新しさはなく、日本農業をどうしようとしているのかが見えない。「これでは日本農業を守れない」と主張する村田武・九州大学名誉教授に問題点を整理してもらった。

農業・農村の持続と逆行 「攻めの農林水産業」

◆一層の規制緩和へ

村田武・九州大学名誉教授 自民党安部政権は、「アベノミクス」の「第3の矢」成長戦略の参院選公約に、「強い農業」をめざして、「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」を掲げた。[1]農地集積を進め10年間で担い手利用面積が8割となる効率的営農体制を創る[2]2020年に6次産業の市場規模を10兆円(現状1兆円)に拡大する[3]同じく20年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円(現状5千億円)にするとしている。 その目玉は、都道府県に「農地中間管理機構」(仮称)を設立させ、この機構が放置された農地を借り受け、用水路、排水路を整備し、規模拡大をめざす農業生産法人などにまとめて転貸する新制度にあるという。それに要する国家予算は、年10数億円から100倍以上、1000億円台に拡大を検討するという。
 札付きの新自由主義論者はさっそくこれに飛びつき、「農業所得の倍増は大胆な改革なくしてできない。農地の集約は当然だが、一番大事なことはコメの減反をやめることだ。大規模農家にコメをつくりたいだけつくらせ、輸出産業として育成すれば、雇用や所得が生まれる。企業の農地所有の自由化は不可欠で、耕作放棄地には課徴金を科す必要がある。そうしないと都道府県による農地集約は絵に描いた餅に終わる。…安倍政権は規制改革に本気をだせ!」とけしかけている(国際基督教大学客員教授八代尚宏「日本経済新聞」(2013年6月24日)。
 「既得権益」打破に執念を燃やす竹中平蔵氏は、「アベノミクス成長戦略では、岩盤規制といわれる農業への企業参入や混合診療など、大玉は先送りされた」と、安部政権に不満をあらわにする始末である。「岩盤規制」とは誰の造語か。言いも言ったり、原発再稼動に固執する電力会社の地域独占に代表される独占企業の既得権益こそ打破すべき既得権益であろうに、社会福祉や農業保護など所得再配分政策をひとしなみに既得権益とし、その破壊が容易でないことに腹を立てて「岩盤規制」などとあげつらっているのは噴飯ものである。


◆TPP参加を前提

 安倍政権は、本年1月29日に林芳正農水相を本部長とする「攻めの農林水産業推進本部」を設置し、「攻めの農林水産業」の具体化に向けての「3つの戦略」と9課題を掲げ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成長戦略に盛り込んだ。わかりやすく整理すると図のとおりである。
 重点課題の一つである生産現場の強化では、担い手への農地集積/耕作放棄地の発生防止・解消の抜本的な強化、を掲げ、「農地集積、耕作放棄地の解消に係る数値目標を設定」して、それを実現する政策手法として「農地の中間的受け皿」を整備・活用するという。これはまさに、TPP、すなわち「重要品目すべての例外なしの関税撤廃」による全面的な基幹的農業の後退が避けがたいことを前提にした「戦略」にちがいない。すなわち、これまでの、重要品目の国家貿易と高率関税による国内農産物価格の維持を前提にした経営所得安定対策の維持が困難になることが避けがたいことを織り込んだ「戦略」といわなければならない。うえにみた自民党の「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」は、その具体化であろう。


◆輸出は水産、加工品

 「農林水産物・食品の輸出を2020年までに2倍強の年1兆円に」が「攻めの農林水産業」の目玉のひとつである。
 大手メディアは、攻めの農業でもアベノミクス礼賛に熱中している。「朝日新聞」(4月25日)が、「すし店とタッグ 日本米を世界へ」と題して、国内コメ卸最大手神明の藤尾益男社長に、「TPPで日本米の価格は一気に下がり、輸出1000トンを5万トンに拡大させる」と語らせれば、「日本経済新聞」(5月21日)が、「日本のコンビニ東南アで進出。食が武器、若者に浸透。ファミマはトムヤムクン味おでん」と報じている。しかし、図「日本の農林水産物・食品の輸出(Made In Japan)」にみられるように、水産物1700億円を3500億円、加工食品1300億円を5000億円の合計8500億円(85%)に輸出拡大のポイントがおかれている。農産物そのものについては、コメ・コメ加工品130億円を600億円、青果物80億円を250億円、牛肉50億円を250億円にといういわば「控えめ」な目標しか掲げられていない。

日本の農林水産物・食品の輸出額◆農水産業空洞化への道

 「攻めの農林水産業」は何か新しい農業戦略ではない。田代洋一氏が「攻めの農業で日本は生き残れるか?」(『農業と経済』2011年5月臨時増刊号)で、その系譜を明らかにしているように、小泉構造改革以来の、輸出と規制緩和・構造改革にすべてを賭ける新自由主義の常套戦略である。
 さて、この間の企業的農業経営の成長のもとで、「プロ農業者」と自称する勢力からの政策提言が相次ぎ、例えば月刊誌『FARMER’ BUSINESS農業経営者』浅川芳裕副編集長(『TPPで日本は世界一の農業大国になる』KKベストセラーズ、2012年)の「発言・農家はTPPを歓迎していい」を「毎日新聞」(4月18日)が紹介している。そこでは、北海道酪農には国内の「関所」を開放させて、本州への飲用乳販売で売り上げを伸ばせる余地があるではないかと北海道農業に都府県との産地間競争を煽っている。
 兵庫県のF食肉販売業者は「神戸ビーフ」の香港やアメリカへの輸出が好調で、月に20【?】30頭だという。「毎日新聞」(5月12日)は、近江牛・京野菜・鮮魚など『関西の食』をセットで輸出するために7月に「関西『食』輸出推進事業協同組合」を関係業者が発足させると報道している。米卸神明の藤尾社長がいうように、TPPで国内米価が下がれば米のそれなりの輸出拡大はあるだろう。しかし、「攻めの農林水産業」のめざす輸出拡大は、米など基礎的食料農産物ではなく、水産業者や、加工原料を輸入に依存するブランド食品メーカーを担い手とする「食品」の輸出であるところにある。
 あえて安部政権「攻めの農林水産業」の新しさは何かといえば、この点にあるといえよう。その意味では、山下一仁氏流の農地集積・稲作大規模経営による米生産費引下げ・低価格「良食味」ジャポニカ米輸出で論じられてきた輸出農業論は乗り越えられている。
 これらの意味するところはどういうことか。わかりやすくいえば、これは、農業生産者・農協に担われる農業(アグリカルチャー)を解体し、食品関連産業と大規模量販店主導の食産業(アグリビジネス)に再編にしようというショックドクトリンである。残すべき農業生産者は、食品関連産業の求める低価格・高品質農産物の供給者であり、基幹的担い手たる「6次産業化事業体」に出資できる経営者だということだろう。
 淺川芳裕氏が狙っているのは、まさにそのようなショックドクトリンで生き残る経営像の提示であろう。これには、食品加工・流通企業の再編(食品製造流通における大規模食品製造業・大規模量販店の成長)が中央卸売市場制度の形骸化(卸売市場のセリによる価格形成機能の喪失)をもたらし、加えてIT流通革新によって、農協共販を主流にした農産物流通・農協の経済事業を後退させ、農産物流通のあらたなインテグレーターが農事組合法人や農業生産法人として登場し、そしてそれにインテグレートされるなかで経営展開を図ろうとする農業経営が登場していることが背景にある。それが新たな農業経営者像としてもてはやされるのである。

◆従来の政策と矛盾

 「北海道新聞」社説(5月21日)は、「攻めの農業、掛け声だけで中身なし」と題して、「夏の参院選を前に、TPP交渉参加に不安を募らせる農家をなだめようという意図が露骨ではないか」、「国内1次産業がTPPで被る打撃を輸出でカバーできるという想定は過大評価だろう」と厳しい批判を行った。そのとおりだろう。
 安倍政権は、TPP交渉では「農業の聖域」が守れず、重要農産物関税の撤廃(ゼロ関税)を逃げられないことにほお被りしたまま、交渉妥結・批准に持ち込もうというのであろう。その場合には、現行の、つまりWTO農業協定で認められた国境措置(米・麦・乳製品の国家貿易や重要農産物の高関税)の放棄を迫られるなかで、それを前提にしていた国内価格政策(関税収入が財源の肉用子牛生産者補給金など)の維持には膨大な追加予算が必要になることを覚悟しているのであろうか。
 そうではなさそうである。アベノミクス「攻めの農林水産業」と足並みを揃えて発表された自民党農林水産戦略調査会・農林部会合同会議が4月25日に発表した「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略―政策総動員と現場の力で強い農村づくり」では、「国土保全や水源涵養、集落機能など、農業・農村が果たしている多面的機能を維持することに対して直接支払いを行うため『日本型直接支払い制度』の法制化を進める」とした。民主党政権の農業者戸別所得補償制度を継承した「経営所得安定対策」や甘味資源、畜産物に対する価格制度をどうするのかにはまったくほお被りである。同党参院選公約では、この「日本型直接支払い制度の法制化」さえ消えている。
 輸入禁止的高関税と国家貿易による国境措置と、国内価格支持対策で支えられてきた国内農産物価格はTPPによる国境措置の放棄によって価格破壊圧力にさらされ、関税収入がなくなるが、そのもとで経営所得安定対策、内外麦コストプール、砂糖価格調整制度、牛肉関税収入を特定財源とする肉用牛子牛等対策など、これまで国内農業を支えてきた価格政策や直接支払いはどうなるのか。自民党政権は、これらを現行支持水準を維持するには、どれほどの予算膨張を覚悟しているのか。覚悟できないから、当面ほお被りということなのであろう。


○「攻めの農林水産業」の具体化に向けての「3つの戦略」と9課題
(1)需要のフロンティアの拡大
 1.国別・品目別輸出戦略の構築
 2.食文化・食産業のグローバル展開
 1+2=重点課題2

(2)生産から消費までのバリューチェーンの構築
3.多様な異業種との戦略的連携
4.新品種・新技術の開発・普及、知的財産の活用等
 3+4=重点課題3

(3)生産現場(担い手、農地等)の強化
5.人・農地プランの戦略的展開
6.担い手への農地集積/耕作放棄地の発生防止・解消の抜本的な強化
 重点課題1
7.大区画化などの農業基盤整備の推進
8.森林・林業:新たな木材需要の創出と国産材の安定供給体制の構築
9.水産業:水産物の消費・輸出拡大、持続可能な養殖の推進

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