【提言】七つの難局、七つの課題 規制改革会議の議論から 大妻女子大学教授・田代洋一氏2013年11月14日
・厳しい情勢認識新たに
・歴史と経験、復興で発揮
・地域を熟知、農協の強み
政府の規制改革会議は「農業者・消費者に貢献する農協の在り方」の検討項目に掲げ、「コンプライアンス改革」と「農政における位置付けの明確化」の二点について年内にも結論を得るとしている。前者は内部監査制度で透明性が確保されているか、後者は行政が担うべき役割まで農協が負っていないか、を問題にしている。前者については、農水省は5月段階で、外部監査を義務づけてはいないが全中監査を必須として、そこには公認会計士30名が入っており、業務監査もしている旨を答弁している。後者は後述する生産調整政策の廃止と絡むと大きな問題になる可能性がある。
地域に開かれた農協へ
◆厳しい情勢認識新たに
これらも含めて、農協を取り巻く客観情勢には極めて厳しいものがある。
[1]まず信用・共済事業分離論。先の参院選で「維新」「みんな」の公党が農協攻撃を公約のトップに掲げた。とくに「みんな」は分離論を明示した。分離は総合農協の解体に通じる。またアメリカは執拗に協同組合共済の民間保険とのイコールフッティングを求めている。
[2]参院選直後に山形の農協に公取委調査が入った。手数料設定に関して独禁法違反があるという疑いだが、先の参院選における野党候補支持に対する報復措置のにおいが強い。このことは、農協の独禁法適用除外の見直しや、1地域1総合農協のエリア規制の取り払い(農協間競争)の問題につながりかねない。
[3]TPP交渉で聖域としてきた農産5品目の洗い直しを行い、加工・調整品の関税を外すなどしたら生産調整がなりたたなくなり、価格の暴落が起こる。産業競争力会議が生産調整の廃止を主張し、農水省も検討に入った。これは前述の農協の「農政における位置付け」の問題につながる。今の農政にとって農協の最大の存在意義は生産調整政策の実働部隊の点にある。その生産調整が廃止されれば、農政にとって農協はご用済みだ。
[4]TPPや生産調整廃止による生産縮小・価格下落は農協の販売手数料収入を激減させ、農業に軸足を置いた産地農協としての存立はいよいよ危うくなる。
[5]代わって六次産業化が推奨され、各地にファンドがたちあがっているが、それは端的に農外企業、農外金融機関の農村進出のプッシュである。アベノミクス農政は農外企業の農業進出の促進を目的としており、農協事業を圧迫する。
[6]農協は農地保有合理化事業の主体になり、農地利用集積円滑化団体の過半を担うに至った。しかるに今般の農地中間管理機構は、〈県―市町村〉の行政ラインを軸とし、農協の農地への関与は人・農地プランを介したごく間接的なものになる。
[7]もしTPP妥結となれば、大震災被災地にみられるように、大量離農が避けられず、それは農協の事業・組合員基盤を浸食し、農村コミュニティそのものを崩壊させかねない。
(写真)
規制改革会議であいさつする安倍総理(首相官邸HPより)
◆歴史と経験、復興で発揮
問題山積だが、そういう混迷の時代には歴史と経験を振り返る必要がある。
農村を歩いていて、まずトップがワンマンの農協はだめだ。優秀な職員がいても萎縮して自発的に考えて行動できない。農協を訪ねて店舗に入った途端、窓口職員の挨拶、案内等の態度で、その農協の士気、経営の善し悪しは透けて見える。風通しのよい企業風土を育むことがまず必要だ。
東日本大震災の年度にもかかわらず農業関連事業および経営全体の経常収支を黒字にしている被災地農協もある。まず多額の共済金が迅速に支払われた。それが農協貯金にまわった。それらを踏まえて、農協は行政とともに交付金事業にチャレンジするとともに、その使い勝手の悪いところはJAグループ支援金も使い、独自の園芸団地の造成等に乗り出した。
国の交付金事業への対応にあたっては、営農経済センター長が集まり、迅速適切に要求を絞り込んだ。日頃の観察の賜である。
土地利用型農業の担い手確保については、階層分化を見越して、集落営農を育成するとともに、法人化にあたっては会社法人を推奨し、企業的経営・マネジメントを指導の中心にしている。内部だけからの人材確保は困難とみて、農業振興基金を取り崩して新規就農者の農家研修や機械取得等を支援している。大震災後の困難ななかで合併記念誌を出して、再起を誓ったりしている。
(写真)
東日本大震災でのJA女性部の支援活動
◆地域を熟知、農協の強み
これらの実践からいくつかの示唆を得た。
[1]系統農協の強みが発揮された。全国連、県連、単協の縦の連携で、緊急物資支援、復興支援ボランティアの組織化、人材派遣、資材調達、JAグループ支援金、東電補償支援等がなされた。新たな県産品の開発や県間協同への取組みもみられる。
[2]総合農協だからこそ、この試練に耐えられた。信用・共済事業が農業・生活関連事業を経営的に支え、全体として黒字確保した。もし信用・共済事業が分離していたら、農業再建の役に立たないし、農業関連だけでの農協再建は不可能だった。信用・共済分離論は今日の農協のセーフティーネットを外し、農村を資本のビジネスチャンスの場にするものに他ならない。
[3]多くの単協は支店再建、直売所再開から取り組みだした。それは支店や直売所が農村の生活インフラ・ライフラインになっているからだ。JA全国大会は「支所拠点化」を打ち出したが、それは農協経営にとっての「拠点」であるだけでなく、地域生活の「拠点」の含意でもある。震災によりコンビニが社会インフラに躍り出た。多機能性や営業時間ではコンビニに強みがあるが、農協には地域社会を熟知している「ひと」の強みがある。
[4]農業関連事業は農業構造の激変に備える必要がある。分化する農家を再結集するのは集落営農形態だろう。大規模経営・法人経営に対しては企業マネジメントの指導、異業種情報・交流の提供が欠かせない。農業内部からの6次産業化にあたっても、連合会と組んだ取組みが不可欠である。
[5]農家を農業に繋ぎとめる工夫とともに、それでも避けがたい大量離農については、土地持ち非農家化しても農協組合員に留まってもらう工夫が大切だ。それは准組合員対策、ひいては地域住民を農協に迎え入れることにも通じる。たんなる利用者としてではなく、組織運営への何らかの参加者としての取組みが欠かせない。
[6]先の会計監査問題については、その如何に関わらず農協経営の透明性、情報公開性を格段に高める必要がある。各単協とも詳細なコンプライアンスを公表しているが難しくて読めない。それよりも不祥事を繰り返さないこと、そのためには組織の風通しをよくすること、起こった場合には組合員に事情を公表することが大切だ。「弁済したから公表しなかった」といった内輪のもみ消し話ではすまされない。
[7]農政にとって生産調整の廃止は農協の存在価値を低める。趨勢として政権党の都市政党化は必至だ。今までのような形で農政・政治に頼ることはできない。他方で21世紀の農業・農村が直接支払い(所得再配分)政策を必要とすることは先進国に共通した傾向だ。
それを支えるのは農業・農村に対する国民的支持である。そのためには農業・農村の政治的自立が欠かせない。部外者で農協のことを良くいう人はあまりいない。理由は多々あろうが、閉鎖的とみられていることが大きい。それだけ協同がしっかりしているということでもあるが、これからは地域に開かれた農協になることが最大の課題になる。
(写真)
JA仙台のファーマーズマーケット。各地から「協同」のメッセージ。被災直後は貴重な食料供給拠点となった
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